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2021.09.17

知財ニュース

世界初、香りで映像のスピード感が変わる「クロスモーダル現象」をNICTが発見─レモンは遅く、バニラは速い

クロスモーダル

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センター(CiNet)の對馬淑亮主任研究員らが、世界で初めて、香りで映像の見えるスピードが変わる新たな「クロスモーダル現象」を発見し、科学的に実証した。

クロスモーダル現象とは、視覚と聴覚、嗅覚と味覚など、本来別々とされる異なる感覚が互いに影響を及ぼしあう現象のこと。人は五感を通して外界の情報を得ているが、映画を見る時は視覚と聴覚、料理をする時は嗅覚と味覚など、いくつかの異なる感覚を同時に使い互いに影響させ合いながら、情報を処理している。

NICTは今回、NICT発のベンチャー企業であるアロマジョインの「Aroma Shooter」で嗅覚刺激を制御し、実験参加者にモーションドット(小さな動く白点)の動きの速さを回答してもらう実験を行った。参加者には、画像表示の前にレモンかバニラまたは無臭の空気を1秒間噴射。参加者は、その後表示されたモーションドットのスピードが速いか・遅いかの回答を行った(計525回試行)。

クロスモーダル1

結果、モーションドットが同じ速さの場合でも、レモンの香りが伴う時は無臭時に比べて遅く感じ、バニラの香りが伴う時は速く感じることを発見した。さらにMRIの電磁波で脳活動を調べるfMRI(機能的磁気共鳴撮像法)実験で、香りによって視覚野(視覚を司る脳の部位)の脳活動が変わることも確認。本実験により、視覚と嗅覚のクロスモーダル現象の存在が実証された。

実験 左:スピード感の実験結果 /右:fMRI実験における視覚野の脳部位(hMT/V1)の脳活動結果

fMRI実験で使用した嗅覚提示装置 fMRI実験で使用した嗅覚提示装置

嗅覚刺激によるクロスモーダル現象はこれまで、感情や記憶のような高次の脳機能(感覚野の情報を使って行う情報処理)へ影響を及ぼすとされてきた。しかし現状では、その科学的研究は発展途上にあり、不明な点が多いという。嗅覚刺激が脳機能の低次の感覚(映像のスピード感)へ影響を与えることが実証された、本実験の学術的意義は高い。

NICTは今後、香りによって映像のスピード感が変わるのはなぜか、変わる理由は時間感覚や注意の配分の変化なのかなど、詳細なメカニズムを調査する予定。併せて、今回の発見をVRやエンターテインメントなどへ応用することも視野に入れ、引き続き研究開発を行っていくという。

実験で使用された「Aroma Shooter」はスマートフォンや、VR/AR、IoTデバイスとのUSB接続やBluetoothに対応している。クロスモーダル現象と組合わせ、アクションやホラーといったコンテンツのテイストに合わせて香りを変えて楽しむ施設やホームデバイスなど、様々な活用が期待される。

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Top Image : © Getty images

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