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2024.11.12
知財ニュース
台湾の「学美・美学プロジェクト」、5年間で小中高専門学校・全91校のキャンパスを改造
財団法人台湾デザイン研究院(Taiwan Design Research Institute)が教育部(日本の文科省に相当)との協働で2019年から推進する「学美・美学プロジェクト」は5年目を迎え、これまでに台湾各地の小中高専門学校全91校で実施された。2023年度には145校がエントリーし、審査を経て選出された16校が、選抜された各デザインチームとの連携でキャンパス改造を実施した。
台北市芳和実験中学校では、廃棄ゴムをリサイクルして起伏のあるなだらかな丘を作り、新しい憩いの場を作った。(デザイン担当:陳彥儒建築師事務所、乙乙)
近年の台湾では、教育界に大きな影響をもたらした教育改革が複数見受けられている。2014年に交付された「実験教育三法」、2019年に刷新された「新学習指導要領」、2023年の「特別支援教育法」や2024年の「学生支援法」の10年ぶりの大幅改正などは、重要なマイルストーンとなった。
「学美・美学プロジェクト」は、2019年から開始されたプロジェクトで、こうした趨勢の中で教育界とデザイン界の大規模な協働により、公募で選出された公立・私立校の小中高・職業専門学校と、専門のデザインチームがデザイン思考を導入し、教育理念に立ち返り、あるべき学習環境のモデルを提示するものだ。
これまでに2020年度「Good Design Award」(日本)、2021年度「iF Design Award」(ドイツ)など、世界的なデザインアワードを受賞している。
第5回目となった2023年度は、台湾各地から145校がエントリーし、審査を経て選出された16校が、デザインチームとの連携でキャンパス改造を実施。今回はイノベーティブな教育法など教育現場のトレンドにフォーカスしたデザインが導入された。
高雄市新庄高校では参加型デザインに関する全4回の授業が実施された。(デザイン担当:一起設計 Atelier Let's 李廣宣、撮影:Wei Huang)
雲林県華南実験小学校と台南市左鎮中学校では、「プロジェクト型学習(PBL、Project Based Learning)」に適した教室が作られ、離島の澎湖県澎南中学校ではローカル文化とグローバル文化を融合させた島のデザイン拠点が生み出された。嘉義県民和中学校では、日本の先住民に相当する「台湾原住民」の科学と人文学をテーマにした理化学実験室が作られた。
雲林県華南実験小学校に作られた、「プロジェクト型学習(PBL、Project Based Learning)」に適した教室。(デザイン担当:無有設計、林子文建築師事務所)
嘉義県民和中学校に作られた、「台湾原住民」の科学と人文学をテーマにした理化学実験室。(デザイン担当:群作築耕)
各学校校内の導線も改善された。たとえば新北市自強中学校では、校門脇の管理室を改修し、教師と保護者が軽い打ち合わせを持てる場所として機能させられるよう設計。台北市芳和実験中学校では、下校の際に生徒たちが毎日通るホールを、生徒たちの「遠征学習(Expeditionary Learning)」の成果発表のギャラリーに改造した。
このプロジェクトでは、教育部の指導のもと、台湾デザイン研究院が学校、デザインチームそれぞれのエントリーを受け付け、選考を経てマッチングを行った上で実施される。竣工までのプロセスは確立されており、プロジェクトの顧問に招いた各分野の専門家たちもアドバイスを行う。これまでの5年間で97のデザインチームがこのプロジェクトに参加してきた。
5年目の今年は、初めて生徒たちが改造プロジェクトに参加する試みが導入された。高雄市新庄高校では公民の授業と組み合わせることで、学びの場の共創を実現。苗栗県の三湾小学校大坪分校の食育教室の改造では、生徒たちの学校生活をストーリーにし、そこから連想したモチーフを元にキャビネットの取っ手を作るというプロセスを経った。
高雄市新庄高校の録音ブースでは、遮音カーテンのデザインに生徒たちが採集した地元の色が用いられた。(デザイン担当:一起設計 Atelier Let's 李廣宣、撮影:Wei Huang)
苗栗県の三湾小学校大坪分校の食育教室のキャビネットの取っ手は、生徒たちが作った木工作品。(デザイン担当:織理設計)
教育部と台湾デザイン研究院は、松山文化創意園区内にある台湾デザイン館で「CLASS PLAY 走進.學美」という展示を11月20日まで開催中だ。最新の成果を詳細に紹介することで、台湾各地の教育現場が台湾の教育の趨勢や革新に触れ、より豊かで多様な想像力を備えた学習環境を創り出すことを期待している。
Top Image : © 財団法人 台湾デザイン研究院