「世界トップクラスの発明王」が語る、知財が生み出す光とは。
大嶋光昭(パナソニック株式会社)×西村真里子(株式会社HEART CATCH)

▼これからは機能と感性のハイブリッド

西村:これからものづくりや研究の世界に飛び込もうとする若い人たちが大事にすべき視点などはありますでしょうか?

大嶋:私たち先輩技術者がこれまで追求してきた「機能価値」とは別に「感性価値」が重要になってきましたが、これは若い人が得意とするものでしょう。今、勢いのあるGAFAなどの企業はどちらかといえば感性価値を武器にして大きくなってきたといえます。

西村:日本でも「大企業の技術力」と「スタートアップならではの感性」を繋ぐことで、面白いイノベーションが起こせるのではないかと言われていますね。

大嶋:「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた1980年代は、世界でアンチパテント(*2)と呼ばれるトレンドがあり、モノづくりの上手い日本が大きく成長を遂げました。つまり「1→10(開発、設計)」や「10→100(量産化、事業化)」をひたすらやって勝ってきたのです。そのときに活躍した技術人材を「0→1」にシフトできればよかったのですが、そこが難しかった。1990年代になると世界のトレンドがアンチパテントからプロパテント(*3)へ移行し、日本が得意な「モノ(有形価値)」から不得意な「コト(無形価値)」へシフトして、日本企業にもイノベーションが求められました。イノベーションには多様性が重要となりますが、日本は文化的にも地政学的にも同質性が強かったため、早くから多様性を受け入れてきた欧米と大きな差がついてしまった。このこともあり、大きなイノベーションがおこらないまま、後に「失われた20年」と呼ばれる長い停滞期に入ることになったのです。

西村:多様性を大切にすることと同時に、「違和感」を持つことも重要なように思います。周りが当たり前にしている中で何かひっかかるものがある。そうした自分の内にある経験や感覚を元にスタートアップする人も多いですね。

▼違和感を大切に、「リンク力」を磨く

大嶋:日本は同質性の強い社会であるが故に、小さな違和感つまり兆候を見過ごしがちですが、それを「なんでだろう?」という視点でとらえると課題に気がつくことができます。そうやって自分の内在的テーマを追求する人が実は一番強い。自分の経験から生まれたものはブレませんから。
そこで大事なことは、この観察力に加え、一見関係ないもの同士を結びつける「リンク力」です。例えば、私は日々観察し、観察で得たことをリンクさせて思いついたことを手帳にメモしています。先入観にとらわれず、どうしたら世の中をよくできるのか、どういう技術を使えばもっと便利になるのか、常に考えて過ごしてきました。観察力というのは先ほどの感性力と関連しますが、科学者でも文系の会社員でも大事です。新しい技術や事業の開発だけでなく、既存の技術や事業を組み合わせていく場合でも、小さな兆候をとらえて人と違う発想をどれだけできるかが重要。それには好奇心が大事で、歳を取ってもいかにこの好奇心を持続させられるかが鍵です。

西村:今は大嶋さんが若手の育成において「みにくいアヒルの子」を守る「お母さんアヒル」のような存在になっていますね(笑)

大嶋:私のいた無線研は自由に新しい研究ができましたが、技術者を見る目は厳しかったと思います。ホームランを狙うことは大事ですが、三振を恐れずに挑戦を続けること。そうして成功を積み重ねることで「与信額」を上げていくことも必要です。私の場合、若い頃に数百万円の小規模な予算で研究開発を始めましたが、実績を重ねることにより「与信額」が上がり、十数年後には数億円の大規模な予算による研究開発も任されるようになりました。それは成功した実績があるからできたことです。
大企業の中では新しいことに対する抵抗が大きいため、社内に応援してくれるパトロンを見つけることが大事です。同時に上に立つ人は、いかに目利き力を発揮して若い人のチャレンジを見守れるかが重要です。「0→1」の世界は材料開発に似ていて分岐点が多いため、詳細な年間計画が立ちません。それは決して計画書を作る能力がないということではないんですね。成功体験を重ねた技術者は目利きができるようになるので、次のステップへの分岐点で方向を間違えずに進めます。イノベーターを目指す若手なら、分岐点での進路変更の際に「1」を聞いたら「10」を理解してほしいと思いますが、なかなかついて来てくれません。説明するのは大変なので少なくとも「3」くらいで「10」をわかってほしいんですけれどね(笑)。
いずれにしても、将来ジャンボジェットの機長を目指している人が、セスナ機の練習しかしなければいつまで経ってもジャンボ機には乗れませんよね。最終的にどこをゴールとして日々を過ごすか。そうした「大志」を持っているかどうかは重要ですね。最近はスモールビジネスのスタートアップを志す若い人が多いように思いますが、ジャンボ機を操縦できるような高いポテンシャルを持った人であれば、大きく育てていかないともったいないと思います。

(*2)アンチパテント:独占行為を規制することにより自由な競争と技術の普及を図り、ひいては産業の発達を図るとする政策や考え方。
(*3)プロパテント:アンチパテントとは反対に、特許法による知的財産の保護と独占を重視する政策や考え方。

プロフィール

大嶋光昭   Mitsuaki Ooshima
パナソニック株式会社

パナソニック株式会社 名誉技監 イノベーション推進部門ESL研究所 所長、京都大学特命教授、(公財)京都高度技術研究所フェロー。パナソニックの家電・デバイス・B2B事業分野においてジャイロセンサー、手振れ補正、デジタルTV放送(日米欧規格)、高速デジタル通信(携帯通信規格)、光ディスクの著作権保護技術、IoT白物家電等、世界初の技術の開発と基本特許の発明を行い、この技術の事業化を数多く成功させている多分野型発明家。シリアルイノベーターと称されている。現在も研究開発・事業化活動を続け、社内で若手のイノベーターを育成するとともに、大学でも後進の指導にあたる。
2003年恩賜発明賞、2004年紫綬褒章、2007年大河内記念生産賞、2008年経済産業大臣発明賞、2012年市村産業賞、2020年旭日小綬章を受章。
著書:「ひらめき力の育て方」(2010年亜紀書房)、共著本:「考え続ける力」(2020年筑摩書房)

西村真里子   Mariko Nishimura
株式会社HEART CATCH

株式会社HEART CATCH 代表取締役、プロデューサー。国際基督教大学卒。日本アイ・ビー・エムでITエンジニアとしてキャリアをスタート(プロジェクトチームで米国特許取得)。その後、アドビシステムズでフィールドマーケティングマネージャー、バスキュールでプロデューサーを経て2014年に株式会社HEART CATCH設立。ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーをつなぐ“分野を越境するプロデューサー”として自社、スタートアップ、企業、官公庁プロジェクトを生み出している。

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