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2023.12.15

インタビュー | 原戸 晃×荒井 亮

QRコード®️は行動変容の入り口に。知財のオープン・クローズ戦略が導くイノベーション

株式会社 デンソーウェーブ

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QRコードを目にしない日はない。Quick Response(高速読み取り)を由来にもつ2次元コードであるQRコードは、Webサイトへのリンクや電子決済といった身近な用途から、駅のホームドアの開閉や量販店での在庫管理など、生活のあらゆる場面で活用されている。デジタル社会において、もはや不可欠な存在と言えるだろう。

そんなQRコードの規格はJISやISOで定められており、文字通り世界の基盤になっている。QRコードはデンソーが特許を取得(現在は権利満了)し、今も登録商標は保有しているが、仕様が公開されているQRコードの作成・読み取りに対するライセンスは必要なく、使用料も発生しない。圧倒的にオープンなフォーマットとして世界に広まる一方で、個別のニーズに応じたカスタムや機器の販売でビジネスに取り組むデンソーウェーブ。開発過程で埋もれた知財の活用にも積極的に取り組んでいる。QRコードという強力な知財を旗印に、社外パートナーと世の中の当たり前や行動を変容させていく試みについて知財図鑑編集長 荒井が伺った。

デンソーウェーブ 「QRコード特集」を見る

生産管理のために生まれたQRコード

image1 原戸 晃|株式会社デンソーウェーブ 技術開発部 知的財産室

─まずはQRコードの基礎について伺います。改めて、ここまで普及していることに驚かされるのですが、どのように広まってきたのか、開発の歴史的経緯も含めて教えていただけないでしょうか。

原戸

最初のきっかけは、自動車部品工場で使うためのニーズでした。昔は組み立て工程で材料の種類と数量を記録するために、手書きの文字やバーコードを利用していたんです。時代が進むにつれ、自動車部品の種類やオプションも増えてきたため、バーコードだけでは情報を扱うのが難しくなってきました。バーコードの数を増やしたとしても、全てを1行ずつ読むのでは場所をとるし手間もかかります。そこで、少ないスペースで大量の情報を扱える、新しいフォーマットを開発することになりました。

─バーコードの情報は横方向だけの1次元ですが、QRコードは縦と横の2次元で情報を持たせていますよね。

原戸

2次元のコードとしては、QRコードより前にデータマトリックス(DataMatrix)やマキシコード(MaxiCode)などの方式がありましたが、読み込みは早くてもデータ量が少なかったり、あるいはその逆であったりと、それぞれ長所短所がありました。早く確実に読み取れて、多くの情報を持たせられる。そんな全てのメリットを持つ2次元コードとして、QRコードの開発が始まったんです。

─そうした経緯があったのですね。バーコードの容量は英数字で20字程度ですが、QRコードは数字で約7000文字、漢字の表現も可能という大きな変化を遂げています。自動車部品工場でのニーズも満たせたのではないでしょうか。

原戸

はい、そうですね。加えて言いますと、ニーズを満たすために他にも数えきれない技術的な工夫を凝らしています。例えば作業で汚れや傷がつくことも多い環境ですからそれに耐えるための機能など。また、新しい技術への不安を除くためには、世間に認めてもらうしかありません。そこで、自動車業界のみならず、産業界全体での標準化を目指して、まずは日本、次に世界でのロビー活動を行っていきました。この辺りはとても泥臭く、粘り強く交渉を続けていたそうです。最終的には国内や北米を経て、国際標準のISOとしても認められることになりました。そこからは、2次元コードで何かを管理するならQRコードだというお墨付きが生まれ、工場での導入が進みました。

権利行使をしないモデルで普及する

QRコードの特許証 デンソーウェーブ本社ギャラリーで展示しているQRコードの特許証(レプリカ)

─苦労の末に国際標準となったQRコードですが、「QRコードの特許は保有するが、規格化されたQRコードについては権利行使をしない」というデンソーウェーブのスタンスも特徴的です。そうした姿勢も普及に影響したと思いますか?

原戸

おっしゃる通りです。もちろん、不正用途や盗用などには対処しますが、原則QRコードの利用料は取らずに、ハードウェアの提供や個別の仕様開発などで収益を得るという、いわゆるオープン・クローズ戦略をとりました。

特殊な機能を備えた、進化型QRコード

─仕様が公開されている一般的なQRコードの他に、用途やシチュエーションに特化し、個別の機能が付与された特化型のQRコードも展開されています。どのような事業でのニーズがあるのでしょうか?

原戸

デンソーウェーブが提供している進化型QRコードの例としては、まずSQRC®があります。

image3 SQRCは公開・非公開の2つの領域を持ち、特定の情報を秘匿することができる

原戸

SQRCの特徴は、ひとつのコードに「公開データ」と「非公開データ」を持たせられることです。非公開データは暗号キーを持った専用リーダでのみ読み取りができるため、特定の情報を秘匿することが可能です。 また、見た目はQRコードと区別がつかないため偽造・改ざん防止にも貢献しています。例えば、非公開データ領域に管理側だけが把握したい情報を格納し、イベント会場でのチケット管理に利用いただいています。

─不正入場を防ぎたい施設などでも需要が多そうですね。他にはいかがでしょう?

原戸

東京都交通局様と共同開発した「新型QRコード(=tQR®)を利用したホームドア連動開閉制御システム」があります。このシステムは、車両のドアに貼られたtQRをホーム上に設置した専用カメラで認識することで、車両ドアの状態を検出してホームドアを開閉させるシステムです。既存のホームドア開閉制御には、車両に無線装置を搭載してホームドアと通信を行う方式がありますが、全ての車両へ無線装置を搭載するためには巨額の費用がかかり、特に複数の鉄道会社が乗り入れる路線では対象となる全ての鉄道会社が車両改造を行う必要があり大きな課題でした。

このシステムでは、車両ドアへのtQR貼り付けとホームへの専用カメラの設置・連携により完了するため、コストが大幅に抑えられます。現在では東京都交通局様はじめ、関東の民営鉄道会社様などへ採用が広まっています。

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─QRコードの技術がハードウェアのコスト削減にも貢献しているのですね。tQRは既存のQRコードと比べてどういう特徴があるのでしょうか?

原戸

tQRという名前の「t」には、train(列車)とtoughness(環境に強い)、その二つの意味合いが込められています。鉄道では時間帯によって日差しや影が変化し、QRコードが見えづらくなる可能性があることから、屋外環境でも確実に読み込むために認識率や安定性を向上させる必要がありました。このため、既存のQRコードは最大30%まで欠損や汚れがあっても読み取れる仕様になっていますが、tQRは50%まで欠けても読み取れるのが特徴となります。

─従来以上に安定性の高い認識が求められたのですね。鉄道関連では、磁気切符の課題解決にも貢献されたと聞きました。

原戸

鉄道会社から磁気切符をなくしたいという課題があると聞き、その課題に対してもQRコードの活用を提案しました。磁気切符は、裏側の黒い磁気の部分は燃やすことができず、廃棄処理にコストがかかっているそうです。また、自動改札機に投入するため、改札機内部に複雑な搬送装置が必要で、そのメンテナンスに非常に手間がかかるとのことでした。これらの課題を解決するために開発したのが「複製防止QRコード」です。QRコードであれば紙だけでできますし、「複製防止QRコード」はその名の通り、QRコードのリスクの一つである複製(コピー)を防止することが可能です。また、切符からタッチ式の複製防止QRコードへ変えることで、改札機に投入する必要がなくなり、改札機のメンテナンス向上に繋がったと伺っています。

休眠知財を発掘し、新しい事業への可能性を探る

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─QRコードが多様化する中で、さまざまな知財を活用する試みも始まっています。知財図鑑と共同で行ったプロジェクト「【デンソーウェーブ×知財図鑑】日常に溶け込むQRコードがもたらすイノベーション」のような取り組みは、どうして始めたのでしょうか。

原戸

私は大学院で技術経営を専攻し、技術を軸にしてどのように利益を生み出していくかを研究していました。デンソーウェーブの経理時代に会社全体の研究開発費や営業利益を見る中で、自分でアクションすれば何かを変えられそうと思ったのが大きなきっかけです。これまでも社内で知財を活用しようという機運はありましたが、具体的なアクションにまで至っていなかったのです。

─休眠特許技術を活用する「特許技術の再生プロジェクト」として、2021年10月に原戸さんが起案した企画が始まりましたが、具体的にはどのように動いてきたのでしょうか。

原戸

まずは保有する特許の全体像を把握することから始めました。知財部門のメンバーの力も借りながら各事業部がどういった分野で知財を持っているのか調べ、そのすべてをビジュアル化しました。その結果、デンソーウェーブで権利化されている特許は1400件ほどあり、その半数ほどがQRコードや自動認識関連のものだということがわかりました。

QRコード関連の特許の中でも、製品に適用されているものや防衛特許として保有されているもの以外に、今の時代に活かされていない特許もありました。その中からまずは5つの特許技術をピックアップし、それが活用される未来を知財図鑑さんと「妄想プロジェクト」として形にしていきました。

image6 真贋判定もできる無人の“靴”取引所「ONLY Foot(オンリーフット)」 休眠特許:セキュア在庫管理

image7 迷子ゼロを実現するAR案内アプリ「AR-ROW(アロー)」 休眠特許:QRコードビーコン

image8 ゴミを捨てるほどポイントが貯まる「Smart TRASH」 休眠特許:シンプルストックチェッカー

image9 コレクションしたくなるNFT型広告「QR×AR コマーシャル」 休眠特許:ウィンドウQRコード

image10 アナログな絵を一瞬でメタバース展示「SKETCH Scan(スケッチスキャン)」 休眠特許:フレキシブルQRコード

原戸

当社の知財部門として、オープン・イノベーションを通じて知財活用の具体的なアクションを起こしたのは初めてのことでした。会社の中で活用しきれなかった知財が、思いもしない「妄想プロジェクト」として描かれたのは良い衝撃でしたね。社内の人間も興味津々で、他の人の目を通すことの大事さを感じました。

─そう言っていただけると嬉しいです。知財部門は一般的にバックオフィスのようなイメージを持たれますが、積極的な知財活用でビジネスにつなげていく可能性もあると思います。社内での変化などはありましたか?

原戸

知財部門では開発者から「こういうものを作っている」と相談を受けても、権利化されて以降の話に進むことが少なかったです。最近になってようやく、知財の使い道に関する相談が増えてきて、顧客と直接話をする営業部門からも、面白く鮮度のある情報が届くようになりました。社内教育でも「知財教育」というフレーズを使っていますし、権利を取得するだけでは駄目だというスタンスを会社としても取るようになりました。

「共通言語としてのQRコード」が変える未来の体験

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─QRコードはスマートフォンで表示したり、印刷したものをスキャナで読み込んだりと、掲載する媒体を選ばないことが特徴だと思います。シーンを限定しないQRコードは、原戸さんにとってどのような存在でしょうか?

原戸

ここまで広く普及できたQRコードだからこそ、見ただけで説明せずとも「読み取るものである」という共通認識を多くの方が持ってくれていると思います。ですからQRコードはそこから次のアクションにつなげることができる、行動を変えるトリガーになり得る存在だと思っています。

─最後に、今後一緒に取り組んでいきたいパートナーがいたら教えていただきたいです。

原戸

QRコードはみなさまに自由に使っていただきながら発展してきました。きっかけさえいただけたら、進化の部分は全力で取り組みますので、私たちが想像しないところからの活用アイデアを投げ込んでいただけると幸いです。ぜひ私たちと一緒にQRコードで未来をつくっていきましょう!

image12 荒井 亮(知財図鑑 編集長)、原戸 晃(株式会社デンソーウェーブ 技術開発部 知的財産室)

デンソーウェーブ 「QRコード特集」を見る

※QRコード、SQRC、tQRは(株)デンソーウェーブの登録商標です。

原戸 晃

原戸 晃

株式会社デンソーウェーブ 技術開発部 知的財産室

1988年兵庫県生まれ。2011年大学卒業後、大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程にて経営学系・MOT(技術経営)を専攻。2015年株式会社デンソーウェーブ入社。営業部門にて産業用ロボットの海外プロジェクト営業とその営業企画、その後コーポレート部門にて経理業務に従事。経理在職中にオープン・イノベーションをベースとした未活用特許の再活用推進をテーマに社内起業支援プロジェクトに応募。経営役員による最終審査を経て、2022年プロジェクト専任者として現職に至る。知財ドリブンでの技術の新たな価値提案とそのコミュニティづくりをベースに、世のため人のため、面白い未来の実現に向けて邁進中。

荒井 亮

荒井 亮

知財図鑑 編集長

1977年東京都生まれ。立教大学社会学部卒。クリエイティブ会社THINKRにてライブ配信事業「2.5D」のプロデューサーとして番組の企画制作、アライアンスやチームビルディングを担当。その後、Konelに所属し「知財図鑑」を立ち上げ、クリエイティブ x テクノロジーでのイノベーション推進を進める。web3 / NFT領域に関心があり、NEO TOKYO PUNKS / 6Town Port Rebels / QR81Vなど様々なコレクションに関わる。虎ノ門ヒルズインキュベーションセンター「ARCH」メンター、特許庁「I-OPEN」2022年度メンター。

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