オンライン診療のイノベーター「ネクイノ」がもたらす、医療DXの未来
-INNOVATOR INTERVIEW- 石井健一 (株式会社ネクイノ/代表取締役)

▼「オンライン診察×薬」モデルを確立したスマルナ

出村:現在の主力事業であるスマルナが生まれた経緯について聞かせてください。

石井:創業時から、オンライン診察×医薬品の配送のモデルを確立したいと考えていたのですが、それに際して医療の観点から3つの条件を設定していました。それは、ユーザーのニーズが明確であること、診療のガイドラインが整理されていて専門家以外でも対応できること、そして、安全に摂取できる薬であることの3つです。他方、ビジネス側の視点で意識していたことは、ライフタイムバリューが伸ばせる領域であるということでした。例えば花粉症の薬は先の3条件には当てはまりますが、1年のうち3ヶ月程度しか使わないものですし、EDの治療薬などにしても最初の処方で数錠お渡しした後、次に使ってくれるのはいつになるのかわかりません。こうした2つの観点から考えた時に、オンライン診察×薬のモデルと最も相性が良いと感じたのがウィメンズヘルスケアの領域で、特にピルの処方には多くの「不」があったんです。

出村:具体的にはどんな「不」が見えていたのでしょうか?

石井:ピルの処方のために婦人科へ行くことに抵抗がある方は多いですし、家族やパートナーから止められることもあります。また、医師のリソースの問題もありました。例えば高血圧症の患者さんは日本におよそ1000万人いると言われているのですが、それを診ている医師は16万人程度です。一方で、日本の産婦人科医約1万人に対し、婦人科の診察対象者は約1,600万人にのぼります。ピルや避妊に関わる診察は専門医でなくても対応が可能なので、そこをスマルナがカバーできれば産婦人科医のリソースを空けられるのではないかという考えがありました。

オンライン診察でピルを処方するアプリ「スマルナ」

 

出村:スマルナのユーザーから届いた声で印象的なものがあれば教えてください。

石井:2年間定期便を使って頂いたユーザーの方が、ある病気によってピルの服用を継続できなくなってしまったのですが、最後に「スマルナと出合えて幸せでした」というメッセージを送ってくださったことが印象に残っています。また、プライベートな事情で緊急避妊薬が必要となった10代の方の事例があります。その方は地方に暮らしているのですが、イベントの発生が土曜日であり、かつ近隣に医療機関がなく、スマルナに参加してくださっている担当医師と協業して大至急お薬をお届けしたんです。その方はご両親には内緒で受診しており、持ち合わせがないという状況だったのですが、後日アルバイトをして得たお金が振り込まれ、同時に御礼のメールも頂きました。どちらもスマルナをやっていて本当に良かった思えたエピソードですね。

▼オンライン診療は日本でも浸透するのか?

出村:世界的に進んでいるオンライン診療ですが、今後は日本においても広がっていくとお考えですか?

石井:医療の世界には「オレゴンルール」という有名な考え方があります。これは、「アクセス」「クオリティ」「コスト」の3つをすべて満足させるためには膨大な労力がかかり、患者側のメリットがなくなってしまうという考え方です。例えば、アメリカの医療はアクセスとクオリティを追求した結果、コストが非常に高く、一方でインドなどではコストは安く、クオリティも悪くはありませんが、アクセス面で課題がありました。これらの国においてオンライン診療は、それまでの医療の課題を解決するための手段として広がっていったのですが、日本の場合国民は誰もが保険に加入でき、低価格で最高の診療を受けることができますし、週末以外は行ける病院がないということはまずないですよね。つまり、皮肉にも世界最高峰の医療システムというものが、日本の医療DXを進める上での難しさになっているところがあるんです。ただ、中には3つの要素のバランスが崩れている領域もあり、その最たる例がウィメンズヘルスケアの領域です。スマルナは、心理的、物理的なハードルがあってアクセスしづらい婦人科領域において、オンライン診察という手段を使い、ピルへアクセスしやすくしています。

出村:スマルナの運営で得た知見を水平展開できそうな領域はありますか?

石井:いまお話ししたように日本では偏差値70に相当するような治療が受けられますが、保険制度が使えない予防医療に関しては急に偏差値が20くらいのサービス水準に下がってしまうんです。そういう点から、医療DXを進めていくべき分野の一例として予防的医療があると考えており、スマートウォッチなどによって普段の生活を記録し、医療機関と連動しながら必要な時にアラートを出すといった仕組みがつくれると良いと思っています。特に我々はスマルナを通じて医療機関との関係性やビジネスモデルを確立できているので、このアセットを横展開して医療DXを進めていきたいと考えています。

プロフィール

石井健一   Kenichi Ishii
株式会社ネクイノ

薬剤師・経営管理学修士(MBA)。1978年生まれ。2001年帝京大学薬学部卒業後、アストラゼネカ株式会社入社。2005年からノバルティスファーマ株式会社にて、医療情報担当者として臓器移植のプロジェクトなどに従事。2013年関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科院卒業。2013年医療系コンサルティングファーム株式会社メディノベーションラボの代表取締役を経て、2016年株式会社ネクイノ(旧ネクストイノベーション株式会社)を創設。医療機関の経営改革や新規事業開発が専門領域。

関連企業

株式会社ネクイノ

インターネットを用いた遠隔医療サービスの企画及び運営を行い、世界中の医療空間と体験をRe▷design(サイテイギ)するメディカル・コミュニケーションカンパニー。優れたテクノロジーとUXを「コミュニケーション」を軸に活用し、イノベーションを起こしている。生理や避妊で悩む患者と医師をオンライン上で直接つなぎピルを届ける「smaluna(スマルナ)」や、マイナンバーカードと健康保険証をリンクさせるサービス「メディコネクト」を運営。

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