News
2023.07.04
知財ニュース
JAXAと筑波大学、月面重力下のマウスの筋肉変化を解明─人類の月面生活実現への新たな一歩
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と筑波大学の研究チームは、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟にて3種類の重力環境下(微小重力・月面重力・地球上重力)でマウスを約1カ月間飼育し、抗重力筋であるヒラメ筋の量と質の変化を解析した。月面重力下におけるマウスの筋肉の量と質の変化の違いを解明するもので、本研究成果は、オープンアクセス・ジャーナル『Communications Biology』誌に2023年4月21日付で掲載された。
骨格筋(筋肉)はさまざまな要因で量や質が変化する組織で、これまでの研究から、宇宙空間では骨格筋の急速な筋萎縮(量的変化)と筋線維タイプの変化(質的変化)が起こることが分かっている。こういった変化は、地球上では寝たきりなどの廃用性症候群や高強度の筋力トレーニングや加齢で引き起こされるが、宇宙空間では微小重力以外にも宇宙放射線などの影響もあり、詳細な分子メカニズムは分かっていなかった。
研究チームは、2017年から骨格筋と重力に関する実験を実施。JAXAが開発した「可変人工重力研究システム(MARS)」(人工重力環境下でマウスを飼育できる世界で唯一の装置)で、微小重力(マイクロG)と、地球重力と同じ人工重力(1G)を発生させ、マウスを約1カ月間飼育した。その結果、人工重力(1G)環境では骨格筋の変化がほぼ完全に抑制され、宇宙空間における骨格筋の筋萎縮や、筋線維タイプの速筋化が重力変化によるものであることが明らかになった。
そこで研究チームは今回、骨格筋の変化を制御する重力閾値が存在するのを明らかにするために実験を実施。MARSで月面重力(1/6G)を発生させ、骨格筋の量と質の変化が抑制できるかどうかを遺伝子発現解析の視点から検証した。
その結果、月面重力下では、量的変化(萎縮)が抑制される一方、質的変化(筋線維タイプの速筋化)は微小重力下よりも低くなったものの、完全には抑制されなかった。これにより、ヒラメ筋の筋量の維持と筋線維タイプの維持には、異なる重力閾値が存在することが確認された。
本研究は、MARSを用いたパーシャルG(微小重力と1Gの間の重力環境)に関する初の科学的成果で、骨格筋が、質的・量的に別の重力閾値によって制御されていることを示す世界初の成果でもある。研究チームは、本データが今後の有人宇宙探査に向けた基礎データとなるとともに、さまざまな筋疾患に対する予防・治療法の確立に貢献すると期待を寄せている。
Top Image : © 宇宙航空研究開発機構(JAXA)