No.1063
Tech Direction Awards受賞作品
2025.08.20
ラジオというメディアを通じた、人間とAIによる共創の試み
人間とAIの心地よいコミュニケーションに関する実験

概要
「人間とAIの心地よいコミュニケーションに関する実験」とは、「ラジオ×テクノロジー」の試みとして行った実験的プロジェクト。AIと人間の共同制作によるラジオドラマ「祇園ピックアップ物語」と、AIのみで進行するラジオ番組「AI放送局」の2つのコンテンツを通じて、AIとの向き合い方や共創の在り方を探求した。単なるAI活用ではなく、AIを“制作メンバーの一員”と位置づけ、AIを囲みながら物語構築や脚本構成を推進。さらに派生プロジェクトとして、AIが「パーソナリティ」と「ディレクター」を担い人間の指示なくラジオ配信する実験を行った。AIと人間の感性・表現の交わりにより、新たな切り口や創造をもたらすことが示され、共創手法のさらなる進化や演奏など言語以外の領域への展開が期待されている。
なぜ生まれたのか?
KBS京都のラジオ番組「祇園pickup あっぷ!」から始まった。新しいテクノロジーを活用したコンテンツの発信により、テクノロジーの楽しみ方を提案する取り組みの一環として実施。ChatGPTなど既存のAIサービスを活用し、新たなものづくりに挑戦するプロジェクトを開始した。
ラジオドラマ「祇園ピックアップ物語」は、ジャズミュージシャン志望の17歳の青年、朝倉翔太を主人公にプロの音楽家へと成長していく様子を描いた物語。2024年3月頃から取り組みを始め、全20話で構成。放送後もSpotifyで公開している。
「AI放送局」は、ベースドラムの展示会「SEEDS ー未公開プロトタイプ展」(24年7月開催)で行ったラジオ配信実験。ラジオドラマの制作中に行ったAIへのインタビューをきっかけにアイデアを着想。AIを含む複数の技術を組み合わせ、AIだけで進行するラジオ番組を構築した。
なぜできるのか?
AIと人間が共同制作した「祇園ピックアップ物語」
物語を生み出す段階からラジオドラマの制作までAIと共同で進めた。ChatGPTやClaude、Geminiといった複数の生成AIが提案した物語構成やセリフをもとに、人間同士が議論して修正案を依頼し、AIとの対話を重ねながら内容を調整。AIを“創作の仲間”と捉え、生成されたアイデアを叩き台に議論したり発想を膨らませたりと、AIを囲んで脚本会議を進めた。また脚本を検討する中で、主人公・朝倉翔太のキャラクターをChatGPTに記憶させ、主人公のAIを設計。主人公AIへのインタビューで物語の展開を引き出すアプローチも行い、物語を構築した。
キャラクターの音声は、「祇園pickup あっぷ!」のパーソナリティの声をベースに、ElevenLabsなどの音声AIを用いて生成した。音声データで学習を重ねて精度を高め、感情豊かな表現を実現。効果音やBGMもAIで生成した。
2種のAIが人間のように進行する「AI放送局」
ラジオドラマの制作過程で主人公AIにインタビューを行った際、「AIの朝倉翔太が、ラジオパーソナリティをつとめたら面白いのでは?」と発案。AIが自律的にラジオ放送を進行する実験プロジェクトを始めた。パーソナリティを担う朝倉翔太AIは、キャラクターを記憶したChatGPTと声を生成するElevenLabsを連携させて構築。さらにラジオのライブ感を出すため、指示を出すディレクターAIを開発。ディレクターAI は、WebカメラのMeeting Owlで捉えた配信現場の映像をもとにChatGPTでトークテーマを生成し、ロボットアームとキーボードで指示を出す。パーソナリティAIは、指示をベースにトーク内容を生成して発話する。視覚・企画・指示・音声の技術を組み合わせた仕組みで、2つのAIが人間のようにコミュニケーションしながら進行する、“人間不在”のラジオ番組を実現した。
「つくる」専門家が集う組織とR&D体制
実験プロジェクトを展開したベースドラムは、テクニカルディレクターを中心とした組織で、技術を用いたアイデアの具現化を多数手がけてきた。テクニカルディレクターとは、多様な技術とクリエイティブを横断的に理解してつなぐ媒介者で、アイデアを「どう実現するか」を設計する役割を担う。本取り組みでは、ラジオ番組の放送に合わせて、企画・実装・発信のサイクルを回しながら実験と検証を繰り返すR&D体制を構築。「手を動かしながら考える」プロセスでクオリティを高めた。
相性のいい産業分野
- アート・エンターテインメント
選んだAIキャラクターがラジオパーソナリティをつとめる番組の企画
- 生活・文化
演奏者のプレイや動作を受けてAIがその場で音を生成するセッションの実現
- メディア・コミュニケーション
地域イベントや観光地など、現地の様子を届けるニュース番組に活用
- AI
キャラクターや特性などを自由にカスタマイズできる相棒AIの開発
- IT・通信
人間と複数AIが卓を囲んで議論できるプラットフォームの開発
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © ベースドラム 株式会社