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2022.12.29
知財ニュース
死んだブタの臓器を回復させる新技術─米イェール大学が開発、移植用の臓器保存に期待
米イェール大学の神経科学者ネナド・セスタン氏は2022年8月3日、科学雑誌『Nature』で、死んだブタに、対外式膜型人工肺に似た「OrganEx」というシステムを使用することで、一部の分子機能・細胞機能を回復させ、組織の保存に成功したとする論文を発表した。
「OrganEx」とは、循環系に接続し、血流の停止によって生じる有害な代謝不均衡と電解質バランスの異常を是正する因子を含む液体をポンプで送り出すシステム。人工心肺に似た体外式拍動灌流(かんりゅう)装置を用いて、アミノ酸、ビタミン、代謝産物や細胞の健康を促進し、細胞ストレスと細胞死を減らして炎症を抑える混合薬を送り込む。
本研究は、2019年に同大学が発表したプロジェクトに基づいている。このプロジェクトは、「BrainEx」と呼ばれる装置で死んだ豚の脳の循環と特定の細胞機能を回復させるもので、今回の「OrganEx」は「BrainEx」をもとにして、大型哺乳類の全身に適用できるようスケールアップしたシステムとなっている。
本研究では、心停止後1時間のブタに対し、「OrganEx」と、従来型の循環回復システムである体外膜型酸素化装置(ECMO)を使用した効果を比較。通常、心肺が停止すると、哺乳類は臓器が膨張し始め、血管がつぶれて血液循環が妨げられるが、「OrganEx」を使用したブタは、組織の完全性を維持して細胞死を減らし、複数の主要臓器(心臓、脳、肝臓、腎臓など)において特定の分子過程と細胞過程を回復させた。
また、ECMOで処置した臓器と比べて、出血や組織の腫脹の徴候が少なく、体内で修復プロセスが起こっていることを示す臓器特異的な遺伝子発現パターンや細胞種特異的な遺伝子発現パターンを観察した。加えて、「OrganEx」につないだ6時間の観察中に、頭部と頸部に不随意的な筋肉運動も見られ、死後も一部の運動機能が保たれる可能性を示していた。
同大学では、「OrganEx」の技術によりヒトの患者の臓器の寿命を延ばし、移植用のドナー臓器の利用可能性を拡大できるほか、心臓発作や脳卒中の際の虚血によって損傷した臓器や組織の治療にも役立つとしている。
Top Image : © Yale University