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2025.12.16
コラム | 地財図鑑
三浦半島から広がる、「やりたい」 から始まる新しい教育。
ここ数年、周りで「学校をつくります!」という人が何人も出てきた。
全員40代。そして各分野で活躍してきた優秀な人ばかり。
自身が親となったことで学校教育を身近に感じたり、見据える未来が子供視点になってくる、40代とはそんな世代だ。
でも、彼らが学校に着目する理由はきっとそれだけではない。
ビジネスや社会的活動をする中で、優秀な人ほど「これから最も力を入れるべきは教育だ」という考えに行きつくのだろうなと思う。
いろいろと課題はあれどこれだけ豊かな日本で、不登校児童の数が過去最多、10代の死因第1位が「自殺」なのは、やっぱり何かがおかしい。
「子供が幸せに生きる環境を作ることが、世界を良くしていくための大きな鍵になる。」
そこに使命感を持ったキーマンたちが、次々と学校設立という行動を起こしているように見える。
そしてまたひとつ、三浦半島は横須賀・秋谷で立ち上がったのが、オルタナティブスクール「The WILL」の開校プロジェクト。
私が出会ってきた「学校をつくります!」の人々との大きな違いは、設立メンバーが皆ついこの前まで国立小学校の教師だったこと。
“教育の最前線でさまざまなリアルを見てきた先生たちが考える、理想の学校のかたち”
それは気になりすぎる!!ということで、学校体験会に赴き、お話を聞いてきた。
「WILL」を軸に学ぶということ
The WILLはオルタナティブスクールという位置付けになる。そもそもオルタナティブスクールって何?という点から触れると、
「オルタナティブスクールは、「もうひとつの選択肢(alternative)」として、公立・私立の枠にとらわれず、子ども一人ひとりの個性や主体性、多様な学び方を尊重する教育を行う学校です。」
-The WILL ホームページより
とのことで、学校教育法とは異なる教育方針を取ることから、公立校に籍を置いたまま、オルタナティブスクールを「出席扱い」にすることで卒業資格を得る連携がある。また、居場所としての役割が大きいフリースクールとは異なり、積極的にその学校の教育方針に沿って「主体的にこれを学びたい!」という親子が集まっているのが特徴だ。
そしてこの「主体的に、意志を持って」こそが、The WILLの目指す教育の根幹にあるということが、代表理事の川口さんのお話から伝わってきた。
まず、The WILLの理念はこうだ。
The WILL では、6年間を通して 「志」 を中心に据え、学びを深めていきます。
「行動力」 を土台に自分の思いを形にし、
「生活力」 を通じて人としての基礎を築き、
「AI活用力」 を磨き、現代社会で自らの力を発揮できる人へと成長していきます。
そして、それらを支えるのは、他者を思いやり、共に生きる姿勢である 「人間性」 です。
子どもたちが、自然と調和し、生き物と共に生きることを大切にし、どんな時代でも自分の 「志」 を持って歩んでいける人に育つことを目指しています。-The WILL ホームページより
私 「国算理社といった教科学習はどう学ぶんでしょうか?」
川口さん 「基本的なことはしっかり学びます。が、教科書からではなく生活の中から学ぶのがメイン。例えば算数であれば『下駄箱が必要だから作りたいな、どうしたら大きさを測れるかな?そうか、cmという単位があるんだな!』というようなイメージですね。」
私 「AIも積極的に活用していくそうですが、自然の中での学びとどう結びつくのでしょうか?」
川口さん「子供たちにやりたいことが出てきた時、特に高学年で時間のかかる大きなことにチャレンジしたいとなった時、生成AIのようなツールは大変役に立ちます。答えを得るためでなく、あくまで“やりたいことを行動に移す”ための補助ツールとして活用していきます。」
私 「秋谷周辺の地域の人との関わりも楽しみです。具体的にはどんなことで連携するのですか?」
川口さん 「現時点でここを地域の方と連携する、とは決めていません。と言うのも、子供たちが何かをやりたい!と考えて、その中で 『じゃあこれに詳しそうな◯◯さんに教えてもらいに行こう』 というような流れで連携したいからです。」
お話しながら、あぁ私の頭はまだ既存教育の枠組みのなかでガチガチだなぁと思った。
ここではいつも真ん中に「やりたい!という意志(WILL)」があって、そこから学びにつなぐという順番なのだ。
決まったカリキュラムで学習→やりたいことを見つける、という公教育とは真逆。
学校とはそういうものだと刷り込まれていたことにハッとした。
そしてこの考え方を時間割に落とし込むとこうなる。
めちゃくちゃ楽しそうじゃないか。
「プロジェクト」では個人やチームで目標を立て、知恵を出し合いながら時間をかけてやりたいことを進めていくそう。それが生きた教科学習にもなっていく。
思えば、自分の子供の頃を振り返ってみると、「WILL=やりたい!という意志」 を強く持ち続けて自由に生きていた(そしてそれを周囲に潰されなかった←これ超重要)同級生が大人になって活躍していることに気づく。
ともすると 「クラスの変わり者」 だった数学オタクやギター小僧、実験少年、読書少女たちは今、大学教授や国連職員、経営者になった。
これらを成功と言うかどうかの正解はないけれど、みんな幸せそうだ。それが答えだと思う。
“地財”にアクセスする学校
さて、この学校の環境にも少し触れておきたい。校舎は妙忍寺の敷地内にある古民家。
高台にあり、庭からは久留和海岸を見下ろし、海の向こうに富士山を臨む、豊かな自然に囲まれた場所。
山に行こうと思えば徒歩圏内にいくつも選択肢があり、夏は坂を下れば静かな海水浴場。すぐ近くには心地よいコミュニティのあるコワーキングオフィスがあり、大人たちとの交流もしやすい。 学びのきっかけがゴロゴロ転がっている環境だ。
公立校だとなかなか「その土地ならではの学び」がカリキュラムに入りにくいのが実情だ。
私もまた海の近くに住んでおり、子どもは公立小学校に通っているのだが、驚いたのは授業で海に行くことがほぼないこと。山もすぐ近くにあるのに、体育はトレイルランではなく校庭を走る。公立校ならではの事情もあるのだろうし、最近は少しずつ改善されてきたのか「(地元産業の)ワカメの苗付け体験」なども取り入れられるようになってきたようだ。
それでもまだまだ“個人でアクセスしないと地域の資源(=地財)に触れられない”のは、何とももったいない。その地域の学校でしか体験できないことが増えれば、子どもたちにとっても地域にとっても良いことばかりだろうに。
The WILLが目指す地域の自然の中での教育には、「地財にアクセスして学ぶ学校」という意味でも期待している。
30年後、公教育のスタンダードへ
続けて川口さんに聞いた。
私 「10年後、その先の30年後、The WILLはどこを目指していきますか?」
川口さん 「徐々に受け入れる子供たちの数を増やしつつ、10年後には自治体や公立校との連携がある状態にしたい。The WILLの学び方を他校の先生たちにも知ってもらって、教育に希望を与える存在になりたいです。そして30年後には公立校の中にも僕らのような学び方が浸透していって、三浦半島全体が豊かな学び場になっていたら良いですね。」
川口さんたちは、The WILLが成長することをゴールにしていなかった。民間校から教育を変えていき、ゆくゆくは公立校を含めた地域全体の教育を豊かにしていく。そのための第一歩がこの学校なのだ。
そこにあるのは、他ならぬ大人たちのWILLなのだなと思った。WILLがある大人によるWILLを育てる教育が生まれようとしている。
最後に、印象的だった文章を紹介したい。
今この問いに答えられる大人がどれだけいるだろう?
子供から「僕はこれがやりたいんだけど、ママは?」なんて聞かれたらタジタジになりそう...
でも、そんな意志ある子供たちから大人の方が学ぶのもまた頼もしい未来かもしれない。
The WILLが描く三浦半島での新しい教育が今から楽しみだ。
子どもたちが 「自分の軸で生きること」 を大切にしています。
そのために、子どもたちが
「自分は何がやりたいのか?」
「自分はどうなりたいのか?」
「自分はどう在りたいのか?」
という問いを、自分の心に正直に問い続ける力を育てます。
私たち大人も同じ問いを子どもたちに投げかけ、対話を重ねることで、揺るぎない「自分軸」を築く土台を支えていきます。-The WILL ホームページより
※開校に向けたクラウドファンディングを実施中(12/31まで)
https://readyfor.jp/projects/161530
Text:Minako Ushida(知財ハンター)


