「世界トップクラスの発明王」が語る、知財が生み出す光とは。
大嶋光昭(パナソニック株式会社)×西村真里子(株式会社HEART CATCH)

▼オープンイノベーションの現状

西村:大嶋さんも私も「100BANCH」(*1)のメンターを担っていますが、大手企業とベンチャー企業の「オープンイノベーション」についてはどうお考えでしょうか?

大嶋:今の時代に日本で大きなイノベーションをおこすには、ベンチャーだけに任せるのではなく、成熟企業の力を上手く使うのが早いと思います。日本のスタートアップの投資規模は0.5億円からせいぜい10億円程度が多い。一方、欧米は歴史的に芸術分野で築き上げられたパトロン文化があるので投資金額の桁が違います。小規模のスタートアップなら国内でもいいと思いますが、大型のスタートアップで成功を狙うなら海外に出るのがいいのではないでしょうか。
マインドは別として、ベンチャーの技術力はまだまだ大企業の研究者にはかないません。ただ、大きな組織では「0→1(無から有を生む)」型テーマが生まれにくい。昔はイノベーションを起こさなくても利益を上げることができましたから、社内にイノベーターがいなくてもよかった。しかし今は事業に余裕がなくなってきているので、投資効率が高い「0→1」型のイノベーションとなる技術やソリューションを生み出さない限り日本企業は復活しません。累積で数千億円の事業収益を生むような大きなイノベーションへの挑戦はリスクを伴いますので、技術や人材に対する目利き力や経営者の勇気も問われます。

西村:例えばArm社が買収した「Treasure Data」のように大きくプレーしたい日本のベンチャーが長期プランを持ってシリコンバレーで挑戦したり、あるいは「NeuralX」のようにUCLAでパテント申請してからスタートアップする企業もあります。大企業のトップの意識も大分変わってきているように感じられますね。

▼「発明とイノベーション」の違いは「出口」

大嶋:「イノベーターが参加しないで作ったイノベーション組織」がよくありますが、殆んど機能しませんね。そこに多いのは、「アドミニストレーター(管理者)」タイプの人材がトップに立っているケース。これまでイノベーションを全く起こしたことがない人がトップに立っても、本当のイノベーションは起こせません。
発明とイノベーションの違いは「出口」があるかどうかです。アカデミックなレベルが高い人は発明はできますが、出口となる市場や事業が見えていない場合が多いと思います。イノベーターは、アカデミックなレベルとしてはトップではないかもしれませんが、出口が見えているので無駄な研究をあまりしません。出口が見えるには訓練が必要ですが、私の場合は、無線研で学びました。無線研では出口がない研究はさせてもらえなかったからです。独立予算だったこともあり、研究費を確保するためにどういうシーンで自分の研究が役立つかを日々考えるように追い込むんですね。出口は単なるタイミングの問題です。どんな技術でもいつか必ず出口のタイミングが来るとなれば、自らそのタイミングを考えるようになります。それは無線研を作った松下幸之助(パナソニック創業者)の狙いでもあったのでしょうね。
私は挑戦を続ける内に、段々と出口のタイミングを読むのが得意になっていきました。短期的成果を狙う場合は役に立ちませんが、あらゆる分野の技術史の周期を追っていくと長期的なトレンドが見えてきます。技術の進歩には長期的な大きな波と短期的な小さな波があり、自分の現在の技術が成長期なのか成熟期に入っているのか、これから先に必要となる技術なのかがわかるようになります。

(*1)「100BANCH」:パナソニック、ロフトワーク、カフェ・カンパニーが「100年先の世界を豊かにするための実験区」として渋谷に開設した複合施設。35歳未満の若者リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラムにて、大嶋や西村ら各分野のトップランナーがメンターを務める。

プロフィール

大嶋光昭   Mitsuaki Ooshima
パナソニック株式会社

パナソニック株式会社 名誉技監 イノベーション推進部門ESL研究所 所長、京都大学特命教授、(公財)京都高度技術研究所フェロー。パナソニックの家電・デバイス・B2B事業分野においてジャイロセンサー、手振れ補正、デジタルTV放送(日米欧規格)、高速デジタル通信(携帯通信規格)、光ディスクの著作権保護技術、IoT白物家電等、世界初の技術の開発と基本特許の発明を行い、この技術の事業化を数多く成功させている多分野型発明家。シリアルイノベーターと称されている。現在も研究開発・事業化活動を続け、社内で若手のイノベーターを育成するとともに、大学でも後進の指導にあたる。
2003年恩賜発明賞、2004年紫綬褒章、2007年大河内記念生産賞、2008年経済産業大臣発明賞、2012年市村産業賞、2020年旭日小綬章を受章。
著書:「ひらめき力の育て方」(2010年亜紀書房)、共著本:「考え続ける力」(2020年筑摩書房)

西村真里子   Mariko Nishimura
株式会社HEART CATCH

株式会社HEART CATCH 代表取締役、プロデューサー。国際基督教大学卒。日本アイ・ビー・エムでITエンジニアとしてキャリアをスタート(プロジェクトチームで米国特許取得)。その後、アドビシステムズでフィールドマーケティングマネージャー、バスキュールでプロデューサーを経て2014年に株式会社HEART CATCH設立。ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーをつなぐ“分野を越境するプロデューサー”として自社、スタートアップ、企業、官公庁プロジェクトを生み出している。

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