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2020.07.15

インタビュー | 近藤 哲朗×出村 光世

わかりやすい知財の伝え方

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数々のイノベーティブな企業のビジネスモデルを図解した書籍『ビジネスモデル2.0図鑑』などで知られる「チャーリー」こと近藤哲朗氏。

難解なものを図解という形でわかりやすく発信し、多くの支持を獲得した近藤氏に、ビジネスモデル図解の発端や多くの参加者を巻き込んでいく制作プロセス、さらには先日立ち上げたばかりのビジュアルシンクタンク「図解総研」についてなど、さまざまな質問を投げかけた。

なぜ図解を始めたのですか?

出村

僕らは、非研究者のための知財データベースとして「知財図鑑」を立ち上げたのですが、知財業界における門外漢だったことから、これまでは業界の地図を少しでもつかむために知財の専門家の方たちにお話を聞いてきました。翻って今日は、ビジネスモデル図解などを通じて難解なものをわかりやすくして世に届けてきたチャーリーさんに色々お話を伺えればと思っています。まずは、ビジネスモデル図解を始めたきっかけからお聞かせ頂けますか?

近藤

もともと僕はカヤックという会社に所属し、クリエイターたちに囲まれた環境で仕事をしていたのですが、そこは言わば、いかにクリエイティブで面白いものをつくれるのかという勝負をする世界でした。その後、カヤックのメンバー4人で独立し、「そろそろ」という会社を立ち上げたのですが、その当時はクリエイティブの力は社会課題があるところにこそ必要なのではないかという意識を持っていました。実際にNPOの支援などもするようになったのですが、いかに社会的に良いことをしていても経済合理性がなければ継続が難しい現状があり、これはクリエイティブで面白いものをつくるだけでは解決できないことなんですね。そこで、それまで敬遠していたビジネスについて学ぶようになり、ビジネスモデルなど仕組みの面白さに触れたんです。それがきっかけとなり、ソーシャル×クリエイティブ×ビジネスという3つの要素ができるだけ揃っている事例のビジネスモデルを、わかりやすく図解するということを始めました。

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出村

ビジネスモデル図解を届ける相手として、どんな人たちを想定していたのですか?

近藤

それまでビジネスモデルというのは専門性が高く、難解なものというイメージがあったと思うのですが、僕はむしろ一般の人たちに届けたくて図解を始めたところがあります。実際にビジネスのことはよくわからないという人たちが反応してくれたことで大きな流れになった側面も少なからずありました。ただ一方で、具体的な何かのアクションにつながっていくようなケースというのは、ビジネスの世界の人たちからのお問い合わせがきっかけとなることがほとんどでした。大企業の新規事業や経営企画など新しい事業を生み出すことが求められる部署の方や、社員教育の一環でビジネスモデルを考えられる社員を育てたいという人事の方などが特に多かったですね。

出村

これまでもビジネスモデルを解説するようなものは数多くあったと思いますが、ビジネスモデル図解がこれだけ幅広い層に受け入れられた背景には、やはり圧倒的なわかりやすさというのがあったのでしょうか?

近藤

あくまでも推測に過ぎないのですが、ビジュアルをメインにしていることと、3×3の構造でビジネスモデルを表す統一規格があったことが良かったのかもしれません。ちなみに、この3×3のフォーマットは比較的初期の段階でできたのですが、それぞれのマス目に何を入れるのかというのが確立されるまでには時間がかかりました。ビジネスモデル図解は一緒に取り組んでいるメンバーたちがいるのですが、コミュニティの中での対話を通して方法論が確立され、どこに何を入れるべきなのかという型が徐々にできていった。こうした方法論の言語化というのは、自分ひとりでやっていたら実現しなかったことだと思います。

2-1100x688 『ビジネスモデル2.0図鑑』より。

チームマネジメントのコツは何ですか? 

出村

チャーリーさんがチームで図解に取り組むようになったのはなぜですか?

近藤

もともとはひとりでやっていたのですが、noteに投稿した記事が話題になり、その翌日に出版社の方から書籍化の話をもちかけられたんです。編集者の方から熱いラブレターのようなメールをもらい、やってみようと思ったのですが、書籍化するには100個くらい図解があると良いという話になって。当時はまだ図解が10個くらいしかなかったので、これは大変なことを引き受けてしまったのかもしれないと(笑)。単純に自分一人ではしんどかったということがまずはあったのですが、同時に色々な視点からさまざまな業界のビジネスモデルを図解できると良いという考えもあり、委員会をつくってメンバーを募り、チームで進めていくことになりました。

出村

参加メンバーに図解のノウハウを共有していく上で工夫されたことなども教えてください。

近藤

チームで進めていくにあたって、先ほど話した3×3のフォーマットなどを整理したのですが、最初の頃は数十人いても2週間に1つくらいしか図解ができなかったんです。ビジネスモデルを図解するにはリサーチが必要になるのですが、そもそもどんな情報をインプットするのかというところでつまづいてしまうことも多かったので、共通の調査フォーマットをつくったり、ひとりで取り組んでいた時の暗黙知のようなものを徐々に言語化していき、全員が共通のプロセスで進めていけるようにしました。それによって精度や生産性が高まり、書籍制作のラストスパート時には、2週間で20個以上のビジネスモデルを図解できるまでになりました。

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出村

書籍化というある種の外圧によってチームがつくられ、方法論が確立されていったというプロセスは非常にユニークですが、参加メンバーそれぞれのモチベーションはどんなところにあったのですか?

近藤

最初の段階で、初版の印税はすべてメンバーに渡すことを決めたのですが、メンバーの多くは金銭以外のモチベーションで動いてくれているところがありました。僕はモチベーションにつながる報酬というのは、「金銭」「名誉」「関係」「情報」の4つに分けられると考えているんですね。印税というのは「金銭報酬」にあたるわけですが、他にも本に自分の名前が載ること(名誉報酬)、コミュニティに参加し、新たなつながりが得られること(関係報酬)、図解制作の過程で新しい知見が得られること(情報報酬)などもモチベーションになります。これらの報酬は書籍化というひとつのプロジェクトにおいてはわかりやすかったのですが、その後さまざまな企画が動き始め、売上が発生するもの、しないものが出てくるようになったんです。その時に、売上が立つプロジェクトに参加したメンバーだけがお金をもらったり、パフォーマンスが高い人ほど報酬が得やすいようにすると会社っぽくなってしまう気がして、最終的には全自動報酬という形で四半期ごとの売上を、メンバーのコミット時間に応じて分配するようになりました。

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どうすれば間口が広がりますか? 

出村

知財図鑑は立ち上げ直後にSNS上で話題になったり、プレスリリースを打つことでアクセスが増え、お問い合わせから仕事につながったケースなどもあるのですが、僕らにはクライアントワークを増やしていくこと以上に、知財をオープンにするというムーブメントをつくり、業界にパラダイムシフトを起こしたいという思いがあります。そういう意味でも難解なものを図解するということをひとつのムーブメントにしたチャーリーさんの活動には学ぶべき点が多いと思っています。そんなチャーリーさんから見て、いまの知財図解に足りないと感じるものなどがあればぜひ伺ってみたいです。

近藤

知財に関わる人たちは非常に多様だと思うので、まずはひと目見た時に誰もがわかるような知財に関する最低限かつプレーンな情報というものがあると良いと思います。いまの知財図鑑には「妄想プロジェクト」というコンテンツがありますが、これによって具体的な知財の活用法がイメージできる一方、ある種の方向付けにもなってしまい、それ以外の活用可能性を制限してしまうリスクもあるような気がしました。

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出村

妄想プロジェクトは、その知財を活用した未来の世界をクリエイター視点で描いたものですが、ここには人は「知財」よりも「未来」に興味を持つはずだという仮説があります。実際にこれがあることで企業などとのプロジェクトが生まれやすくなった側面はあるのですが、たしかに間口を広げるという意味では中立性も重要になりますよね。

近藤

どちらが良い悪いということではないのですが、個人的には研究者から経営者、クリエイターなどステークホルダーが多様だからこそ、軸にあるのはファクトベースの中立的なデータベースで、その周辺に妄想プロジェクトなどのサブコンテンツがあるといった関係性の方が、より色々な人が手を出しやすくなるのかなと。あと、ひと目見た時にわかる情報という話をしましたが、僕はそもそも文章が苦手で、まずビジュアルを見たいという欲求があるんですね。そういう意味で最初に知財図鑑見た時、イラストはあるけど図はないなと思ったんです(笑)。

出村

たしかに特許の資料などを見ていると、文章と図それぞれで説明がなされているケースが多いのので、知財図鑑でも今後図解を入れるというのはアリだと思います。

近藤

その時に一つひとつの知財を図解していくこともできるはずですが、いきなりこれに着手することはマンパワーがかかるし、ノウハウも蓄積しにくい。それよりもまずは知財そのものの概念を分解し、さまざまな知財に共通する項目などを洗い出していくことが大切だと思いますし、あらゆる知財に当てはまるフォーマットを見つけていくことで、誰もが知財を図解できるようになるはずです。僕らが先日立ち上げた図解総研でも、共通のフォーマットやフレームワークから「共通言語」をつくるということを意識していて、この部分にこそ図解の大きな価値があるのではないかと思っています。

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知財は図解できますか?

出村

いまお話し頂いた図解総研についても詳しく聞かせてください。

近藤

以前に環境問題を図解するプロジェクトがあったのですが、この時にビジネスモデル以外のさまざまなテーマを図解することで、多くの人たちが議論できる共通言語がつくれるのではないかという手応えがあったんです。そして、専門家との共同研究を通じて複雑な情報をわかりやすく図解し、意思疎通を促す共通言語を発明することを掲げるビジュアルシンクタンクとして、図解総研を立ち上げました。図解と言うと、インフォグラフィックやグラフィックレコーディングなどを想起する人も少なくないですが、僕らが考える図解はこうした装飾性があるものではなく、シンプルに情報の関係性や構造を表すことです。また、図解によって物事を単純化しようとした時に大切な情報が抜け落ちてしまわないように、各分野の専門家との協働というのも大切にしています。最近では、経産省や文科省などと政策の図解を進めたり、新規事業開発を担う部署の方とともに「協業」の仕組みを構造化するなど、パートナーとともに開発研究するケースも増えています。

7-1100x688 「環境問題図解」より。

8-1100x688 「基礎」「開発」「応用」から成る図解総研の研究活動。

出村

知財図鑑の次のフェーズとして、図解総研に知財の図解のためのワークショップをしてもらうのも面白そうだと感じました。知財というわかりにくいものを図解することには大きな意味があると思いますし、僕らが大切にしている「妄想」をより引き出しやすくするための共通言語をつくるということにも興味があります。

近藤

僕らは、ビジネスモデルのワークショップなどは短期間で行うことが多いのですが、環境問題や政策の図解などそれこそ共通言語をつくっていくような類のプロジェクトには長い時間を費やすんですね。これらにはお互いのリソースを持ち寄って取り組むところがあるので、現状はお金のやり取りも発生させていません。仕事を受発注するような関係性ではなく、お互いがフラットな状態でプロジェクトに臨み、そこで見出された共通言語などをもとに、それぞれが事業などに発展させていけるようになるといいなと考えています。

出村

かなりオープンソースな感じなんですね。僕らも知財を民主化したいという思いが強いので、ぜひ何かご一緒できたらと思います。

近藤

ゆくゆくは知財を活用する立場にある企業の新規事業担当者らが集まり、知見を交換し合えるような場をつくるのも面白そうですね。例えば、さまざまな企業が参加し、知財について共同研究をするようなコンソーシアムを組むこともできそうな気がしますし、それによって遊休知財を活用していこうという機運も高まりそうです。

出村

例えば、10社が保有している知財を10個ずつ持ち寄り、それらを横並びで図解し、一冊にまとめるなんていうことも意義がありそうです。まだまだ耕すべき畑はたくさんあると感じているので、どんな形でコラボレーションするのが良さそうか、僕らの方でもじっくり考えてみたいと思います。

近藤

ぜひ。ビジネスモデル図鑑と知財図鑑、ネーミング的にも一緒に組まない手はないですよね(笑)。

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インタビューを終えて

出村

チャーリーさんは、図解のプロということだけにとどまらず、難しいけれど伝える価値のある情報を、わかりやすく紐解く「プロセス」を切れ味良くデザインされているところに脱帽しました。図解することの意義と楽しさに共感するメンバーがコミュニティに集まってくる様は、特に参考になりました。知財はまさに「難しいけれど伝える価値のある情報」なので、「知財図鑑」にも図解の視点が取り入れられるように感じましたし、非常にインスピレーションに溢れるインタビューとなりました。特許庁など影響力あるプレイヤーを交えて、図解総研・知財図鑑で新たな取り組みを始めたいなぁ。

Qonversationsでの記事はこちら

近藤 哲朗

近藤 哲朗

図解総研代表理事

株式会社そろそろ代表取締役・図解総研代表理事。千葉大学大学院工学研究科修了後、面白法人カヤックに入社。2014年、株式会社そろそろを創業。2018年に「ビジネスモデル2.0図鑑」を出版、国内外での発行部数が9万部を超える。2020年『共通言語の発明』をコンセプトに、ビジュアルシンクタンク「図解総研」を設立し、大手企業・研究機関・行政との図解を通じた共同研究を行う。

出村 光世

出村 光世

Konel Inc. Producer

1985年石川県金沢市生まれ。早稲田大学理工学部経営システム工学科卒。アート/プロダクト/マーケティングなど領域に縛られずにさまざまなプロジェクトを推進。プロトタイピングに特化した「日本橋地下実験場」を拠点に制作活動を行い、国内外のエキシビションにて作品を発表している。自然現象とバイオテクノロジーに高い関心がある。

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