卒論オープンアワード二〇二一 結果発表

受賞作品発表

今年初の開催となった「卒論 OPEN AWARD 2021」。学生たち自らが卒論を公開し、研究室に埋もれがちな素晴らしい論文が世の中に見つかりやすくなることを目指し、本アワードを開催しました。結果、全国各地の高校生から大学院生までの、斬新な切り口と熱量のこもったさまざま研究論文が集まりました。

これらの応募論文を、知財図鑑編集部が「新規性」「社会性」「応用性」を評価軸に「世界の進化に貢献する可能性の高い研究かどうか」の観点から厳正に審査。最優秀賞を含む入賞作品は以下の4名の論文となりました。学生たちのこれらの研究が、社会に実装される未来がいずれやってくるかもしれません。

最優秀賞(一名)

日本の美意識の印象整理
〜色・形・動きに注目して〜

●受賞者
熊澤玲香/京都工芸繊維大学大学院

〈研究概要〉
現代の日本は、モノやサービスで満たされたことにより、社会的欲求や価値観がより感性的に変化している。本研究では、美意識は日本人の潜在的共通認識であると仮定し、美意識を言語ではなく色、形、動きの観点で捉え、ビジュアルや数値で表現することを目的とした。美意識の傾向をまとめ、美意識を活用するデジタル図鑑ツールを作り、心に響くモノづくりを促進し日本のモノづくりや経済力を発展させる基盤となることを目指した。

〈研究背景〉
成熟社会である現在の⽇本では、経済や社会制度が発展し必要な物やサービスで満たされたことにより、社会的欲求や価値観がより感性的に変化している。⾃分の気に入ったモノにこだわり、付加価値に対価を払う「プレミアム消費」は2000年の13%から2018年は22%へと年々増加していることから、消費者の個々の感性、つまり美意識が反映されていると考えられる。新日本様式やクールジャパンなどの政策からも、日本の美意識をまとめる必要性が窺える。2021年東京オリンピックや2025年⼤阪関⻄万博など、⽇本に世界の注⽬が集まる機会が増えていく中で、美意識はより必要となる価値観である。そこで本研究では、価値観が刻々と変化している消費者が潜在的に求めているモノづくりと、日本のモノづくりや経済力を発展させる基盤となることを目指し、言語化が難しい美意識という価値観に注目しビジュアル化することを目的とした。

〈この研究により期待できる進化〉
本研究では、⽇本の美意識を⾔語ではなく⾊、形、動きの観点で捉え、ビジュアルや数値で潜在的共通認識を表現するデジタル図鑑ツール「⽇本感じ辞典」の提案を⾏った。デザイン経験が4年以上の被験者に検証実験を行ったところ、美意識をコンセプトとするモノづくりの際に、アウトプットのヒントや指標として使⽤する当初の⽬的に有効であることがわかった。さらに、⾃分の考えが有効か検討する際の根拠としたり、海外のデザイナーが⽇本の美意識をコンセプトとするモノづくりの際に活用したり、使用の可能性が広がった。また、コンセプトメイキングやアイディア発想の際には情報を能動的に得る機会を、アウトプットとしてイメージに合うものを検索する際には受動的に情報を得る機会が有効であると考えられる。よって本研究は心に響くモノづくりを促進し日本のモノづくりや経済力を発展させる基盤となると言える。

〈編集部講評〉
日本が日本らしく成り立っている曖昧な表現や複雑な心情といった構成要素を多面的に解釈し、正確に定義して可視化しようという試みを評価したいです。言語に頼らないユニバーサルデザイン的視点で定量的にまとめた点が素晴らしく、「デジタル図鑑ツール」としたアウトプットも秀逸です。メソッド化して異文化交流にとどまらず、ハンディキャップへの理解、ジェンダーや人種差別といった昨今の根深い対立への理解促進につなげることを期待します。

〈受賞コメント/熊澤玲香〉
この度は最優秀賞に選出いただきありがとうございます。本研究を進めるにあたり、ご協力いただいた方々にこの場をお借りして感謝申し上げます。本研究では、「侘び寂び」「雅」「義理」等の美意識を日本人の潜在的共通認識であると仮定し、明確な言語化が難しい美意識を色、形、動きの観点で捉え、ビジュアルや数値で表現することを目的としました。3つの分析方法を用い美意識のワードの傾向をまとめ、活用するためのデジタル図鑑ツール「日本感じ辞典」を作り、心に響くモノづくりを促進し日本のモノづくりや経済力を発展させる基盤となることを目指しました。課題点も多々あるため、今回の受賞を励みに改善し精進して参りたいと思います。

優秀賞(三名)

落語音声合成
〜人を楽しませる音声合成に向けて〜

●受賞者
加藤集平/総合研究大学院大学

〈研究概要〉
機械が音声を合成する過程は音声合成と呼ばれる。音声合成の進歩は目覚ましく、限られた条件下ではあるものの、今や人間と同等の自然性を持つ音声が合成可能となっている。しかし、音声合成は音声の持つ全ての機能を再現できているわけではない。例えば、話芸のように人を楽しませる機能は十分に再現されているとは言い難い。本研究では落語を演じる音声合成を構築することで、人を楽しませる音声合成を実現することを目指した。

〈編集部講評〉
今まさに注目が集まっている「音声コンテンツ」における表現の核となる部分を追求し、ビッグデータを活用して音声合成化する構想に惹かれました。アメリカのスタンダップコメディやロシアのアネクドートなど、固有の文化風土に根付いた笑いやユーモアについても同様の研究が拡張されることを期待したいです。

〈受賞コメント/加藤集平〉
本論文のテーマである落語音声合成は、伝統芸能である落語と最新の機械学習を組み合わせたものであり、一見異質であるように思えます。しかし、この一見異質な組み合わせこそが、人間と機械のコミュニケーションや落語そのものを発展させ、これからの人間世界を豊かにしていく一助になるものと信じています。落語音声合成の研究はしばらく継続する予定ですので、これからの成果にもご期待ください。

———————————————————

インド算術書 『トリシャティー』
〜著者未詳の注釈 『トリシャティーバーシュヤ』 と共に〜

●受賞者
徳武太郎/京都大学大学院

〈研究概要〉
8世紀頃にインドで活躍した数学者シュリーダラがサンスクリット語で著した算術書『トリシャティー』を著者未詳の注釈『トリシャティーバーシュヤ』と共に校訂し、数学的解説と併せて和訳した。同注釈には古グジャラート語の影響がみられることから、注釈者は12世紀から18世紀の間に北西インドで活躍したと推定した。10種の写本の比較により、『トリシャティー』の出版本には含まれない6詩節を発見した。

〈編集部講評〉
特定の地域で生まれた歴史的文化を継承し、現代社会に汎用化していく試みが興味深いです。数学というロジックの世界に違うものさしを再開発するようなスケールを感じました。先行研究がない分野を丁寧に研究した点も素晴らしいです。日本人の数学力の低下を、新たな切り口から解消するきっかけとなるかもしれません。

〈受賞コメント/徳武太郎〉
この度は優秀賞に選定していただき誠に光栄です。ご指導いただいた先生方、切磋琢磨した室町寮の学友たちにこの場をお借りして感謝申し上げます。本研究で扱った800年頃の算術書『トリシャティー』には、今日の我々が知る計算方法と共通するものだけでなく、それとは異なるものも数多くみられます。それらに触れることで一人でも多くの方々にインド数学に興味をお持ちいただき、私と同世代さらには次世代の研究者の輩出に繋がることを期待しております。また、その数学の背景にあるインドの文化、サンスクリットやプラークリットといった言語にも関心をお持ちいただければ幸いです。अस्य ग्रन्थस्य लेखकपाठकयोः शुभं भूयात् ।।(本論文の書き手と読み手に幸あれ!)

———————————————————

発酵食品すぐき由来の副産物を商品化する
〜すぐきの特性と上賀茂瓦窯群瓦技術〜

●受賞者
平野通永/立命館高校

〈概要〉
すぐき菜の特性を踏まえ、発酵食品すぐきの副産物から新商品を開発する目的で論文を進めた。一章はすぐきとは何か。二章はすぐきの特性とは何か。三章ではすぐきは古来金属をきれいにする特性をもってそれを瓦作りに用いられてきたのではないかと推測し、四章から六章では歴史的背景を踏まえその仮説を考察していった。七章ではすぐきの新たな利用価値とは何か考え、植物由来の金属をきれいにするという溶剤ではないかと結論付けた。最後に開発した後の販売ルート、ターゲットなどを踏まえた企画書を含め、将来商品化への強い思いが含まれた論文になっている。

〈編集部講評〉
生活の中にある身近なものに着目し、従来の活用方法から離れた視点で拡張するアイディアを「妄想」し、プロトタイピングを行うという点では知財図鑑のコンセプトとも合っていて応援したいです。興味を持ったメーカーとコラボレーションすることで商品として確立できれば、より応用性が広がるかもしれません。

〈受賞コメント/平野通永〉
この卒論を書き始めたころ、産業の六次化についての知識があまりありませんでした。その後、学校や地域で学ぶにつれその重要性に気がつき、何か行動をと考えていました。行動の一つとして、このコンテストに応募しました。今回の連絡がきて、受賞できて本当にうれしいです。審査員の方々、コンテストを開催して下さった方々ありがとうございました。

———————————————————

以上、入賞者のみなさんの研究は知財図鑑にて追って個別に記事化させていただく予定です。学生たちが様々な思いから生み出した「知財」をオープンにすることで、そこから一歩先に進むための一助となることを期待しています。

▶︎「卒論 OPEN AWARD 2021」詳細はこちら