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2025.05.26
知財ニュース
NTT、超音波で空中に触感を作り出す新技術を考案―つるつる、ざらざらなど多彩な触り心地を演出

NTTは、超音波を皮膚に集中させることで生まれる強い力の感覚に特定の周波数の振動を加えることで、何もない空中に力強く多彩な触り心地を提示する新技術を考案した。
超音波を肌に集束させ焦点を作ると、その焦点には非接触な触覚が生まれる。この超音波による触覚技術はデバイス装着が不要なため、ユーザ負担の低い触覚技術として注目されている。
本成果では、超音波で生まれる力の感覚を増強する刺激条件を特定。さらに、複数周波数の超音波による刺激を自在に合成し、多彩な触感を生み出す超音波触感シンセサイザを考案。この技術を発展させることで、デバイスの装着なしにリアルな触感が感じられるXR体験の実現に貢献するとしている。
一般的に、人は超音波焦点に触れると最大で0.01N(1Nは約100gの質量の物体を把持して支える力に相当)程度の弱い力を感じるが、この焦点を肌の上で5Hzで回転させると、感じられる力は20倍程度まで増強される。焦点の5Hz回転で感じる力が強まることは知られていたが、回転は皮膚の振動など様々な要素を含む刺激のため、どの要素が力を強める主要因なのかは不明であった。本研究では、5Hzの皮膚振動と5Hzの回転そのもののどちらが主要因なのかを調査した。
実験では、一定強度の超音波焦点の位置を皮膚上で5Hzで回転させた刺激と、超音波の強度をゼロから最大値の間で5Hzで変化させた振動刺激を生成し、それらによって感じられる力の強さを比較。参加者の左手には超音波刺激が、右手にはロボットアームによる押し込み刺激がそれぞれ提示され、この両者の刺激を比較することで超音波によって感じられる力の強度を定量化した。
実験結果より、5Hzの回転刺激は5Hz振動刺激より6倍強いことが分かり、力を強める要因は「超音波焦点の5Hzの回転」が決定的であることを世界で初めて特定した。
同社は、この研究で解明した強い力を生む要因を活用し、多彩な触感を生み出す超音波触感シンセサイザを考案した。
私たちは普段、皮膚に加わる様々な周波数の触覚刺激を統合することで多彩な触感を感じている。本研究ではそのような触感知覚の仕組みに着目し、複数周波数帯の超音波刺激を自在に合成することで、多彩な触感を非接触に生み出す技術を考案した。
まず、先ほどの研究で明らかになった知見を活用し、強い力を生み出す刺激として、5Hzで回転する焦点を提示。さらに、その回転する焦点の提示力を30Hz, 200Hzで変調させることで、超音波焦点を肌の上で振動させている。提示力変調の振幅を調整することで、最終的に提示される振動の強さが決定される。3つの周波数帯の超音波刺激を合成し、ユーザの肌に提示する。
この技術を用いることで、様々な触感をユーザに提示することができる。まず、物体に触れている感覚を焦点の5Hz回転による力の提示で再現できる。さらに、物体の表面を撫でた時に指に加わる振動を、30Hz, 200Hzの合成で再現できる。結果的に、つるつる、さらさら、ざらざらといった様々な強さの粗さ感を自在に調整できるようになった。また、この成果は東京大学との共同研究によるものとのこと。
本研究成果は触覚分野の国際会議Eurohaptics conference 2024で発表し、Best paper awardおよびBest demonstration awardにノミネートされた。また、5月20日より開催される、コミュニケーション科学基礎研究所オープンハウス2025に出展する予定だ。
Top Image : © 日本電信電話 株式会社