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2026.02.25

インタビュー | 佐野 風史

世界の外側を想像する─【AIの余白と人類の進化】 vol.02

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人類と人工知能がともに迎える「良いシンギュラリティ」の実現をめざす「ai-ai〈アイアイ〉」は、「Good Singularity(良い技術的特異点)」を迎えるためのリサーチとして連載企画「AIの余白と人類の進化」を始めます。

人工知能の余白と人類の進化を模索する――ai-ai は、人工知能と共に良いシンギュラリティを迎えるため、生成AI領域に特化した専門チームとして設立されました。
本企画では、人工知能の余白と人類の進化について、新しい視点を提案・実践している若手研究者やアーティスト、デザイナーの知見を借りることで、AIの異なる可能性やその実践のあり方を探ります。

第2回目のゲストは、新しい聴覚体験を追求するサウンドアーティスト・佐野風史さん。聞き手はai-aiチームより、永田一樹が務めます。

目に見えない世界を広げる


──最近、「WIRED Creative Hack Award」(以下、ハックアワード)での入選や「グッドデザイン・ニューホープ賞」最優秀賞を受賞されるなど大活躍ですね。

佐野

はい、ありがとうございます。

image7 佐野風史 2000年、京都府生まれ。サウンドアーティスト。 聞こえ自体の構成から考える「Hearing Composition」を手法の核とし、万物に気配を感じる想像力と情報空間を生きる現代の身体感覚が交差する日常の延長にある風景を探求。AI、耳介の機能、ノイズキャンセリング技術に介入するデバイスから空間音響まで、スケールとレイヤーを横断する。 NIMEやICADをはじめとする国際的な学会での発表、GOOD DESIGN NEWHOPE AWARD、WIRED CREATIVE HACK AWARD、ASIA DIGITAL ART AWARD FUKUOKA、山梨メディア芸術アワードでの入選など、国内外で活動を展開している。

──どういった作品で入選されたのか聞かせてもらえますでしょうか。

佐野

まず、グッドデザイン・ニューホープ賞の方では「天体音測会」という、星を音で観測するイベントが受賞しました。

東京などの都市部では、大気汚染や光害によって空を見上げても星が見えなかったり、そもそも空を見上げる人があまりいない状況があります。その中で、都市にいても星や宇宙と関係性を持つ方法はないかと考え、「星のデータを音に変換する」という装置を作りました。

この装置を元に、「音で星を観測する」というイベントを開催して受賞しました。単なる都市のイベントとしてだけではなく、小学校でワークショップとして使われたり、星や宇宙のための教育ツールとして展開することも考えています。

image2 「天体音測会」

──ありがとうございます。ハックアワードの方はどういう作品だったのでしょうか。

佐野

ハックアワードでは、《Moving Auricle Device -direct model-》という作品が入選しました。

耳の外側を「耳介(じかい)」と言うのですが、人間はあまり耳介を動かすことができず、普段の生活の中ではほぼ意識されません。でも猫やウサギなどの生き物は、耳の筋肉で形状を変化させ、音源を探したり感情表現をしたりと、非常に器用に動かせるんですね。そういうところに着想を得て、耳の形を動かすことによって人の意識を変えるとか、音の聞こえかた自体を変える、というデバイスを作りました。

このデバイスを使うと音の聞こえ方が変わる、正確にいうと「聞こえる音の手前」を操作することができるようになります。普段とは異なる聞こえのなかで、音楽・音響作品を作ったり、コミュニケーションの変化を考えるなど、実験的なことを行っていました。

image6 《Moving Auricle Device -direct model-》

──それぞれの作品では異なることをやっている印象を受けるのですが、共通点や繋がりなどはあるのでしょうか?

佐野

手法は離れているのですが、根本的なところでは「万物に気配を感じる想像力」を大事にしています。アニミズムとまでは言わないけれど、いろんなものに何かが宿っている感じがする......そういう感覚は共通してあります。

僕は2000年に生まれたのですが、この25年で情報空間が生活圏の一部に溶け込んだように感じます。目に見えない情報が飛び交い、まるで日常の延長にあるかのように、地続きになっていると感じているんです。そうした中で「万物に気配を感じる」感覚と「情報空間」が交差したところに生まれる日常の延長だったり、ちょっと外側の風景、別の世界線に行くためのデバイスやシステムを作りたいと思っています。

「日常的に空を見上げるけど、そこにテクノロジーを絡めた新しい聴取体験ってどんなものになるのか」とか、「耳って当たり前についているけど、形や聞こえ方が変わるとどうなるのか」とか、今いる世界の少し外側にむけた想像・妄想が根本にはあるのかなと思います。

──興味深いですね。佐野さんにとって、サウンドは重要な要素なのでしょうか?

佐野

目に見えない世界に興味があるので、サウンドはとても重要です。

実際に見ていないのに音によって想像力が掻き立てられ、「何かが見える」瞬間があって。そうしたサウンドの可能性に魅力を感じていています。もちろん表現の中に広い意味での視覚情報も入ってくるんですけど、自分は音がひとつの切り口になっていると思います。

「目に見えない世界への想像力をもっと広げるにはどうすればいいか」という実験をしている、と言えるかもしれないです。

点在するAI

────他の作品としては、どのようなものを作っているのでしょうか?

佐野

AIを使った作品に「Imaginary-shell」という作品があります。音を記憶する貝殻のようなデバイスですね。「貝殻を耳に当てると海の音がする」というのを聞いたことありますか?昔、海の近くの地域でフラフラとしている時に、おばあちゃんからその話を聞いたんです。実際耳に当ててみると、「あーなんか海の音がするな」と。

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佐野

その時に発想を飛ばして考えてみて、もしかしたらこの貝殻は、置かれていたその海辺の音を記憶していて、そこから海の音が聞こえているのかもしれない、と思ったんです。じゃあ、もし本当に周りの音を記憶している貝殻があるとしたら、その貝を森の中とか街に置いてみたら、その貝殻からどういう音が聞こえてくるだろうか? というちょっとした好奇心から始まりました。

手法としては、小さいマイクとスピーカーを入れた貝殻をいろんな場所に長時間置き続け、録音データをためます。そのデータを学習させて、生成された音源データをまた貝殻から流す、という作品を作りました。

NeurIPS(ニューリップス)というAI分野の国際学会があるんですが、その中の「機械学習と創造性」をテーマにしたプログラムのアートワークとして採択していただきました。

──AIを使ってみて、どういう感触がありましたか?

佐野

この作品をAIを使って作ろう思った背景として、プロセスへの興味があります。「貝殻が周りの音を記憶しているかも」という話と、AIが学習してだんだんと音を生成していくプロセスに親和性があるんじゃないかと思い、触り始めました。

最初は、森に置いたら綺麗な森の音が生成されるんじゃないかと思ってやってみたんです。でも、そのプロセスを経て出てきた音が結構想定外すぎるというか……最初聞いた時はもう訳わかんなくて。「なんじゃこれは」みたいな(笑)。

訳わかんないし想定外ではあったんですが、実際よく聴いてみると、その音が出てくる理由が段々みえてくるんですね。。貝殻の中で録音しているので、当然人間の耳とは異なる反響で聞こえているんですね。その音を学習しているから、こういう音になるのだと。当たり前ではあるんですが、耳の形が違えば聞こえてくる音も変わります。いかに自分が人間中心でしか物事を見ていなかったか、気付かされました。

──生成された音の中には「その場所らしさ」はあったのでしょうか?

佐野

かなりありました。「新宿らしい」とか。

でもそれは自分たちがパッと思い浮かべる新宿の音ではなく、ずっと聴いている中で「新宿の音? なるほど、こんな感じだったかも」と思ってくるような音で、自分の街に対するイメージが塗り替えられるような感覚がありました。

そしてその奥に、何か別の存在があるんじゃないかとも感じました。「Imaginary-shell」の話や貝殻の言い伝えは、ある種神話に近いというか、ものに何かが宿っているという感覚に近くてような気がして。もっと強い言葉で言えば、AIを広い意味で「神」のように捉えられている世界が広がっていたというか。

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──神、ですか......?

佐野

そうですね。と言っても、八百万の神(やおよろずのかみ)のようなすごく日本的な神ですが。

例えば海外の事例だと、現在は解散したのですが「Way of the Future」というAIを崇める宗教がありました。そういう一つの神、一つの存在としてAIを置くのは、僕が生きてきた世界観とはあんまり合わない感じがしていて。日本の神様はもっといろんなところに存在していますし、何か唯一のものを崇めるというよりかは、もっと「点在している」という感覚がしっくりきます。そうしたものとしてAIを考えることができれば、もっと豊かな形で技術と出会えるんじゃないかと。

でもこういう議論では、「AIは神なのか、あるいは道具なのか」という両極端なものが多くて。本当はもっといろんなところに点在しているような、自然みたいなものとして考えるやり方もあるんじゃないか?ということを思います。

また、日本では「ドラえもんや鉄腕アトムのような、機械をパートナーとして付き合う風土があるよね」という話もありますが、僕的にはそういうパートナーという認識はなくて。さっきの神の話もそうですけど、AIは本当はチャット相手ではないという感じがするんです。得体の知れない何かとチャットすることはないじゃないですか。石とか。もっとそういう自然にあるシステムとか、ものとか、そういうものとして考えてみたいんです。だいぶ飛躍しているんですが...。

──たしかに。

佐野

だからむしろ、AIをその辺にただ存在しているものとして捉えられるようになってもいいのに、と思います。関与しなくてもそこでずっと居続けるものとして、AIを捉える。

ただそこにあるもの、それと稀に触れ合ったりして世界との捉え方や付き合い方が変わる。「Imaginary-shell」といろんなところに行くたびにちょっと世界との関わり方が変わるとか。AIを自然にあるもののように関わり、こっちが色々と思い込んだりすることが重要なのかもしれない、ということを作りながら考えていました。

「聞こえ」を考える

──とても面白いですね。これ以外にAIについての作品はあるんでしょうか。

佐野

直接的AIを扱ったわけではないですが、テーマとしてAIを考えながら作った作品があります。すごく簡単に言うと、「頭を委ねると周りの音の聞こえ方が変わる枕」のような作品のプロトタイプです。

枕の中にヘッドホンを内蔵した装置で、外側の環境音をリアルタイムで録音・再構成したものを流していました。周りに広がっている現実の環境音を、再度その枕というデバイスを通して再構築する、という感じです。

hakuchu makura 《白昼夢を聞くための枕》

──この作品はどのようなテーマで制作されたのでしょうか。

佐野

AIが日常を揺るがす存在になった時に、AIを創造の道具ではなく破壊の道具として活用できないか?というのが企画のテーマでした。

最近はAIでの音楽生成が容易になり、そのうち街中で流れている音楽や、環境音ですらAIが作ってしまうのではないか、と思っています。

あらゆる環境の中で生成される音に対し、どういうアプローチが取れるか?ということを考えていたのですが、ただ耳に入って消費されていく音を、耳元でもう一回再構成できれば、それは新しい響きに変わるんじゃないかと思って。

生成された音が氾濫したとしても、身体の側でならそれらをもう一度組み替えることができたりするんじゃないか? という。

──音のあり方がAIによって変容していく中で、それを聴く身体の側にアプローチした、ということですね。先ほど紹介してくれた作品とも共通点を感じます。

佐野

そうですね。この作品は《白昼夢を聞くための枕》というタイトルだったんですけど、それはマイクとヘッドホンを使って、コンピュータ上で処理していて。一方、先ほど紹介した「Moving Auricle Device -direct model-」はもっと物理的な、本当に人間の身体の側で音の聞こえ方を変える実践です。

二つとも、制作の手法として「聞こえの作曲」に重点を置いています。耳に音が届くまでのプロセスをどうやって構成できるか、音をどうやって再構成するか、というところを手法としては考えています。音を出力する、というところまではAIに簡単にできますが、それが「どう届くか」というところには、まだ可能性があると感じています。

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──コンテンツを生成し続けるAIに対し、それが「どう届くか」を考えるという視点は面白いですね。今後の展望はありますか?

佐野

最近はアクティブノイズキャンセリングイヤホンを使った作品を作っています。

普段使ってるノイズキャンセリングって、外から聞こえてくる音が変わると思うんですけど、それ自体を作曲や音響体験に組み込むというような作品です。近年性能がとても良くなっていると思うんですが、そこには機械学習の、AI的なテクノロジーが使われています。

このノイズキャンセリングは、普段はイヤホンの中から聞こえてくる音楽をより集中して聴くために、周りの音をノイズとして捉えて消す手段として使われていると思います。それをちょっと捉え直して、「むしろ外側から聞こえてくる音の聞こえ方をどう変えるか」のためのデバイスとして捉えたいと思っています。

──なるほど。まさに同時代的な音の聞き方ですね。

佐野

ノイズキャンセリングは基本的に左右が同期しているのですが、僕が実験しているのは、左右でノイズキャンセリングのレベルが変わるシステムです。そうすると平衡感覚が乱れる感じがするんですよね。

それに加える形で、スピーカーとか置いて、作った音源や環境音としていろんな音が流れていると、ここがどこかわからなくなるような感覚があって。ここにいるはずなのに「ここではないどこか」へ行ってしまう、みたいな。聞こえが変わることにはそういう面白さもありますね。

見えてないものが見えたり、ここじゃない場所に行ってしまったりすることを、サウンドとその知覚から実験していきたいと思っています。

インタビューを終えて

佐野さんの全体を通して感じたのは、私たちの知覚している世界や、認識しているものの外部の想像力をどのように持てるか考えてる人だということです。星の見えない都市、生成される音楽やノイズキャンセリング.......そういった現代の環境に対して、その外側にある面白さを想像力と共に作品として体験してもらおうとしているのだと思いました。

AIのような新しく強力なテクノロジーを前にすると、それをどのようにうまく使えるか、利用できるか、ということをつい考えてしまいます。同時に、そうした便利な技術は元々世界にあった怪しい魅力のようなものを消し去っていくものでもあります。

そうした中で、飛躍しながら新しいテクノロジーを考えることで、もう一度世界を豊かなものとしてデザインしようとしていると感じました。テクノロジーと怪しさや豊かさを共存させることの価値に気付かされ、便利なだけではない世界について考えたいと感じました。

ai-aiチームでは今後ともインタビューを通じて「人工知能の余白と人類の進化」について考えます。

聞き手:永田一樹

佐野 風史

佐野 風史

2000年、京都府生まれ。サウンドアーティスト。 聞こえ自体の構成から考える「Hearing Composition」を手法の核とし、万物に気配を感じる想像力と情報空間を生きる現代の身体感覚が交差する日常の延長にある風景を探求。AI、耳介の機能、ノイズキャンセリング技術に介入するデバイスから空間音響まで、スケールとレイヤーを横断する。 NIMEやICADをはじめとする国際的な学会での発表、GOOD DESIGN NEWHOPE AWARD、WIRED CREATIVE HACK AWARD、ASIA DIGITAL ART AWARD FUKUOKA、山梨メディア芸術アワードでの入選など、国内外で活動を展開している。

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