News
2023.08.09
知財ニュース
Meta、VR/MRヘッドセットの新プロトタイプを公開─網膜解像度・可変焦点と、新たなパススルー技術を公開
米Metaは現地時間8月1日、研究開発中のVRヘッドセットのプロトタイプを公開した。MetaでVR/MRやメタバースなどの研究開発を担うReality Labsの、ディスプレイシステム研究チームが開発。人の目の能力に近い解像度を持ち、可変焦点機能を搭載した「Butterscotch Varifocal」と、光線を制御して、目で見たような自然なパススルー(信号などの通信)を実現する「Flamera」の2種類を公開した。
「Butterscotch Varifocal」は、Metaが2015年から研究してきた焦点距離を変えることができるバリフォーカル技術と、22年に発表した、人の目に近い高解像度(retinal resolution)を持つVRディスプレイ「Butterscotch」の技術を組み合わせて開発した。
人の目の解像度は、約60PPD(Pixel Per Degree:視野角1度あたりに占める画素数)とされており、また無限の遠方から約25㎝の近距離まで、様々な対象物の距離に対応できる。これに対し、従来の主流なVRディスプレイは、30PPD未満であり、また焦点距離を固定してピント調整する仕様を採っている。そのため、近くの コンテンツがぼやけて見え、時間の経過に伴い不快感や疲労感を生じさせる。
「Butterscotch Varifocal」が持つ網膜解像度は、最大56PPD。人の目に近い解像度を提供する。また、アイトラッキング技術を用い、ユーザーが見ている箇所を検知して、適切な焦点距離に変化させる。約25㎝の近距離でも、物理的な世界で見るのと同じような鮮明な映像表示が可能という。
同プロトタイプには、市場に流通しているLCD(液晶)パネルを活用しており、高解像度を達成するため、視野角を調整。「Meta Quest 2」では90度以上ある視野角を50度までに制限して、網膜解像度を実現している。
また、18年発表のバリフォーカル技術搭載プロトタイプ「Half Dome 3」ではデバイスの小型化に注力したが、性能や画質の低下が生じた点を踏まえ、今回はサイズ・重量よりも、解像度や機能性を優先して開発したという。
もう1つのプロトタイプ「Flamera」は、ディスプレイ前面に複数カメラを設置するライトフィールドカメラに、光線の入射を絞る機能を追加したカメラ技術。ヘッドセットを装着していても、直に目で見るような自然な周囲の様子をディスプレイ表示できる。開発者は「ヘッドセットを装着したまま周囲とのつながりを保つ重要な技術」と述べている。
従来のVRヘッドセットでは、カメラが目の位置よりも前にあるため、装着していない時の見え方とは異なる映像が表示される。画像補正して再投影することもできるが、その際に歪みやノイズが発生する可能性もあるという。
「Flamera」では、直接目で見る際に入る光線だけを捕らえる、絞り機能を独自設計。レンズとセンサーの間に絞りを設置して不要な光線をブロックし、必要な光線だけを目に届ける。それにより、低遅延で高解像度、歪み・ノイズの少ないパススルーを実現している。
なお、この設計は薄型のヘッドセットで最も高い効果を発揮する。研究チームは今回「Flamera」活用のため、新たなヘッドセットの設計・開発を行ったという。
「Butterscotch Varifocal」「Flamera」は、いずれもまだ研究段階であり、消費者向け製品として展開しない可能性もある。研究チームは、製品化に重点を置くのではなく、VR/MR技術の開発促進や、未来創造に向けた機会提供を目指して研究を進めているという。
2つのプロトタイプは、23年8月6~10日に開催される技術カンファレンス「SIGGRAPH 2023」でデモの公開を予定。Metaの新たな取り組みが、VR/MR業界全体のさらなる技術進化を促すと期待される。
関連ブログ
「Butterscotch Varifocal」に関する論文 ” Retinal-Resolution Varifocal VR”
「Flamera」に関する論文 “Perspective-Correct VR Passthrough Without Reprojection”
「SIGGRAPH 2023」公式サイト
Top Image : © Meta