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2021.07.20

コラム | 知財図鑑コラム

メディアから越境する「知財図鑑」編集部が語る、知財の“その先”の話。

来たれ妄想家

編集部を率いる“非研究者系”コンビ

―はじめに、お二人の経歴や知財図鑑に出会うまでの話を教えてください。

荒井:編集長の荒井です。もともとクリエイティブの系の会社でプロデュース事業や企画等を幅広く経験したあと、知財図鑑の関連会社である株式会社コネルに入りました。コネルでの仕事はアートやテクノロジーに囲まれることが多く、各所から「こんな技術があるよ」と紹介され、研究所から出たばかりの“知財の源流”に触れる機会がたびたびありました。でも、知財ホルダー側は多くの人に活用してもらいたいのにも関わらず、その知見が貯まっていくのは僕らだけ、という状況はもったいないと感じていて。だったら別のチームを作って知財をもっと外に紹介していくべきだろうという話になり、2020年4月、「知財図鑑」が生まれました。魅力的な知財をクリエイターの視点を通すことで“非研究者”にも理解できるような平易な表現で紹介し、新たな活用方法を生み出していくメディアです。1年半経って、メディアだけでなく活動領域もどんどん広がっていますが、そのへんはまた後ほど。

arai 編集長の荒井亮。細やかな気遣いと優しさを併せ持ち、ポジティブに現場を引っ張るリーダー。たまに吐く毒がチャームポイント

―一方の松岡さんは、編集畑で活動してきたんですよね。

松岡: はい。もともと大学では映像の勉強をしており、卒業後は広告制作会社で働いていたのですが、その後は出版社に転職して紙メディアの編集を4年ほどやっていました。今は知財図鑑の副編集長として、ライターやイラストレーターの皆さんと連携しながら日々の編集・運営を主に担当しています。入社したのは今年の2月で、知財図鑑初の正社員でもあります。

―なぜ紙メディアから知財図鑑に?

松岡:わりと特色ある出版社で、確立されたフォーマットみたいなものがある環境でやっていたんですが、30歳になるのを機に、もっと新しいことを若いメディアでやってみたいなと思って。メディアの“器”から作るような仕事をしてみたかったんです。
そんな中、知財図鑑の“非研究者向け”というコンセプトを知ってすごく良いなと思いました。僕は文系だしテクノロジーには正直弱いけど、非研究者に対して知財の可能性を伝えていくなら僕みたいな人間が中にいてもいいんじゃないかと、この会社の門を叩きました。

matsuoka 副編集長の松岡真吾。手堅く決して弱音を吐かない仕事スタイルとその風貌から、「知財侍」と一部で呼ばれている

―知財図鑑はメディアのローンチ時点で会社化していますが、これはなかなか思い切ったことですよね。

荒井:そうかもしれないですね。メディアを作って世間の反応見てから会社化する、というのが確かに一般的かも。ただ知財図鑑に関しては、メディアの枠を超えたビジネスになっていく可能性を構想の初期から感じていたので、プロジェクトではなく会社として本腰を入れていきたいという思いがありました。
実際、ローンチの段階で既に「この知財の可能性を一緒に考えてほしい」と大手企業からの相談もいただいていたので、“眠っている知財を世に出して、クリエイティブの力で活用への道筋を作る”というニーズは少なからずあるはずだと感じていたんです。それに知財業界でこの手の活動をやっているプレイヤーもあまりいないようだったので、ブルーオーシャンなのでは?と。

―なるほど。たしかに知財図鑑のような知財メディアはなかなか見当たらないかも・・・。

松岡:僕がこの編集部に入って一番良いなと思ったのは、コネルというデザインやコミュニケーション設計に長けたチームがすぐ近くにいるということ(※コネルと知財図鑑はオフィスも同じ場所)。知財というこれまで比較的堅くてクローズドな印象のあった分野を、どうやって見せていくと伝わるか、どこを切り取れば面白くなるかということをうまく表現できるクリエイターがたくさんいるんです。おまけに彼らはテンポよくプロジェクトを進めることに慣れているから、その文化が知財図鑑にまで染み出してきていて、「やろう!」となったらすぐ形にして、走りながらチューニングするみたいなスピード感もあると思いますね。
知財メディアというより、感覚的にはアートやカルチャーを扱うサイトっぽい感覚で作っている感じがします。

荒井:あぁ、確かにカルチャーサイトっぽいノリはあるかもね。“現象としての面白さ”みたいなものを重視して紹介知財を選定したうえで、「なにがすごいのか?」「なぜできるのか?」などクリエイターが気になりそうなポイントを簡潔に示し、「相性の良い分野」への発想を広げていくのが記事のテンプレ。さらにそこで終わらせず、面白いアイディアは「妄想プロジェクト」としてイラスト化したりプロジェクトに昇華したり。そのあたりのメディアの“その先”がある新しさが評価されてGOOD DESIGN賞やACC賞もいただけたんじゃないかと思ってます。

対談

―実際に、メディアとして紹介するだけじゃない“その先”につながった事例はありますか?

松岡:株式会社タイカの「HAPTICS OF WONDER 12触αGEL見本帖」の流れは面白かったですね。この知財は触覚の体感キットなんですが、これを使って「さわれる動物園」が作れたら面白いよねと“妄想”を公開したら、各所からいろいろと反響があって。今複数のコラボ企画が検討されています。クリエイターの無責任とも言えるアイディアが輪郭を帯びて社会実装されていくのは、すごくワクワクしますね。

Haptics

さわれる動物園 「HAPTICS OF WONDER 12触αGEL見本帖」のイメージと、その妄想プロジェクト「さわれる動物園」のイラスト

荒井:僕が印象深いのは「LIMEX」の案件。LIMEXは紙やプラスチックの代替品になる環境負荷の少ない新素材なので、耐水性を活用してサウナの中でも読める漫画を作れないかと「漫画喫サウナ」という妄想をしました。開発元のTBM社の方ともこの企画で盛り上がったのですが、この妄想自体は実現できませんでした。ただ、そこから話が広がり、ファッション誌『ELLE JAPON』の付録として「LIMEXマスクケース」が世の中に出ることになったんです。

こうしたケースは僕らもやりがいを感じますし、何より知財ホルダーが「こんな使い方があったのか」と喜んでくれるのが嬉しいですね。紹介して終わりではない、その先にアクションが続いているのが知財図鑑。今僕らは知財メディアとして何かでNo.1になりたいと思ってやってますが、それはPV数や権威ではなく、「ここに載せると思いも寄らない実用化の話が進む」など、研究者にとって意義のある存在になりたいんです。

漫画喫サウナ

maskcase 「LIMEX」の妄想プロジェクト「漫画喫サウナ」のイラストと、雑誌付録として形になった「LIMEXマスクケース」

2年目の「知財図鑑」は点から面へ

―知財図鑑は2年目に入り、ますます活動領域を広げているように思います。

荒井:1年目はメディアとしてのコンセプトを固めることと、充実したサイトにすべくとにかく記事コンテンツを増やすことを第一にやってきました。そして2年目は集まってきた知財を“どう世の中に実装していくか”が大きなテーマだと考えています。これまでも「αGEL」や「LIMEX」のような実装事例もありましたが、それはまだ知財の“点”の話。そこから発展して、多くの優れた知財を多くの人に体験を交えて届け “面”で広めていく段階に進みたい。だからウェブの世界だけでなくもっとリアルな場所にも出ていきたいですね。

―具体的に動いていることはありますか?

荒井:いろいろあるのですが、中目黒にオープンする「OPEN FIRM」というクリエイター向け施設内に、「知財の窓」という知財図鑑のコンテンツを発信するデジタルサイネージを設置する予定です。編集部がピックアップしたテーマごとの知財情報を常に流して、その場に集まるクリエイターの皆さんのインスピレーションを刺激するような場にしていきたい。良いアイディアがあればその場で投稿できるインタラクティブ性もあるので、より広く活用アイディアが集まり、知財とのコラボレーションが生まれることを期待しています。

2021 06 10 OPEN FIRM logo black 01

松岡:あと今年の目玉は書籍化ですよね。“知財図鑑”の名の通り、一覧性のある図鑑にしようという話をいただきまして、どんな本にしていくか皆で議論を重ねているところです。今までウェブメディアでは届かなかった人たちにアプローチが可能ですし、それこそ知財を“面”で届けていくためには絶好のチャンスだと思っています。

―リアルな図鑑になるんですね!それは楽しみ。今年はラジオへの定期出演もあって、知名度もじわじわ上がっているんじゃないでしょうか?

松岡:はい。J-WAVE81.3FMの「INNOVATION WORLD」という番組内のコーナーに、知財図鑑共同代表の出村が毎月出演しています。知財ハンターが今注目する知財をピックアップして解説するのですが、ナビゲーターの川田十夢さん自身もクリエイターなので、毎回いろんな発想が出て面白い内容ですよ。川田さんは知財を収集する「知財ハンター」としても立候補してくれて、日々興味深い知財をハントして下さってます。(川田さんと出村の対談記事はこちら

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―活動領域が広がってきていることで、周囲からの反応に変化はありますか?

荒井:ありますね。僕らはこれまで主に知財ホルダーに対してクリエイター視点で新たな活用を促進してきたのですが、最近は逆にクリエイターの側から「今イケてる知財を教えて」と要望をいただくことが増えていて。これはすごく嬉しいことで、僕らの“目利き”としての役割や、知財ホルダーとつなぐハブとしての役割を期待されるようになってきたんだなぁとしみじみしてます。
実際、いくつかのクリエイティブチームや広告代理店に対して定期的な勉強会を開催していて、思いもよらないアイディアが飛び交う刺激的な時間になっています。

専門性より好奇心。妄想好きなら大歓迎

―知財図鑑では今新たな仲間を募集しているんですよね。

荒井:お話ししたとおり、やりたいことが盛りだくさんでして(笑)・・・、一緒に走ってくれる方を募集します。ライターやイラストレーターはもちろん、積極的に外に出て行って新たなビジネスの可能性を見つける営業メンバーにも、ぜひ加わって欲しいです。

―どんな人が向いているでしょうか?

松岡:毎日触れる新しい知財情報をワクワクして探究するような、好奇心が強い人ですかね。興味の範囲は広ければ広いほど良いと思いますが、ある特定のジャンルをオタク的に詳しかったり、推し分野がある人も編集部的には嬉しい存在です。

荒井:それと、メディアを使ってアイディアを拡張させていく意欲がある人は、すごく楽しめると思います。こうしなきゃいけないという決まったフォーマットがないので、“知財図鑑という知財”をどう活用するかを妄想して、一緒にどんどん形にしていきたいですね。

―“知財図鑑という知財”ですか。その活用方法を考えるということ自体がもう「妄想プロジェクト」だっていう。

荒井:なんだか話がどんどんメタ化してしまいますが(笑)。でもそのくらい柔らかい頭で知財の可能性を考えたいんです。以前「知財でポン」というカードゲームを皆でやって盛り上がりましたけど、たとえばそんな風にゲームにして知財を伝えていく手法だって良いわけで。

知財棚

―松岡さんは入社してまだ半年ですが、知財図鑑に入って良かったと思うのはどんなことですか?

松岡:扱う情報がポジティブなものばかりなので、精神衛生的に良い気がしています(笑)。世の中暗いニュースも多いですが、知財ってそもそも「どうしたら未来がもっと明るくなるだろう?」と考えて作られているものなので、そういう情報に囲まれていると、無意識に前向きな気持ちにさせられるんですよね。
それと、知財図鑑もそばにいるコネルも、感性豊かで若いメンバーが多く活気があります。僕の年齢で中堅くらいですから、若手のデジタル感度の高さや知財との自由な向き合い方に触れながら、日々刺激をもらっていますよ。

日本=知財大国のポテンシャルを最大化させたい


―メディアのコンテンツとしては、これからやってみたいことはありますか?

松岡:僕はもっとリアルな場所に出て行ってイベントや展示をレポートしたり、知財図鑑で主催するものの増やしたいですね。世の中的にもコロナの揺り戻しで手触り感のあるアナログなものが求められている気がするので、足で稼いだ情報でフリーペーパー作ったりとか、やってみたいですねぇ。

荒井:そういえば松岡くんの趣味、はしご酒だもんね(笑)。なかなか思うように外に出られなくて、リアルなことをやりたい欲求が溜まってるんだろうな・・・。

―そういう個人的な思いもあるんですね(笑)。最後に、荒井さんから今後の知財図鑑の展望について教えて下さい。

荒井:今考えているのは、知財図鑑に“社会公器”としての側面も持たせていくことです。社会の中で必要とされている場所で、僕たちが貢献できるようになりたい。そのためにたとえば地域や行政との連携を強めていき、地方に埋もれている資源にもっと光を当てるような試みもしていきたいですね。

松岡:それに関連して、知財図鑑による「“地”財図鑑」を作るアイディアも出てますよね。たとえば町工場が多い地域の“知る人ぞ知る技術”を集めて図鑑にしたら面白いものができそうだよね、とか。地域と知財の関係性は注目していきたいポイントです。

荒井:そうした各地の“地”財を抱えて構成されている日本は、世界有数の研究国家であり知財大国です。にもかかわらず活用のフェーズへの到達率が世界に比較して低い。せっかくの研究成果やポテンシャルが活かせてないのは本当にもったいないので、“知財を社会に返していく”ような活動ができたらと思っています。

―フリーペーパーから国の話まで・・・広い!これからの知財図鑑が楽しみです。私も「知財ハンター」の一員として精進しようと思います。ありがとうございました。

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