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2025.05.21
知財ニュース
世界初、嗅覚VRで高齢者の認知機能を改善―専用ディスプレイから香りを発生、東京科学大学ら

東京科学大学 総合研究院 未来産業技術研究所の中本高道教授(当時)、文京学院大学 人間学部の小林剛史教授、ロンドン藝術大学のNathan Cohen客員研究員、法政大学 理工学部の山本晃輔准教授らの研究チームは、嗅覚VRを用いて高齢者の認知機能を改善する手法を世界で初めて提案した。
研究チームが開発した手法は、VRゲームの進行に合わせて、専用の嗅覚ディスプレイから特定の香りを発生させるというもの。
参加する高齢者は、まずVRゲーム内で最初に提示される香りを記憶し、その後、異なる3ヶ所の香りの発生源へと移動して、最初に記憶した香りと同じものを見つけ出すという課題に取り組む。この嗅覚VRゲームを体験する前と後で、参加者に対して複数の認知機能テストを実施し、そのスコアの変化を比較した。
実際に63歳から90歳までの30名の高齢者を対象に実験を行った結果、特に「ひらがなローテーション課題」や「単語空間記憶課題」といった、視空間的な処理能力を必要とする認知テストにおいて、ゲーム体験後にスコアが有意に向上することが確認された。これは、嗅覚VRゲームが視空間処理に関連する認知・記憶機能の改善に貢献した可能性を示唆している。
研究成果は、高齢者の認知機能リハビリテーションにおける新たなアプローチを提示するものであり、特に認知症予防という観点から、デジタル技術を活用した香りコンテンツが今後有効活用されていく可能性が示された。
嗅覚VRはこれまでエンターテイメント分野での応用が主だったが、同研究によって高齢者のリハビリテーションという新たな応用分野が開拓され、社会的な課題解決への貢献も期待されている。
研究チームは今後、今回の研究では明らかにならなかった、ゲーム終了後の効果の持続期間や、繰り返しゲームを行った場合の効果の程度、さらには視覚刺激と嗅覚刺激がそれぞれ認知機能改善にどの程度寄与しているのかといった点を解明していく必要がある述べた。より効果的な認知機能改善プログラムの開発が進められることが期待されている。
Top Image : © 東京科学大学