News
2023.08.15
知財ニュース
花王ら、殺虫成分を使わず蚊を駆除する新技術を開発─界面活性剤により蚊を''ノックダウン''
花王のパーソナルヘルスケア研究所は、界面活性剤で蚊の動きを制御することで、簡単に蚊を駆除できる技術を開発した。殺虫成分を使わず、蚊をノックダウンさせられる。
本技術は、同社が理化学研究所脳神経科学研究センター 知覚神経回路機構研究チームと共同で開発したもの。表面張力の低い界面活性剤水溶液をミスト状に噴霧して蚊に吹きかけるだけで、蚊の飛行行動を妨害しノックダウン状態にさせられるという。
蚊は、デング熱やマラリアなど、重篤な感染症の媒介となりうることから、多くの人々に深刻な被害をもたらす世界的な問題となっている。これまで、蚊の駆除には、ピレスロイド類を用いた殺虫剤が多く使用されてきたが、近年はピレスロイド類に対する抵抗性を持ち、殺虫剤で死なない蚊が増加していることが東南アジアなどで確認されており、持続的に使用できる駆除方法の開発が求められてきた。
そこで同社は、蚊の飛行を妨げることを目標に研究を推進。2020年には、蚊の脚にシリコーンオイルを塗布することで肌への降着を抑制し、刺されなくする技術を開発しており、蚊の体や羽をぬらすことで蚊の飛行行動を変えられると考え、界面活性剤に着目したという。
界面活性剤には、物質同士の境界面(界面)の性質を変化させる働きがあり、水に添加されると水溶液の表面張力を低下させ、水をはじく材質にも馴染みやすくなる。一方、蚊の体表面は、微細な凹凸構造でワックスなどの疎水性成分で覆われており水をはじくため、雨でもぬれることなく水場での産卵・羽化できるという。同社はこういった蚊の特性に着目し、界面活性剤の性質を利用して疎水性のある蚊の体の表面をぬらすことができることを見いだした。
蚊は水をはじくため、水を蚊に噴霧しても飛行行動に影響は出ないが、界面活性剤水溶液をミスト状に噴霧して吹きかけるだけで蚊が落下することを発見した。
さらに、表面張力が低い液体を蚊に付着させることで、昆虫が酸素を含む空気を取り込むための「気門」と呼ばれる体表面の穴がふさがれるため、気門を通じた酸素の取り込みができなくなるため死に至る、ノックダウン状態を引き起こすと考えられるという。
同社によれば、界面活性剤水溶液は蚊の体をぬらすという物理的な殺虫方法であることから、抵抗性を獲得しにくいものとし、蚊の駆除に持続的に利用できるとのこと。今後は本技術を実装し、蚊媒介感染症の防止を目指すとしている。
Top Image : © 花王 株式会社