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2025.05.07
知財ニュース
大阪大学、iPS細胞からミニ肝臓の作成に成功―世界初

大阪大学らの研究グループは、世界で初めて、iPS細胞から、ヒトの肝臓の構造と機能を再現した小さな肝細胞の塊「ミニ肝臓」の作成に成功したと4月17日、発表した。この研究成果は、英国科学誌「Nature」に掲載されている。
生体肝臓に存在するZonation(機能的な多層構造)を備えた多層構造を持つ肝臓の「オルガノイド(ミニ臓器)」の開発となり、新たな治療法の開発につながる可能性があるという。
肝臓は、人の体内で栄養や薬の代謝、老廃物の処理を司る「代謝の司令塔」だ。肝臓は、門脈から中心静脈に向かって、細胞が存在する位置に応じて異なる働きを担うZonation(機能的な層構造)と呼ばれる空間特異性を持っている。
Zonationが形成されることで、それぞれの領域で時として相反するような機能が発揮され、各々が複雑かつ補完的に代謝を担っている。肝臓のZonationは、肝機能の多様性を支える基盤であり、疾患に応じてそれぞれのゾーンごとに、障害が進展していくことが知られているが、末期肝不全などの状態では、すべてのゾーン機能が低下しており、深刻な状況に直結する。
近年、ヒトのiPS細胞から肝臓の立体組織(オルガノイド)構築を目指す研究が進んでいる。しかし、肝臓の構造を再現した新たなモデルの開発は未踏課題となっていた。
研究チームは、肝臓の働きに重要なビタミンCとビリルビンをiPS細胞から作成した肝臓の細胞に混ぜ合わせ培養したところ、肝臓のゾーン1〜3に相当する多層型構造を再現することができた。
このオルガノイドを重度の肝不全のラットに移植したところ、血中アンモニアやビリルビンの濃度が大きく改善し、生存率も有意に向上した。本技術は、肝疾患研究や薬物評価、再生医療の新たな基盤技術となることが期待されている。
Top Image : © 大阪大学