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2024.12.23
知財ニュース
理化学研究所、東京大学らの国際共同研究チーム、海水で分解でき、生化学的に代謝される「超分子プラスチック」の開発に成功
理化学研究所と東京大学らの国際共同研究チームは、強靭でありながら海水中などで容易に原料にまで解離し、生化学的に代謝される「超分子プラスチック」の開発に成功したと発表した。本研究は、科学雑誌「Science」オンライン版(11月22日付)に掲載されている。
地球温暖化や地球環境汚染を加速する大きな要因の一つは、廃プラスチック問題なのだという。プラスチックは巨大分子であるポリマーで構成されている。ポリマーとは、重合反応によって多数のモノマー(単量体)が安定的な共有結合で結ばれたもので、そのほとんどが化石資源を原料としている。
プラスチックは現在世界で年間4億3千万トン生産されているが、そのうち、リサイクルされているのはペットボトルの他、磁気テープの基材や衣料用繊維などに用いられているPET(ポリエチレンテレフタレート)を中心にわずかに9%以下で、燃焼も含め、他は廃棄されている。
日本では燃焼による廃棄が中心で、これは温室効果ガスの発生につながるのだという。一方、カーボンニュートラルを実現する再生可能資源から成るプラスチックは全プラスチックのわずか1.5%にとどまっている。プラスチックを自然環境に投棄すると、次第に分解してマイクロプラスチックとなって蓄積し地球環境を汚染し、生態系や人の健康への悪影響も懸念されている。
そこで、注目されるのが超分子ポリマーだ。超分子ポリマーは結合の可逆性から原料モノマーに簡単に戻すことができる。しかし、この可逆性が故に、超分子ポリマーはゴムのような柔らかい材料にしか使えず、プラスチックの需要を満たす代替材料になることはできないと長い間信じられてきた。
研究チームは、食品添加物や農業用途に広く用いられている安価な生化学的な物質代謝を受ける2種類のイオン性モノマーを用いて、高い物質代謝活性を持ちながら、優れた成形加工性、耐熱性、高い力学特性など、従来のプラスチックに匹敵、あるいはそれらをしのぐ性能を備えた無色透明で超高密度のガラス状超分子プラスチックを得ることに成功した。
また、ひとたび海水などの塩水に入れると、原料モノマーにまで速やかに解離し、バクテリアなどによる生化学的な物質代謝が可能となるので、マイクロプラスチックを形成しない。原料モノマーに含まれているリンや窒素は肥料として重要であり、リンは近海を除く海洋で不足している。
塩水中で解離したモノマーは、エタノールを用いて簡単に分離・回収可能で、再度、超分子プラスチックに戻すことができる。従来のプラスチックの場合、リサイクルするには回収・分類・分解・再利用などで多大なエネルギーが必要だったが、超分子プラスチックはそれとは対照的だ。なお、超分子プラスチックの表面を撥水被膜で覆っておくと、被膜に傷を付けない限り、塩水を含む水中でも長期の使用が可能となる。
研究チームはさらに、多糖超分子プラスチックを開発。この多糖超分子プラスチックはより優れた引っ張り強度を有し、3Dプリンティングにも応用することが可能だ。
また、リン原子があるために難燃性で、温室効果ガスを出さず、遺伝毒性も持たない。自然環境下で土壌の上に置いておけば、次第に土壌に吸収される。プレスリリースで研究チームは、使い終わったプラスチックの「土壌」でおいしい野菜が育つかもしれないと述べている。
Top Image : © 理化学 研究所