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2021.11.12
知財ニュース
ブタの腎臓をヒトへ移植する米研究で、腎臓の正常機能を確認─拒絶反応は現れず54時間機能を維持
米ニューヨーク大学(NYU)ランゴーン・ヘルスの外科チームは、ブタの腎臓を人体に移植する研究を行い、腎臓が正常に機能することを確認したと発表した。54時間に及んだ研究期間中、移植による免疫系の拒絶反応の兆候はなく、腎臓の正常機能が維持されたという。ブタから人間への腎臓移植が拒絶反応なく成功したのは、今回が初となる。
研究は2021年9月、家族の同意の上、脳死したドナーの身体で実施された。腎臓は、腹部内ではなく上肢の血管に移植。移植した腎臓を保護シールドで覆い、人工呼吸器を動かしながら腎臓の経過観察や組織採取を行なった。54時間の研究期間中、腎臓の機能を示す指標である尿量とクレアチニン値(血液中の老廃物値)は正常値をマーク。人間の腎臓を移植した場合と同等の結果が得られたという。
ブタの臓器を人間に移植する際はこれまで、免疫系の拒絶反応が出ることが課題だった。本研究では、移植による免疫反応を防ぐため、拒絶反応を引き起こす生体分子「alpha-Gal(アルファ・ガル)」を遺伝子操作で除去した「GalSafe(ガルセーフ)」 ブタを使用。さらに、免疫系のコントロールの役割を持つブタの胸腺を腎臓と共に移植し、拒絶反応を抑制した。
GalSafeブタは、動物バイオテクノロジーを活用した医療テック企業である米Revivicor(リビビコール)社がライセンスを取得。Revivicor社は、クローン羊を生み出した英PPL Therapeutics(セラピューティクス)社からスピンアウトして設立された企業だ。GalSafeブタの安全性は、2020年12月に米国の食品医薬品局(FDA)が承認。食べたり、臓器や組織などを人の治療に使用することを認めている。
米国では腎臓移植を待つ患者が9万人以上(2021年10月21日時点)おり、移植可能な臓器が不足している状況がある。ブタの腎臓移植が実用化されれば、必要な臓器を確保できる可能性が高まる。
また本研究を率いたロバート・モンゴメリー博士によると、ブタから人間への臓器移植は、腎臓だけでなく、心臓など他臓器でも実現の可能性があるという。
Top Image : © NYU Langone Health