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2022.10.04
インタビュー | 清水 拓郎×武田 佳祐
ハイブリッドな時代を接続する、 三井不動産のバーチャルオフィス 「AVATARA」の世界
三井不動産 株式会社
「あらゆる不動産はバーチャルへと置き換わっていく」ーーそんな未来も予測されている2020年代。オフィス文化に目を向けてみても、リモートワークはすでに常態化し、より快適でウェルビーイングなハイブリッドワークの模索へと、時代の意識は移り変わりつつあるようだ。
オフィスビルからショッピングモールまで、時代を先取りした価値創造を80年に渡り手がけてきた三井不動産も、そのリアルな世界で培ってきた「場」を生みだす力を、バーチャルへも転移しようと動き出している。その新たな一歩となる可能性を秘めるものとして検討が進められているのが、バーチャルオフィス「AVATARA(アバターラ)」だ。
「AVATARA」は2023年春の事業化を目指し開発中の、マルチデバイスでの利用が可能なバーチャルオフィス・プラットフォーム。スケジューラーと連動してユーザーの状態を自動でアバターに付与する状態表示機能をはじめ、ユーザーが自ら明示しなくてもステータスを取得・表示できる「心地よさ」と「楽しさ」がプロダクトのコンセプトだ。
2022年10月現在、社内外でトライアルを繰り返しながら機能をアップデートしているAVATARAは下記の5つを提供価値として掲げている。
【AVATARAの5つの提供価値】
離れていても偶発的な出会いがあります
離れていても相手の状態がわかります
人間関係の構築のきっかけになります
業務多忙なメンバーも非同期でコミュニケーションがとれます
スマートフォンやパソコンなど普段業務で利用しているデバイスで多くの人が隙間時間に利用できます
働き方とコミュニケーションの多様化が進む今、リアルの場を提供してきた三井不動産がバーチャルオフィス事業を検討するのはなぜか。三井不動産ビジネスイノベーション推進部の清水拓郎氏、武田佳祐氏のお二人に話を聞いた。
先見していたバーチャルオフィスの潮流と、不測のコロナ禍
左から三井不動産ビジネスイノベーション推進部の清水拓郎氏、武田佳祐氏。
―まず、三井不動産が開発中の「AVATARA」の概要と、現状のステータスについて教えてください。
清水
「AVATARA」は、人と人を「線」ではなく「バ(場)」でつなげる新しいコミュニケーションプレイスです。具体的には、バーチャルな場での心地いいコミュニケーションを生み出すための「3D VRO(バーチャルリアリティオフィス)」、その3D VROを実現するために社員の状態データを自動収集するベース機能「状態表示」、リアル(オフィス)とバーチャル(リモート)を融合したコミュニケーション「リアル連携」の3つの柱によって構成されています。今は社内外のトライアルでPMF(プロダクトマーケットフィット)を確認している段階で、2023年の春の本格的な事業化を目指しています。
AVATARAのコンセプト。バーチャル空間に加え、リアルとの連携や社員の状態データを反映することで自然なコミュニケーションを創出する。
―ユーザーとなる社員は「3D VRO(バーチャルオフィス)」にログインして相互にコミュニケーションを行うというイメージでしょうか?
清水
はい、スマホやPCからアクセスでき、AVATARAの仮想空間をユーザーは自由に歩き回ることができます。また、100名以上の組織メンバーが同時にAVATARAの空間内でアバターとして視覚的に存在することができ、チャットのやりとりや音声通話が可能です。
―実際にAVATARAのモックを触らせていただきましたが、RPGのような空間を直感的な操作で動いていけるUI/UXで、触っていて楽しかったです。80年に渡りリアルな場づくりを手がけてきた三井不動産が、バーチャルオフィスへも事業を拡張しようとしたきっかけは何なのでしょうか?
武田
きっかけは、2016年にスタートした多拠点型シェアオフィス事業「WORK STYLING(ワークスタイリング)」です。その頃はちょうどサテライトオフィスなどの新しい働き方が広まり始めていた時期で、清水は営業、武田は開発の立場でオフィスビル事業に携わる中で、いずれはオフィスと言う場所に縛られず、ワーカーそれぞれのライフスタイルに合わせて好きな場所で働くような時代が来るのでは、という話をしていました。ただ、当時はリモートワークの社会的な一般化はまだまだ先の2030年~35年ぐらいだろうという予測で事業計画をしていましたが、コロナ禍が来てそれが一気に早まった。元々着手しようとしていた分野ではありましたが、時代の流れで需要が加速した形です。
―確かに、ここ数年でオフィスというものに対する人々の意識は激変したと思います。コロナ禍以降、三井不動産社内の働き方はどのように変わりましたか?
清水
コロナ禍当初は出社率を10%前後に抑え、TeamsやSlackなどのコミュニケーションツールを導入してリモートでも円滑なコミュニケーションを測れるよう模索していました。ただ、出社も選択できるタイミングになってくると、やはりなるべくならコミュニケーションは対面で取りたいという人も部署や担当案件によっては出てきて。在宅と出社を各々で使い分けるような状況が続いています。
―AVATARAもアプリケーションの機能として、コロナ禍を経てチューニングされていった部分はあるのでしょうか?
清水
そうですね、開発当初は基本的にスマホでの使用を想定したアプリ設計をしていましたが、コロナ禍を経てスマホはもっとプライベートなものに位置付けられ、一方でPCを開いている時間が増大しました。9時に出社すればオフィスに人がいて話しかけられる、という常識もなくなり、打ち合わせに向かうための移動時間もそこでスマホに触る時間もなくなった。コロナ以前は手帳でスケジュールを管理する人は当たり前にいましたが、コロナ以降はオンライン上でのスケジュールの開示が当たり前になった。こういう時代を予測はしていましたが、思ったより早く到来したことでAVATARAもアップデートを施した部分は大いにあります。
―コロナ禍を跨ぐ中で開発されているAVATARAは、リアルとデジタルを行き来するハイブリッドワークを促進するようなものなのでしょうか?
武田
リモートワークが浸透して業務が効率化された一方で「オンラインだと気軽に話しかけにくい」「進捗状況や困りごとがわかりにくい」という課題は社内でも声が挙がっていて。そうした、業務とは別の偶発的な会話や何気ないコミュニケーションが生まれる設計をAVATARAでは意識しています。AVATARAならではの機能の一つとして、スケジューラーからユーザーが今どういうステータスかを自動判定する「状態表示」という機能があります。Googleカレンダーなどと同期することで「FREE(予定が空いている)」「FOCUS(一人で作業中)」「MOVE(移動中)」「COLLABORATION(複数人で作業中)」「OFF(休暇中)」が自動でカテゴライズされ、各自のアバターがAVATARAのワールド内のそれぞれのエリアに配置されるため同僚が今何しているかを一目でわかることができます。
AVATARA・スマートフォン版の操作イメージ。
AVATARA・PC版の操作イメージ。(※現在開発中のため、実際の製品と一部デザインが異なる可能性があります・2022年10月時点)
―コンタクトを取りたい人のエリアにアバターで走って近づいていけるアクションが身体的ですよね。自分と同じく今「休憩中」な人もすぐ分かるので、メールやSlackで連絡をとるよりも気軽にドアノックできる感覚があります。
清水
1日のスケジュールが90パーセント埋まっている人は、忙しい人(人気者)を想起させるパンダのアバターに自動的に変身するという仕掛けも設けています。これはリモートワークの、激務になっている人がなかなか可視化されづらいという課題をコミカルに解決して、周りの人が「あ、パンダになってるじゃん、忙しそうだね」と気軽に声がかけられるような環境づくりを狙ったものです。
―確かにリモートだと、自分が忙しいということをなかなか自発的にアピールしづらいので、アバターを通してそれが分かるのは仮想空間ならではのアプローチですね。
武田
AVATARAはアバターの服装や髪型も着せ替えが可能ですが、期間中のログイン数で一定の条件を満たせば、ログインするとオプションのファッションパーツがもらえたりと、ゲーミフィケーションの要素も入れ込みながらログイン率を向上させる工夫を盛り込んでいます。
スケジュールの過密をAVATARAが自動で読み取り、忙しい「人気者」のアバターはパンダに変身する。
オフィスでの「必然性のある偶発性」をデザインする
―先ほど「偶発的なコミュニケーション」というお話も出ましたが、着手時点からいわゆる“セレンディピティ”はコンセプトの中心としてあったものなのでしょうか?
清水
例えば弊社のような1,900人規模の会社だと、顔はなんとなく知っていても業務内容は知らない人の方が多かったりします。リアルに出社していれば、すれ違えば会釈も会話もしますが、仮想空間上のコミュニケーションだと用もなく声をかけるというのは非常にハードルが高い。垣根を超えた偶発的な出会いを促すために、顔見知りから知らない人まで気軽にコミュニケーションが図れるUXを設計しないといけないという意識はありました。一昔前でいう、飲み会で人と人を繋げたがる「お節介おじさん」のような存在がいるなと。
―確かに、グイグイと垣根を超えてコミュニケーションを繋いでくれる人が社内に一人いると助かりますよね。
清水
AVATARAにはそこを担う存在として「AVOCADO(アボカド)」という名前のAIボットが存在しています。AVATARAでは、ユーザーとなる社員の方のプロフィール情報を入力してもらうのですが、社員同士でいちいち他人のプロフィールって見に行かないですよね。なので、AVOCADOが全員分のユーザープロフィールリストを覚えて、自動周回しながら発信することでコミュニケーションの橋渡しを担います。
開発中(2022年10月時点)の「AVOCADO」のキャラクターデザイン。
―その役目を人事や上司が人為的に担おうとすると干渉の度合いが難しそうですが、可愛げのあるAIに委ねることである種の「妖精っぽさ」が出て和みますね。
武田
「AVOCADOがこう言ってたんですけど、〇〇さんって…」と、コミュニケーションのきっかけに利用してもらうのはAIアバターの良い立ち振る舞いの仕方なのかなと。もっと進むと、リアルな同僚とはあまりコミュニケーションを取らないけど、AVOCADOにはめっちゃ話しかける人が出てきてもいいと思います。それによりログインやアクションが増えるというのも、バーチャルオフィスならではですね。
―リアルなオフィスでも、あまり出社しないレアな人がたまたま居ると盛り上がるといったことはあると思うんですけど、それがバーチャルでも起きたら面白いですよね。パンダのUXもそうですけど、その人がその姿で登場したりアクションすることで盛り上がるシステムがチャーミングに設計できるのは魅力に感じます。
清水
有名人やマスコットキャラのアバターが期間限定で現れるなんてこともあっていいかもしれませんね。もしくは総務がAIロボットになっていて、中途入社の人はそのAIボットに話しかければマニュアルを全部教えてくれるとか、悩みを相談するとカウンセラーのように答えを返してくれるとか。
―Slackの細分化されたチャンネルやカスタムされたスタンプのように、AVOCADOにもそれぞれキャラの違う複数体がいて、それがバーチャルオフィスを回遊してるという状態ができると面白そうですね。インターネットミームのような文脈をAIボットが担うカルチャーができると、リアルオフィスにはない奥行きが生まれてきそうです。
清水
よくコミュニケーションの場の一つとして「喫煙所」が挙げられますけど、喫煙所はタバコを吸うという主目的のために集まっていて、会話はあくまで偶発的な副産物ですよね。そういう制約がなく、「さぁ、会話してください」と集められてもコミュニケーションは成り立たない。このコミュニケーションを促すフックをバーチャルでどう設定するかは引き続きディスカッションが必要な部分ですね。一方で、ほとんどの社員がお互い知っていてSlackだけで密にコミュニケーションができている中小企業の場合、「偶発性のある出会い」をこちらで用意するのはトゥーマッチなのでは? という意見もあります。実際にヒアリングで、既存社員よりもっと中途入社の人がスムーズに会社にオンボーディングできるような機能が欲しいといった要望を寄せられたこともあります。要は、会社ごとで求められる「必然性のある偶発性」をいかにつくるかということが肝なのかなと今は考えています。
三井不動産本社に設置された「未来の会議テーブル」のプロトタイプ。バーチャル空間のAVATARAと連携し、リアルとオンラインがシームレスに繋がる会議体験を創出する。
妄想するバーチャルオフィスの未来
―AVATARAは今後もアップデートを予定しているとのことですが、進化に向けてコラボレートしたい業種や分野などはあるのでしょうか?
清水
スマートウォッチや脳波、位置情報など、ユーザーのリアルタイムデータを取得できる技術はウェルカムですね。ただ、それをどう実装するかがポイントだと思っていて、使い方を間違えると社員の監視になりかねない。原理的には社用PCを触った時間のデータも取れますが、「お前今日は30分しかPC触ってないけど、どうした?」って上司に詰められるのも気持ち良くないというか。そうではなく、なぜ30分しか触ってなかったのか、何か心身に異常があるのではないか、どのようなデータを提供すれば監視ではなくフォローに活かせるのかが課題です。また、AVATARAは100人が1つのワールドに入れますが、多人数同時接続の際の音声環境は非常に重要と考えており、常に改善を重ねていきたいです。今後、デバイス・通信領域のパートナーと共創していきたいですね。
―生体データのお話も出ましたが、センシングできるデータは増えてますが、それが繋がりあって生活に反映させるレベルの活用方法を考えるとまだ余地がありそうですよね。バーチャルオフィスや働き方の支援がそこのまとめ役になれるポテンシャルはありそうです。
清水
例えば強豪の大学ラグビー部だと、練習する前に自己申告でスマホに体調を入力したり、半年に一回採血してデータとパフォーマンスを参照したりといった話を聞きます。入力された生活リズムや生体データから、仕事における良いパフォーマンス・悪いパフォーマンスの傾向や相互関係を割り出すことができるようになると、直接顔色が伺えなくても上司が部下の心身のアラートをキャッチできたりといったことが未然にできるかもしれません。とはいえ、「監視されている」と感じる肩身の狭い空間にはしたくないので、何が最適バランスなのかは常に注視していかなければならないと思っています。
―例えばブレストだったら「水曜の朝が一番この人はパフォーマンスできるからMTGはここに設定しよう」とかできそうですよね。
清水
でも、コロナ以前はそれってみんな自然とやっていたことですよね。MTGのセッティングも、このメンバーの打ち合わせは絶対揉めるから少し時間を置いた方がいいかな、とか、この会食があるってことはあの話題が挙がる可能性が高いから前日に設定しよう、とか。「この人、朝機嫌悪いからな…」とか。顔色や空気を読むタイミングが、良くも悪くも今はなくなっている。
―意味のあるデータを周知したりワンプッシュしてくれる自然なコミュニケーションがあると、バーチャルオフィスならではの資産になっていきそうです。AVATARAはこういう規模・業種の会社だとフィットするのではといった感触はありますか?
武田
新入社員や中途入社の方が入っても、出社制限もあって環境が停滞する中で、どうやってその人たちをモチベートしていくかというときに、コミュニケーション手段が従来のものだと解決できない場合もあると思います。なので、社員全員が集まれるスペースやコミュニケーションのきっかけを欲している方には、ぜひ試して欲しいですね。
清水
例えば一口に上場企業といっても100人規模から10万人規模までぐらいまで会社がありますが、弊社に近い1,000人ぐらいの会社でハイブリッドワークをしているオフィスワーカーの企業はこれまで話したようなコミュニケーションの課題を抱えているケースが多いのではないかという仮説を立てています。社員のリテラシーが高ければ高いほど自由度はどんどん求められ、出社の制度やオフィス面積の見直しに迫られる。そうした時に、三井不動産のリアルなオフィスとAVATARAのバーチャルオフィスをセットの選択肢として提供できるのは機能的だと考えています。
―最後に、AVATARAで解決したい最大のイシューとは何でしょう?
武田
仕事という価値観が社会で大きく変わってきている今、自分の生活と業務を天秤にかけなければワークライフバランスを実現できなかったり、「ここじゃないと仕事はできません」と会社側から強いられるのはもうナンセンスな時代になってきていると思います。その人の能力を最大化する場所として、AVATARAのようなバーチャルオフィスが選択肢として役立っていくと嬉しいですね。
清水
僕はいわば体育会系な古い体質も経験してきた人間で、それこそ「お節介おじさん」みたいな立ち位置だったのですが、今はもう全然それができなくなった。とにかく、新しく入社した人が会社に馴染めないことを理由に辞めていくといった事例をAVATARAを介して一人でも減らすことができれば本望ですね。
2022年12月までAVATARAをトライアル利用いただけます。詳細情報をご希望の方は、以下URLより、お問い合わせください。
Text:松岡 真吾/Photo:岡村 大輔