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2023.01.17
コラム
知財から未来を妄想する「知財ハンター」という存在
株式会社 知財図鑑
知財ハンターとは
知財図鑑の書籍『妄想と具現』。この中で語られている「DUAL-CAST(デュアルキャスト)」と名付けられたメソッドは、知財を軸に未来を妄想してきた「知財ハンター」の活動を体系化したものです。知財ハンターの活動を一言で表すと、「知財とアイデアをつなげて新規事業を生み出す」ことであり、「知財×クリエイティブ」な思考とスキルセットを通して妄想を具現化するために日々活動を行っています。
知財ハンターとは、知財図鑑の活動から生まれた肩書でもあり、社会的に重要になる「未来事業を導くためのオープンイノベーションスキル」を習得していこうとする活動でもあります。ここでは知財ハンターの活動を、本書の一部抜粋により紹介していこうと思います。
「自由に未来のサービスを考えてください」と言われても、どこから手を付けていいか分からずに困ってしまう人は多いだろう。これは企業における新規事業担当者が悩む共通項なのではないだろうか。変化が激しい社会がどの方角に向かうか予測しながら、自分たちのミッションやバリューと照らし合わせて、存在しない事業を妄想するのはとても難儀な仕事である。
そこで本書が勧めるのは、「知財」を出発点にすることだ。知財から未来事業を妄想することで、今の世の中に足りないピースを発見し、未来事業の着想を得ることができる。
ー「序章 新時代の知財ライフサイクル」より
新規事業を考える際に、知財をきっかけにすることで未来を具体的に妄想することができると私たちは考えています。なぜなら、特許をはじめとする知財は世の中を拡張する研究の最先端の成果であり、それらを活用することが社会の風景を変えていくことに繋がるからです。
なぜ知財ハンターが必要なのか
知財図鑑では、「非研究者」、つまりはビジネスをつくる事業開発者に知財が持つ可能性を届けるために、知財の良さを分解し、技術用語を翻訳し、知財によってでき得る未来を妄想し、発信している。そして、反応がよい妄想はプロトタイプを試作して体験を生み出すプロジェクトに発展している。
価値を分かりやすく、スピーディーに理解してもらうことが本職であるクリエイターにとって、この一連の流れはごく自然なことだったが、相談を持ちかけてくれる企業の技術者や知財管理者から、ことごとく「なぜそんなことを思いつけるのか?」「うちの研究員にもそういう発想ができるようになるか?」と質問を受け続けてきた。何度もそう言われるうちに自分でも疑問が湧いてきた。確かに、特定の技術の専門家でもない私たちが、なぜ新たな活用法を思いつくことができるのだろう。これが、私たちがクリエイティブの世界で自然と身に付けてきた発想法や、無自覚に行ってきたアイデアの推敲法を改めてきちんと体系化する契機となった。
ー「はじめに」より
なぜ知財ハンターが必要なのか。それは、上述のように「知財を生み出す研究職・アカデミック領域」と、「それを社会実装する事業部・ビジネス領域」の両サイドの橋渡し役を担うことができると考えるからです。
クリエイターとして様々な企業のブランディングやサービスのプロモーション、ユーザー体験の構築に触れてきた経験があるからこそ、知財をユニークに活用する方法を妄想し、適切に社会課題の文脈にアプローチすることができると思います。また同時に、両領域における大きな課題でもある「機会損失」を減らすことにもつながります。
何かしら企画を考えるとき、まずは「検索」して、それがどういう技術で実施されたのかを「解読」し、目の前にある課題にどうやって「活用」できるかを検討する。どのような産業においても企画段階では、同様な一連の流れがあるはずだ。
ただ、その流れにおいて特許技術などの「知財」が入ってくることはあまりない。なぜならそれらは学会や論文といった専門的な場で流通して、その内容を正しく解読することは困難で、努力して解読できたとしても、目の前の課題とのマッチングを考える前に力尽きてしまう。
「検索の壁・解読の壁・活用の壁」。この3つが知財の流動性を阻む大きな要素だと考えている。これらの壁によって、起きている機会損失は大きい(図表0-5)。
例えば、ビジネスサイドの機会損失として、すでに研究された知財が存在しているにもかかわらず、同じような技術を開発してしまう「車輪の再発明」は絶対に避けたい。知財の存在を知らないが故に、企画自体を断念してしまうこともあるが、これも大変にもったいない。
他方、研究開発サイドの視点としては、見つけてもらえないことで知財提供による収益化の機会を逸してしまう。知財情報の流通範囲がアカデミックな領域に限定されてしまうと、生活者視点での有効なフィードバックが得られず「ガラパゴス化」してしまうことが懸念される。両サイドで起こっているこうした機会損失は、数字には表れにくいが少ないとは言えないだろう(図表0-6)。
ー「序章 新時代の知財ライフサイクル」より
知財ハンターは、知財ホルダー側とそれを活用するビジネス側のミスマッチを減らし、世の中が進化のチャンスを失わないようにすることを意識しています。既存の知財を活用しながらスピーディーに提案を行い、「車輪の再発明」のための時間を極力省き、進化のスピードを早めるため、両者の媒介役として活動します。
知財の新しいライフサイクル
知財は、世の中に適切に活用されてこそ本領を発揮すると考えます。その点では、「取得特許のビジネス利用化率」が半分程度という現状からいかに脱していくべきでしょうか。
知財が特許出願されてから事業化して収益を生み出すまでを人の一生に例えると、研究者が研究成果や新しい技術を特許出願し、論文や学会発表などで周知することで知財は世の中に「誕生」する。しかし、研究者が評価されやすい基準が特許出願の本数になっているケースもあり、そこで研究が一区切り着いてしまうことも多々ある。
特許が社会実装に至るかどうかは、その企業の注力分野になっているか、市場規模がフィットしているか、事業部が正しく研究成果やユースケースを理解しているか、ほかに競合研究があるかなど、様々な要因に左右される。
だからこそ知財を分かりやすく翻訳して「タグ付け」と「カテゴライズ」を行うことで、社会から見つかりやすい状態を生み出すことが重要だ。生活者視点でのユースケースや、まだ見ぬ新規事業やサービスのタネを「妄想」することで、その課題に直面している人たちや、思いがけない領域のパートナーに知財の可能性を知らしめる。
興味を持ったパートナーと手を取り合い、実証実験を通して、社会に貢献できるポテンシャルがあるかどうかを見極めていく。そうして様々なフィードバックを得て「いける!」と判断されれば、いよいよその知財は事業に貢献することにつながる。
その一連のサイクルを「新時代の知財ライフサイクル」と位置づけた。知財が誕生してから親元を離れて独り立ちするまでのプロセスを一連のライフサイクルとして意識する企業が増えることを願っている。
ー「序章 新時代の知財ライフサイクル」より
知財をいかに流通させるか? 様々なアプローチがありますが、知財図鑑では「応用可能性が高く、現実に利用可能な知財」を、「妄想プロジェクト」として知財のユースケースを妄想し、妄想画家によってイラスト化しています。可視化(ビジュアライズ)することにより、よりクイックに、多くの人の目に止まりやすい形で知財情報が流通することになります。その未来に共感する人や思想を応援する企業などが現れることで、オープンイノベーションへと進んで行くことになります。
知財ハンターが目指す場所
私たちが目指したのは「知財への関心を高め、活用範囲を拡張し、応用のチャレンジを誘発」することだった。そこが正しく評価されたことは、今もなお迷わず活動に注力することにつながっ ている。
ある技術を、まるで大喜利のお題のように設定して未来の活用方法を「妄想」し、実装力でそれを「具現」し、仲間を魅了し、事業化に向けてプロジェクトに発展させていく。私たちはこの一連の手法を、「DUAL-CAST」(デュアルキャスト)と名付け、オープンイノベーションのプロジェクトをデザインするための手法として体系化した。
ー「はじめに」より
上記は、2020年の「グッドデザイン賞」を受賞したときの講評を受けての言葉です。私たちの取り組み自体が「産業向け意識改革・マネジメント」の分野にて社会的意義を備えたグッドデザインであると評価され、背中を押された思いがしたことを覚えています。
今回は知財ハンターの活動のアウトラインについてご紹介しました。知財ハンターがどのように「知財から未来を妄想し、具現化して社会実装するか」は「DUAL-CAST」という手法で本書に詳しく記載していますので、ぜひご覧ください。
また、知財図鑑では、知財ハンターのためのコミュニティ「知財ハンター協会」のDiscordを立ち上げて活動をしていきます。web3型のDAO(自律分散型組織)を目指して、少しずつ活動を本格化させていきますので、ご興味のある方はぜひ下記よりご連絡ください。「知財をオープンに」をヴィジョンとして掲げるメディアとして、妄想の伴走、ビジュアライズ、そして発信のお手伝いをしていきたいと考えています。
↓ 知財ハンターへのお問い合わせはこちら ↓
https://chizaizukan.com/contact
Text:荒井亮