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2020.12.24
コラム | 特許文献を愛でる
「漫才を行う音声対話玩具」松下電器産業株式会社
パナソニック 株式会社
「知財」とは、数知れぬ開発者やデザイナーなど、様々な人たちの試行錯誤の軌跡です。最終的には利益と品質のために現実的な形になっていくアイディアたちも、この段階ではまだ、その開発者のワクワクや夢を纏って、荒削りならではの魅力を放っているのです。
特許庁のデータベース(J-PlatPat)には、出願された特許に関する情報が随時公開されています。その中からビジネス知財の世界とはまた一味違う、研究者たちのぬくもりやこだわり、そして暴走とも言える情熱の足跡を見出し、愛でていきたいと思います。
初回に取り上げるのは「音声対話玩具」です。この特許のテーマは「漫才のシナリオに応じた音声人形」。昨日、漫才日本一を決める大会「M-1」が開催されたということもあり、旬なキーワードとして取り上げるに至りました。
さて、この「音声対話玩具」の出願人は松下電器です。出願年は2003年(2008年にパナソニックに社名変更)。大阪が本拠地の松下電器が「漫才人形」を開発していた、というところにユーモアを大事にする関西の会社の気質が見える気がします。
特許情報によると、
【課題】面白く、変化に富んだ漫才対話をする玩具がなかった。
【解決手段】全体制御部9が、音声認識部11の結果に応じて、漫才人形の音声データベース2および6と、動作制御部4および8を制御して、漫才のシナリオに応じた人形同志の会話を実現する。この時、音声認識部11は、笑い声であるとか拍手とかつっこみの言葉などを認識して、「こんな所でうけまっか」などの応答とそれに応じた動作を返す。利用者が入ることで、ストーリーに変化を持たせることができるため、非常に面白くすることができる。記事冒頭の画像は、その新しい打楽器の外観。次の画像が、発音体の関係を示す断面図です。
とのこと。漫才する音声ロボットというだけではなく、観客の笑い声などの反応をみながら対応を変更させていくことができるようです。
J-PlatPatより
【従来の技術】
従来の音声対話玩具としては、例えば特開昭61ー167997号公報の会話ロボットが知られている。この会話ロボットは、人の言葉や日付、時間および外界センサ等の情報から記憶媒体に登録してある言葉から最適なものを選択するようにしてある。例えば、利用者が「おはよう」と発すると時間に応じて、「今日は早いね」、「今日は遅いね」などと返答する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記した従来の音声対話玩具は、簡単な挨拶程度のものであるため、子供向けの玩具であり、大人からみた場合に面白さにかけるという課題を有していた。そこで、本発明は、大人がみても面白いと感じることができる音声対話玩具で、特に漫才風の対話をする漫才人形を提供することを目的とする。
とあるように、音声認識と対話能力に主眼をおいた開発のよう。確かに、漫才というのは大変高度なロジックや共通言語、微妙な「間の取り方」などが必要となります。いわゆる「不気味の谷」のようなロボットだからこその違和感の正体は、そういった微妙な間の中にあるのかもしれません。
「漫才」の応酬ができるようになれば、音声ロボットは飛躍的に人間の会話に近づいていくのでは、という研究者の描く未来と応用可能性を感じる研究です。2003年に申請されたこの技術から約20年。音声認識技術は向上し、AIが対面でインフォメーションをしてくれる世界がようやく実現してきたと言えるでしょう。
未来のM-1大会には、ヒューマノイドが参戦してくる可能性だってゼロではありません。ロボットは人間を笑わせることができるのか。永遠の命題であり、とても夢がある研究ですね。