No.1105
2025.12.22
「やすいから買う」を「助けたいから買う」へ。消費者の感情に訴え食品ロスを削減するコミュニケーションツール
涙目シール

概要
「涙目シール」とは、株式会社ファミリーマートが開発した、中食商品の値下げ販売に使用されるコミュニケーション型の値下シール。単に価格を下げるだけでなく、「たすけてください」というメッセージと涙を浮かべたキャラクターのイラストを添えることで、消費者の感情に直接訴えかけるデザインが特徴となっている。
2024年の実証実験を経て、2025年3月から全国のファミリーマート約16,300店で展開を開始,。値下げ商品を購入することへの心理的ハードルを下げ、「得だから買う」という損得勘定から「助けたいから買う」という共感ベースの購買行動への転換を促す,。2025年10月には、この取り組みを社会全体へ広げるため、イラストのフリー素材化が行われ、業種を問わず誰でも利用可能なオープンな知財として公開された。
なぜ生まれたのか?
ファミリーマートが策定した環境中長期目標「ファミマecoビジョン2050」に基づき、店舗での食品ロス削減を推進する中で誕生した。同社は2030年までに食品ロスを50%、2050年までに80%削減することを目標に掲げており、これまでも商品のロングライフ化や発注精度の向上に取り組んできた。
しかし、論理的な正しさや「もったいない」という倫理観だけでは、消費者の行動を大きく変えるのは難しいという課題があった,。そこで、クリエイティブディレクターの砥川直大氏(The Breakthrough Company GO)らと共に、「企業が課題を隠さず、正直に『助けて』と訴える」という、感情的なつながりを生み出す新しいアプローチを着想。消費者が抱いていた「値下げ品を買うのは恥ずかしい」というネガティブな心理を、「社会貢献(助けること)への参加」というポジティブな動機へ書き換えるために開発された。
なぜできるのか?
「損得」を「感情」に変換するデザインの力
従来の値下げシールは金額のみを表示し、消費者の「安く買いたい」という損得勘定に依存していた。これに対し、涙目シールはユーモアと感情を介在させることで、購買行動を「社会課題(食品ロス)への協力」という意味合いに変化させる。実証実験では、従来のシールと比較して購入率が5ポイント向上するという具体的な成果を上げており、全国展開により年間約3,000トンの食品ロス削減につながる試算が出されている。
商品そのものを「メディア」化する戦略
ファミリーマートは、全国16,300店の店舗と商品そのものが最大のメディアであると捉え、値下シールのわずかなスペースをコミュニケーションの場に変えた。この取り組みはメディアからも大きな注目を集め、広告換算価値で10億円以上の露出を記録。多額の広告費を投じるのではなく、既存のオペレーション(値下シールを貼る行為)にクリエイティブを掛け合わせることで、極めて高い投資対効果(ROI)を実現している。
フリー素材化による「共創プロトコル」の構築
ファミリーマートは自社での成功に留めず、2025年10月から「涙目デザイン」をフリー素材として無償公開した。既存のキャラクターに加え、パン、肉、魚、ケーキといった4種類の新デザインを追加し、多様な食品カテゴリーに対応可能にしている。これは万博の「OPEN DESIGN 2025」のように、特定の企業に閉じず、誰もが解釈・使用できる「生成的プロトコル」として知財を解放する試みである。これにより、飲食店や他の小売店、自治体が共通の「助けて」という旗印を用いることで、社会全体で食品ロス削減を加速させるプラットフォームとして機能し始めている。
相性のいい産業分野
- 食品・飲料
飲食店やスーパー、小売店での期限間近商品の販売促進
- 官公庁・自治体
自治体のプロジェクトに用い、市民の自律的な参加を推進
- メディア・コミュニケーション
感情に訴えかける広告手法や、ソーシャルグッドなキャンペーンへの応用
- 教育・人材
資源循環の意識を育成する教育ツールや、社会課題解決のアイデア発掘への活用
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © 株式会社 ファミリーマート

