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2022.06.29

コラム | 地財探訪

伝統染物「琉球びんがた」を特許文献から紐解いてみた【地財探訪 No.2】

地財探訪 no2

本コラムは、地域の財産である「地財」を探訪するものである。全国の「伝統的工芸品(*)」の歴史を紐解きながら、関連する知財権情報と合わせて紹介していく。(知財権:特に、特許権、実用新案権、意匠権、商標権)

(*) 伝統的工芸品:経済産業大臣によって指定された計237品目の工芸品(2022年3月18日現在)

例えば昭和時代に出願された特許情報には、職人の拘りや後世へ伝えたい想いなどが隠れているかもしれない。本コラムを通じ、数百年の歴史がある「地財」である伝統的工芸品の新たな魅力を発掘していきたい。現代に生きる者として、先人が遺した知的財産を更に後世へと伝えていく姿勢が大事と考えるためである。

地財探訪第2弾は沖縄県「琉球びんがた」。歴史を振り返りながら、昭和の紅型師による職人技術を特許文献からも拝見していく。(過去のコラム:第1弾 青森県「津軽塗」

01 琉球びんがたの概要 -美による調和-

14〜15世紀頃の琉球王朝は交易が盛んであり、交易品にはインドやジャワの「更紗(*)」、そして中国の型紙による「花布」があった。それら技法から生まれたのが「紅型」であるとされる。

(*)更紗(さらさ):インド発祥の木綿布のこと

琉球びんがた事業協同組合HP より 琉球びんがた事業協同組合HP より

紅型による優雅な衣装は王族・士族の女性によって愛用された。その後紅型は第二次世界大戦にて壊滅的な状況となるも、城間栄喜氏や知念績弘氏らによって伝統の灯を繋ぎ、復興の礎となった。

そして現在では、琉球びんがたの伝統を未来へと紡ぐための「琉球びんがた普及伝承コンソーシアム」が立ち上がっている。

商標登録第6198794号 商標登録第6198794号

この登録商標は当該コンソーシアムのロゴマークである。筆の周囲には、豆腐から作られた道具「るくじゅう」が多彩な色で描かれている。実際の琉球びんがたと同様、「緑」と「朱色」といった系統の異なる色を隣り合わせることで、大胆な調和を実現している。立体感を示すグラデーションは「隅取り」と呼ばれる技術である。

<経済産業大臣指定の伝統的工芸品>
「琉球びんがた」の指定は昭和59年5月31日。
<地域団体商標>
商標登録第5010729号「琉球びんがた」

02 琉球びんがたの特徴

  • 大胆な色使いによる「独創性」「生彩さ」がある。

  • 織った白生地に色を染める「後染め」である。

  • 魅力的な交易品として、周辺大国との「調和」を実現した歴史がある。

  • 南国特有の「神秘性」がある。

03 知財出願情報からみる琉球びんがた

特許第1061237号:皮革の紅型模様染色法

出願日:1976.7.6 発明者:知念 米正 氏 J-PlatPat リンク

特許第1061237号 特許第1061237号

1976年に特許出願された、皮革の染色方法に関する発明。酸性の天然植物性染料を用いることにより、従来における皮革染色の課題であった「耐水性」「耐日光堅牢性」について改善し、紅型模様を付した皮革製品の製造に成功したとのこと。第2図には模様部分3が描かれた型紙2、そして第6図、第7図には商品例が描かれている。

特開昭60-52684:染物・織物複合体及びその製作方法

出願日:1983.8.29 発明者:西平 幸子 氏 J-PlatPat リンク

特開昭60-52684 図1 特開昭60-52684 図1

先染めの織物である「琉球絣」と、後染めである「紅型」を組み合わせたもの。琉球絣1の空白部2に型紙4のパターン3を合わせて紅型の色を差すことで、織物と染物との複合体5が完成する。

発明者は女流紅型師である西平幸子氏。メッセージ性が強い作品を多く制作していたようである。

『戦没者への慰霊の思いを作品に託す等、思想的なメッセージ性の強い表現を紅型に試みる展開も、かつて「聞得大君」が祭祀を司った王朝時代への思いを常に抱く西平ならではといえる。』

(「琉球紅型の研究」論文概要書, 兒玉絵里子, 早稲田大学博士論文 P14より)

本発明は、従来交わることのなかった先染めと後染めが「調和」するもの。琉球びんがたの特徴やその歴史も「調和」が共通項である。未来にも調和がもたらされるようにと思いを込めて、本発明が生まれたのかもしれない。

特開昭60-224886:紅型染色法

出願日:1984.4.18 発明者:佐藤 真佐子氏、佐藤 実 氏  J-PlatPat リンク

こちらは色止め工程に「卵白」を用いるという内容。トレードオフ関係にある「摩擦堅牢度」と「顔料の展着性」を両立する発明である。

04 特許情報からみる琉球びんがたの周辺技術

<染色×皮革に関して出願された特許93件における技術分野の一覧>

母集団:2011年以降の出願 計93件(検索式:本記事下部) 母集団:2011年以降の出願 計93件(検索式:本記事下部)

<染色×皮革に関して近年多く特許出願している会社>

横軸:出願年 バブル大きさ:出願件数 横軸:出願年 バブル大きさ:出願件数

【クラレ】特許第7028412号:樹脂層付人工皮革及び靴

こちらは株式会社クラレによる、染料で染色された人工皮革が用いられた靴の特許事例である。人工皮革基材1の一面に樹脂層が設けられ、それらの明度差に特徴がある内容等で特許が取得されている。

特許第7028412号 図2 特許第7028412号 図2

【京都工芸繊維大学】特開2021-116387:アブラヤシ由来の染色加工材料及びそれを用いた染色加工方法

京都工芸繊維大学からは、アブラヤシ廃棄物を活用した染色材料について特許出願されている。バイオベースマテリアルを用いた新規染毛法を研究している安永秀計准教授による発明である。

特開2021-116387 図1 特開2021-116387 図1

<参考>
繊維学系 安永 秀計 Yasunaga Hidekazu」京都工芸繊維大学 研究者紹介ページ

最後に、一般的な染色技術について、明治時代に出願された実用新案登録を紹介する。実業家による一品である。

実用新案登録第492号:錦更紗

出願日:1905.1.10 考案者:寺西福吉 氏

実用新案登録第492号 より 実用新案登録第492号 より

布帛(イ)の上に粘着料(ハ)にて模様を描き、銅粉や金銀粉(ロ)を付着させ、蒟蒻粉液(ニ)を塗布するというもの。東洋リノリューム株式会社(現・東リ株式会社)の創業者となる寺西福吉氏による考案である。

【あとがき】「琉球びんがた」紐解いてみて

沖縄を代表する工芸品「琉球びんがた」について、その歴史を学びながら知財権の情報を調べてみました。特許第1061237号(1976年出願)においては型紙模様が特許図面に示されており、非常に興味深かったです。図面の型紙模様を琉球びんがたにて再現するなど、先人の職人による「知財」はとても活用しがいがありそうだと感じました。

参考情報
琉球びんがた事業協同組合
一般社団法人 琉球びんがた普及伝承コンソーシアム
琉球紅型「びんがた」l 佐藤 実, 繊維製品消費科学, 44巻(2003)8号
琉球びんがた l 伝統工芸 青山スクエア
【琉球びんがた】OKINAWA STRUCTURE Vol.1 沖縄伝統の染め技法、紅型の魅力と技術を伝える l UNAGINO-NEDOKO Official / うなぎの寝床公式チャンネル

・特許情報(母集団93件)検索式
① [染色/CL*皮革/CL]-[染色体/TX+汚染物/TX+除染物/TX]
② 出願日:20110101以降
①×②=93件  検索日:2022.4.6   検索DB:J-PlatPat

ライティング:知財ライターUchida
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