News
2024.11.11
知財ニュース
東京大学ら共同研究グループ、光合成を行う葉緑体をハムスターの動物培養細胞に移植することに成功
東京大学、理化学研究所、東京理科大学、早稲田大学の共同研究グループは、藻類の葉緑体をハムスターの動物培養細胞に移植し、動物培養細胞内で光合成反応を検出することに成功したと発表した。
今回の葉緑体移植技術の開発により、動物細胞から酸素を発生させるとともに、排出される二酸化炭素を削減する突破口を開くことができた。葉緑体移植により、光によるクリーンエネルギーを用いて動物培養細胞の増殖を促進することが可能になり、細胞培養コストの低下や二酸化炭素排出の削減が期待できるとされている。
葉緑体は植物細胞の中で光合成を行う細胞内小器官だ。動物細胞は葉緑体を異物として認識して消化するため、葉緑体を動物に移植することは困難だった。
研究グル―プは、原始的な藻類「シゾン」から葉緑体を単離することに成功し、その葉緑体をハムスターの培養細胞・CHO細胞に取り込ませる方法を開発した。CHO細胞の貪食作用を高めることで、葉緑体をCHO細胞に取り込ませることができたのだという。その結果、CHO細胞に最大45個の葉緑体を取り込ませることに成功した。
藻類から移植された葉緑体を持つハムスター培養細胞(CHO細胞)
葉緑体を取り込んだ場合もCHO細胞の増殖は阻害されず、正常に細胞分裂を行った。また、蛍光レーザー顕微鏡解析や超解像顕微鏡で細胞断層像を撮影した結果、取り込まれた葉緑体はCHO細胞の細胞質に存在しており、その一部は細胞核の周りを取り囲むように配置していた。
シゾンから単離された葉緑体の電子顕微鏡写真
葉緑体移植後、数時間後のハムスター細胞内部の電子顕微鏡写真
葉緑体移植後、2日目のハムスター細胞内部の電子顕微鏡写真
葉緑体移植後、4日目のハムスター細胞内部の電子顕微鏡写真
電子顕微鏡を用いて、CHO細胞内の葉緑体を詳細に解析すると、単離された葉緑体は光合成に関与する酵素が配置されるチラコイド膜の構造が維持されていることが分かった。葉緑体はCHO細胞内に取り込まれてから2日間は光合成活性を保持していたが、4日目に入ると、その活性は著しく減少したのだという。
研究グループは、移植した葉緑体が動物細胞内でより長く光合成活性を維持するための技術開発を進めている。また、植物の機能を持つ動物細胞の創製を目指して研究を続けており、今回の葉緑体移植法の開発は、その突破口になると期待されている。
Top Image : © 東京 大学