No.1240

研磨と同時に強靭なガラス膜を纏わせる、石材メーカー発のコーティング技術

薄膜形成方法

薄膜形成方法

概要

「薄膜形成方法」とは、素材の表面を研磨しながら、同時にその表面へ無機系の薄い膜(ガラス膜など)を形成する、ワンステップ・コーティング技術だ(日本特許第7776911号、国際出願PCT/JP2026/011290)。発端は、天山石材株式会社(佐賀県唐津市)が天山石の研磨解析を行う中で、磨くだけで表面にシリカ薄膜が自然形成される現象を発見したことにある。すでに、この事実は学会誌に投稿し確認されている(砥粒加工学会誌68巻2号、2024年8月公開)。同社はこのメカニズムを解明することにより、石材にとどまらず、ステンレスや炭素鋼などの金属、ガラス、半導体関連材料といったあらゆる素材へ適用できる汎用技術として特許化した。
従来の無機コーティング(CVDやPVDなど)では、高温炉や真空装置といった大がかりな設備に加え、「研磨」と「コーティング」の別工程が必要だった。これに対し本技術は、「金属陽イオンを含む水」をかけながら研磨するだけで、常温かつ一工程で処理が完了する。さらに、素材と薄膜の間に強固な化学的反応層(下地の結晶と一体化する構造)が生まれるため、焼き物の釉薬のように圧倒的に剥がれにくく、熱や摩耗にも強い。
SiO₂(シリカ)をはじめ、例えば、TiO₂・ZnO・ZrO₂・ITO・Au・Cuなど目的に応じた無機系薄膜を形成でき、金属の防汚・耐食化から光学ガラスの超平滑化、半導体分野での欠陥修復まで、多様な産業への展開が期待される。

これまで丈夫な無機系コーティング膜を作るには、化学気相成長法(CVD)や物理気相成長法(PVD)など、高温炉や真空チャンバーといった大がかりな設備と複数の工程が必要だった。しかし、これらの方法は、いずれも研磨とコーティングを別工程で行う必要がある。本技術は「金属陽イオンを含む特別な水(陽イオン水)」をかけながら研磨するだけで、研磨とコーティングを同時に完了できる。さらに素材と薄膜の間には化学的な反応層が生まれるため、従来のコーティングと比べて圧倒的に剥がれにくく、熱や摩耗にも強い。天山石のガラス膜は下地の結晶と完全に結合しており、茶碗のガラス膜と同様に、剥がれない。

なにがすごいのか?

  • 研磨とコーティングを一工程で同時に完了でき、高温炉や真空設備を使わずに常温・常圧のシンプルな設備で製造プロセスを大幅に短縮できる

  • 素材と薄膜の間に化学的な反応層が形成されるため、茶碗のガラス膜と同様に下地と完全に結合し、熱や摩耗に強く圧倒的に剥がれにくい膜ができる

  • 天山石だけでなく、鉄材・ステンレス鋼・光学ガラス・半導体など幅広い素材に対してガラス膜の付与が可能で、防錆・耐摩耗・防汚・光沢・電気・磁気付与と目的に応じた薄膜を選択できる

なぜ生まれたのか?

天山石は佐賀県唐津市七山で採れる花崗閃緑岩で、日本で最も硬く吸水率が低い御影石とされる。磨いた後も数十年以上にわたって光沢を保ち続けるという特性が、石材業界では経験則として知られていた。

転機は2024年。天山石材株式会社(長崎総合科学大学)の当時の代表取締役・田中義人氏と共同発明者の産業技術総合研究所の立山博氏は、シンクロトロン放射光(非常に強いX線)で天山石の表面を詳しく分析した。その結果、研磨する工程で石材表面に非晶質シリカ(SiO₂)の薄い膜が自然に形成されていることを世界で初めて科学的に確認した(砥粒加工学会誌68巻2号、2024年8月公開)。「ガラス膜は1200度以上の高温でないと形成されない」という従来の常識を覆す発見だった。

この現象を天山石だけの特殊現象にとどめず、無機系コロイド粒子の表面電荷を制御するという原理として汎用化し、さまざまな素材・コーティング材料の組み合わせに応用できる薄膜形成方法として特許化するに至った。

なぜできるのか?

そのままでは反発してくっつかない――マイナスの電気同士の斥力

膜の素になる超小さなガラスの粒(SiO₂コロイド粒子)と、磨く対象の素材表面は、どちらもマイナス(−)の電気を帯びている。磁石のN極とN極のように、電気のマイナス同士は互いに押し跳ね返し合う(斥力)ため、そのままでは粒が表面にくっつかない。この反発がある限り、研磨しても膜は形成されない。

陽イオン水がマイナスの反発を打ち消し、粒を表面に引きつける

そこに金属陽イオン(プラスの電気を持つイオン)を含む陽イオン水をかける。プラスがコロイド粒子のマイナスを打ち消すことで表面電位が下がり、反発が弱まる。するとファンデルワールス力という引き合う力が働いて、粒が素材表面にピタッとくっつく。このとき素材表面との間に化学的な反応層(Si–OHや金属水酸化物など)が同時に形成され、のちにできる膜が素材に根を張った状態になる。天山石のガラス膜が下地の結晶と完全に結合して剥がれないのは、茶碗の表面を覆う釉薬(うわぐすり)のガラス膜が焼成によって素地と一体化するのと同じ原理だ。この「根付き」こそが、従来のコーティングと比べて圧倒的に剥がれにくく、熱や摩耗に強い膜を生む理由でもある。

研磨の圧力が繰り返し粒に加わり、ガラスの膜に変える

粒が素材表面にくっついた後、研磨盤で1キロパスカル(1kN/m²)以上の圧力をかけながら磨く。たとえば研磨盤が1分間に数百回転するなら、10分間で数千回もの高圧・高熱が繰り返し加わることになる。そのたびに脱水縮合反応(Si–OH + Si–OH → Si–O–Si + H₂O)が進み、粒の中から水分子が押し出されて離脱する。その結果、粒がSiO₂(ガラスの成分)に変化し、素材表面に均一で緻密な薄い膜が完成する。研磨しながら膜が自動でできあがる、というしくみだ。

素材・コロイド粒子の組み合わせを選ばない汎用設計

本技術が天山石以外に広く使える理由は、「コロイド粒子と素材表面の電荷制御が成立する素材であれば対応できる」という汎用原理にある。鉄材(炭素鋼・ステンレス鋼)のように外部からコロイド粒子を供給するケースはもちろん、天山石やシリカガラス、シリコンウエハーのようにSiO₂成分を含む素材では研磨中に素材自身がコロイド粒子を放出するため、特別な添加剤なしでも膜が形成される。使用できるコロイド粒子はSiO₂・TiO₂・ZrO₂・ZnO・SnO₂・ITO・Fe₂O₃・Fe₃O₄・Cu₂O・Agナノ粒子・Auナノ粒子・Cuナノ粒子等に対応しており、防錆・耐摩耗・防汚・光沢・電気・磁気付与など目的に応じた薄膜を選択できる。研磨盤の移動方式も固定型・移動型の両方に対応しており、製造ライン設計の自由度が高い。

ガラス膜を付与した石材中にデータ保存装置の組み込み

薄膜形成技術によりガラス膜を付与した石材を用い、その石材に囲まれた密閉空間内に温度差発電装置、データ記憶装置、および無線通信装置を設置することで、外部との通信が可能となる(特許第6713184号)。これにより、利用者はスマートフォンなどの携帯端末を介して無線通信装置にアクセスし、記憶装置に保存されたデータを必要な時に閲覧することができる。石材そのものを情報媒体として活用することで、墓石やモニュメントに刻まれた歴史や記録、写真、映像などの関連情報を半永久的に保存し、世代を超えて継承することが可能となる。

相性のいい産業分野

IT・通信

半導体製造装置におけるCMP(化学機械研磨)工程の高度化(平坦化と保護膜形成を同時に実現)

航空・宇宙

金属パーツや鉄材への高耐久コーティング(防錆・耐摩耗・耐候性の向上)

製造業・メーカー

精密研磨と同時に機能性膜を付与(指紋防止・静電気防止など)

住宅・不動産・建築

屋外金属パネルや建材・石材の長寿命化(長期防汚・メンテナンスフリー化)

この知財の情報・出典

この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。 詳細な情報をお求めの場合は、お問い合わせください。 特許番号:特許第7776911号(特許公報発行日:2025年11月27日) 発明の名称:薄膜形成方法 特許権者:天山石材株式会社(佐賀県唐津市肥前町) 発明者:田中 義人、立山 博 国際出願番号:PCT/JP2026/011290 発明の名称:薄膜形成方法および無機薄膜含有積層体 特許権者:天山石材株式会社(佐賀県唐津市肥前町) 発明者:田中 義人、立山 博 特許番号:特許第6713184号(特許公報発行日:2020年6月24日) 発明の名称:データ保存装置 特許権者:天山石材株式会社(佐賀県唐津市肥前町) 発明者:田中 義人 砥粒加工学会誌68巻2号, p.88-89, 2024年8月公開「天山石の研磨工程で石材表面に同時形成された薄膜のシンクロトロン放射光による解析」 Top Image : © 天山石材株式会社

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