No.1062
Tech Direction Awards受賞作品
2025.08.15
CMのために全力疾走に対応した屋外ARシステムを開発
ポカリスエット「潜在能力は君の中。」篇

概要
「ポカリスエット「潜在能力は君の中。」篇」とは、デジタルと物理世界を融合させた大塚製薬「ポカリスエット」飲料のCM。主人公の2人が120mの山道を駆け抜ける実写映像に、2000年代のゲームのような世界観のCGを融合させ、生命力がデジタル世界を超えていく様子を描いた。2人の動きに応じて道中に出現するAR(拡張現実)オブジェクトを、現場で確認しながらワンカットで撮影するという、難易度の高い撮影方法を採用。独自のARシステムやカメラワーク用のプレビューシステムなどを開発し、検証や調整を重ねて作品を完成させた。屋外・長距離・全力疾走に対応した、デジタルとフィジカルが交差する新たな映像表現として、多様な領域での活用が期待されている。
なぜ生まれたのか?
健康飲料「ポカリスエット」のCMの1つとして、「考えるより先に動いてみよう。汗をかけば君の力は満ちてゆく。」をコンセプトに制作された。キーメッセージは「潜在能力は君の中。」で、表現モチーフは「ゲーム」。ARを用いて、若者がゲームの世界(=デジタル)を追い越していくような、躍動感のある映像作品に仕上げている。総距離200mの撮影現場で、120mを超える石階段にAR空間を構築しワンカットで撮影した。
▼CMストーリー概要
乗るはずだったバスを逃してしまった女子高生の椿と杏慈。視点は椿の主観へ乗り替わり、二人はゲームの世界へ入っていく。周りにはARで新たなルート情報が示されるが、それには目もくれず「裏からいこ!」と杏慈が路地の奥へかけていき、椿がそれを追う。二人は、路地にある120mの階段をダッシュして溢れる情報を追い抜いていき、学校へと向かう。
なぜできるのか?
全力疾走に対応するARシステムの開発
CGを物理世界に違和感なく溶け込ませるため、カメラ位置を高精度に捉える「iPhone」の「ARkit」を採用。長距離の全力疾走や日光の影響などを踏まえて技術検証し、数あるトラッキングシステムの中から選定した。「ARkit」は本来、マーカーレス(位置情報や空間認識など)でARオブジェクトを表示できるが、手振れや長距離の移動で誤差が発生する。そこで、撮影ロケ地を3Dスキャンして複数ブロックに分け、ブロックごとにマーカーを配置。設置したキャリブレーション用マーカーをもとに、物理世界とAR表示のズレを補正するシステムを開発した。また、「Meta Quest」を用い、現地でオブジェクトを確認できるMR(複合現実)アプリも開発。マーカー位置をミリ単位で調整して精度を高めた。
カメラワークを支えるARプレビューシステムの開発
実写映像にAR合成した映像を現地で確認できるARプレビューシステムを開発した。「iPhone」から取得したカメラの位置データとCGの位置情報を撮影映像に紐づける仕組みで、プレビュー用の実写映像にリアルタイムでARを合成して表示できる。表示の遅延は最短0.05秒と、低遅延表示を実現。カメラマンがその場でAR合成映像を体感できる環境を構築し、躍動感や没入感のあるカメラワークを可能にした。また、撮影後のCG調整など、後工程で不整合が発生しないよう、カメラマンの現場での動きを撮影データと合わせて保存する機能も搭載。MAYA(3DCGソフト)上でカメラマンのトラッキングデータを再現できる。
緻密なテクニカルディレクション
目指す映像表現を実現するため、監督・撮影・技術といった関係者間でコミュニケーションを重ねて制作を進めた。開発したシステムでどのような表現ができ、どういう制約があるかなどの認識合わせを行い、撮影イメージを共有。技術検証の過程や課題も共有しながら、現場検証と調整を繰り返し、本番撮影に臨んだ。撮影現場ではさらに、「Meta Quest」のMRを用い、演者やカメラマンとゲームのような世界観を共有した上で撮影を進めた。
相性のいい産業分野
- アート・エンターテインメント
物理世界とデジタルが溶け合う世界をリアルタイムで味わえるコンテンツの展開
アーティストの動きに連動してリアルタイムでARを表示する舞台演出に活用
- スポーツ
フォームやスイングなど動きを視覚的にフィードバックするトレーニングツールの開発
- AI
特定の物体や動きからリアルタイムでARオブジェクトを生成するAI機能の開発
- IT・通信
現地調査などで情報の表示や注意喚起を行うナビゲーションツールの開発
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © 大塚製薬 株式会社