生命を扱う「3Dバイオプリンティング」の世界、2020年の注目ニュースを振り返る

フィギュアやアクセサリー、家具の補修パーツなどの立体物を作成できる「3Dプリンター」。家庭でも手軽に楽しめるモデルも開発されており、趣味で活用する方も増えていますが、中でも未来世界を予感させるような技術革新が相次いでいるのが「3Dバイオプリンター」です。

バイオとはそもそも「生命」や「生物」などの意味。つまり、3Dバイオプリントとは、生物に類する有機物をプリントする技術のことを言います。

主にその研究開発は生物医学工学の発展に役立てられており、人工皮膚・臓器や、人工肉などは世界中で話題になりました。そんな中、近年ではますますの技術的進歩を遂げ、様々な成果が発表されております。本記事では、その中でも特に話題性の高い3Dバイオプリント関連ニュースをご紹介します。

1.実験動物のいない世界、コロナ研究にも役立てられる3Dバイオプリント身体

3D Bioprinting 2https://skhonpo.com/blog/3dbio2020

現在、私たちの脅威となっている新型コロナウィルス。ノースカロライナ州にあるウェイクフォレスト再生医療研究所のアンソニー・アタラ氏が開発した「チップ上の3Dボディ」は、市場に参入した後に薬剤を回収するリスクを減らすだけでなく、より迅速で経済的な薬剤開発につながる可能性があるとして、現在コロナの研究にも役立てられています。

「チップ上の3Dボディ」とは、多臓器の身体を単純化したモデルを極小のチップ上に再現したもの。通常、多臓器の3Dプリントは極めて複雑であり、その再現には巨大な設備が必要だが、この技術においては、極小サイズにおいてそれらを再現することで、薬剤の実験コストを大幅に下げ、またペースアップすることができるのだ。

実際、この3DボディはCOVID-19の研究にも使用されており、この3Dボディを用いてCOVID-19ウィルスと戦う薬剤のテストがすでに行われているらしい。重要なことは、この実験が”動物モデルを使った実験よりもはるかに役立つ可能性がある”ということ。それが事実ならば、これ以上、薬剤開発のために動物実験を行う必要がないということだ。

これまでのデメリットをカバーし、さらには実験動物の命を救う画期的な3Dバイオプリント。数多くの尊い命のためにも、今後この技術が世界に広まっていくことを願います。

2.宇宙移住への一歩、宇宙空間で軟骨の3Dバイオプリントに成功

3D Bioprinting 3https://skhonpo.com/blog/3dbio2020

「将来、人類が宇宙に移住する」…。そんな話を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。人口爆発や気候変動などを受け、実際に検討され始めているのが“地球外コロニーの形成”。それを実現するためには、宇宙空間における医療問題がカギとなります。

そのために今、低重力環境における3Dバイオプリンティングの研究が、ロシアのバイオテクノロジー企業3DBioprinting Solutionsによって、宇宙で進められているのです。

すでに2018年にBioprinting Solutionsによって打ち上げられた3Dバイオプリンター「Aut」は、国際宇宙ステーションでの軟骨の3Dプリントに成功している。これは宇宙再生医療に大きな可能性を示したとされており、その研究成果が2020年7月に発表され話題となった。

3Dバイオプリンティングの最前線にあたる実験が宇宙空間で行われているなんて、スケールの大きさに驚きです。今後は宇宙開発においても大きな発展を与えてくれるかもしれませんね。

3.音波を使って細胞を3D生成、スイスのバイオテック企業が音響バイオ3Dプリンターを発売

3D Bioprinting 3https://skhonpo.com/blog/3dbio2020

スイスのバイオテクノロジー企業「mimiX Biotherapeutics」が、同社初となる音響バイオ3Dプリンター「CymatiX」を2020年に発売し話題となりました。

同社が独自開発した「SIM(音響誘導形態形成)」という技術を搭載したもので、音波による共振現象を利用し、生物学的な粒子をほんの数秒で高解像度パターンへと組み立て、多細胞構成物を生成するのだという。

音波を用いるために細胞の生存率や活動への影響が少ないことから、組織工学、再生医療、創薬のための製薬研究など、ライフサイエンスの幅広い分野で大いに役立っている。

「音波で細胞が作れるなんて…!」と衝撃を受ける方も多いのではないでしょうか。音波による遠隔動作が可能となり、今後はさらに繊細な造りの3Dプリントが期待できます。

4.死滅へ向かうサンゴ礁を3Dプリンターが救う、バイオプリントサンゴの可能性

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サンゴは二酸化炭素の吸収や海中の光合成において大きな役割を果たしており、人間や動物たちが地球で生きるためには必要不可欠な存在です。しかし、地球温暖化が進み、世界中のサンゴ礁が死滅に向かっていることをご存知でしょうか。

この事態を受け、米国のケンブリッジ大学とカリフォルニア大学は、共同研究に乗り出しました。

2020年4月、科学誌『Nature Communications』に、米国のケンブリッジ大学とカリフォルニア大学が共同でサンゴの微細構造を模倣して微細藻類を速く成長させることができる構造を3Dプリントにより作製したことを発表した。

サンゴを3Dスキャンし、そのモデルを利用して高精度の3Dプリントサンゴを設計。自然のサンゴの入り組んだ構造を作成する上では高精度のバイオ3Dプリンティング技術を使用した。

このように3Dプリントされたサンゴを光合成の主体である藻類の培養器として使ってみたところ、これまで使用されてきた藻類の培養よりも成長速度が100倍速いことが判明。今後のサンゴ礁保全活動において、大いに役立つだろうと注目されている。

サンゴ礁保全のためには今後も多角的な取り組みが欠かせませんが、この開発は光合成を起こす藻類増殖の手助けとなりました。3Dバイオプリントは、医療分野だけではなく、こうした環境問題にも大きな影響を与えているのです。

5.画期的技術、3Dバイオプリンターで心臓を生成

3D Bioprinting 6https://skhonpo.com/blog/3dbio2020

ここまで様々な3Dバイオプリントのニュースをお伝えしましたが、昨年最も人々に衝撃を与えたのはこちらのニュースではないでしょうか。

実は、アメリカにあるカーネギーメロン大学の研究チームが、ヒトの心臓のMRIスキャンから心臓の正確な模型を3Dバイオプリントによって形成することに成功、2020年に論文としてその成果を発表したのです。

この3Dバイオプリントは「Freeform Reversible Embedding of Suspended Hydrogels(FRESH)」と呼ばれており、外科医が手術の前に、患者の心臓の模型を使って練習する方法を提供することを目指して作られたものだ。素材には海藻由来のアルギン酸が使用され、実際に触れてみると形だけでなく触感も本物とほぼ変わらないという。

この技術を用いることによって、外科医が手術前に患者の心臓のコピーを使って練習することが可能になり、難易度が高い心臓手術の成功率アップが期待できます。

また、この研究の影響はそれだけではとどまりません。

さらに、この心臓模型には血液のような液体を流し込むことも可能であり、研究チームは「最終的には生きた細胞によって拍動する心臓を作りたい」と考えているそうだ。しかし、「その実現は10年以上は先」とのこと。生命のコアである心臓を3Dプリントできたなら、人造人間の夢だって見えてくるかもしれない。恐れおののきながら楽しみにしたい。

現在、心臓だけではなく横隔膜や耳、血管などの研究も進められております。まるで画面の向こう側のようなお話ですが、「人間の3Dバイオプリント」も夢ではないかもしれません。

まとめ

3Dバイオプリンティングの原点となる3Dプリンターを考案したのは、実は日本人でした。1980年に名古屋で技術士として働いて小玉秀男氏によって、現在の3Dプリンターの元となる光造形の付加製造が開発されます。当時は「ラピッドプロトタイピング」と言われており、工業製品の試作品利用で活用されていた機器になります。

小玉氏は3Dプリンターの特許申請の出願中に海外へ留学。手続きには審査請求が必要になるのですが、留学中に審査制限が切れて無効になってしまいます。それから少し時間が経った1987年、米国でチャック・ハル氏が同様の特許出願を行い、このタイミングで「3Dプリンター」という名前に上書きされます。

そして2013年、オバマ大統領が3Dプリンターに注目・支援したことで3Dプリンターブームが到来し、現在までの発展を遂げました。

これまで様々な研究者たちが試行錯誤しながら開発してきた3Dプリンターは、きっとこれからも私たちの生活に大きな影響を与えるでしょう。怖いような、楽しみなような…。あまりにも無限の可能性を秘めている3Dプリンターの世界から、目が離せません。

 

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