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2022.12.14

インタビュー | 德田 佳昭

無形資産を巡らせた先にある豊かな未来。 これからのパナソニックグループが目指す知財部門の姿とは

パナソニック ホールディングス 株式会社

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1916年に創業者・松下幸之助が改良ソケットの実用新案を出願して以来、パナソニック ホールディングス株式会社は国内外で知財活動を推進し、現在でも10万件以上の知財を保有している。2014年には同社知財部門から事業環境の急速な変化に対応するため、戦略機能を独立させる一方で、このような膨大な知財を活用すべく国内外の知財関連の調査や特許の維持管理、利用許諾・譲渡の交渉などの知財実務機能を担うパナソニックIPマネジメント株式会社を設立した。さらに近年は、「無形資産のつなぎ手」として社会課題解決の促進にも尽力している。


先行きが不透明な現代、パナソニックグループの知財部門は何を目指し、実際にどのような活動を行っているのか。知財部門として掲げたパーパス、そして未来に向けた展望について知的財産部部長・德田佳昭氏に聞いた。

「社会の公器」であるために。豊かさに埋もれた社会課題を解きほぐす

―100年以上の歴史を誇るパナソニックグループですが、まずは全社として、社会に対して企業が取り組むべきだと考えていることについて教えてください。

德田

「企業は社会の公器である」という松下幸之助の言葉にあるように、社会からお預かりした人財や知財など、あらゆる経営資源を最大限に活かすことが企業には要請されており、その活動は透明で公明正大なものでなければなりません。この思想を基本とした上で、企業活動により人々を幸せに導くためのチャレンジを使命として取り組んでいます。

―モノがあれば良かった時代からモノがあふれる時代へと変わったことで、豊かさの在り方も変わってきたのではないでしょうか?

德田

確かに現代は、人々の新たな幸せのカタチを企業側が提示することは容易ではなくなってきました。だからこそ、「ありふれた幸せ」を読み解くというとこから始めなければいけない。そこから社会課題を発見し、提供すべき価値を探索していくことに挑戦する意味があると思っています。

―人々の幸せの感じ方も、変わってきたように思います。そのような変化の時代において、パナソニックグループも大きく変化しました。そこで知財部門が果たすべき役割について教えてください。

德田

2022年4月にパナソニックグループは事業会社制となり、7つの事業会社それぞれで独立して経営を推進することになりました。ここで求められていることも、各社が変化の先を見据えて考え、人々の幸せを実現するために挑戦していくことです。一方、その事業に付随して生まれる知財はグループ共有のもの。会社が個々に活動を強化していく中、その資産を、いかにグループ全体で生かすのか。私たち知財部門は、その仕組みづくりから取り組んでいかなくてはなりません。

―実際にどのような変化が求められていると思いますか?

德田

近年は、知財部門の取り扱う資産が、特許や商標だけでなく、データなどにまで広がり、その専門領域が多様かつ高度になってきています。また、中国をはじめ、インドや東南アジアも加わり、地域も広域になってきています。知財部門として専門性を深め、多様なケースに広く対応することが求められる今、バラバラに動いて領域を広げつつも、狙う方向は常に同じになるように、「(領域を)拡げつつ、(方向性を)集約する」という2つのことを成立させなくてはいけません。

もっと、多様な知財活用を。知財部門に定めたパーパスとは

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―今年、知財部門でパーパスが打ち出されました。どのような経緯で策定されたのでしょうか?

德田

今年4月の事業会社化に先立ち、昨年秋に30・40代のメンバーからなるワーキンググループを中心に中期計画の検討をしてもらったのですが、その際に自主的に発案されたのが今回のパーパスでした。理由を聞くと、「社会課題がますます複雑になっていく中で、経済的価値の追求だけではなく、これからは企業も一体になって社会課題の解決に取り組むことが求められていく。そのようなチャレンジをしている企業こそ、世の中に選ばれるようになるはず」という考えが彼らにはあり、自分たちの存在意義を集約した旗印が必要だと考えたというのです。これから知財部門が前述の「拡げつつ、集約する」を達成するためにも、パーパスは有効だと感じました。

―ボトムアップ型で決められたのですね。「無形資産を巡らし、価値に変えて、世界を幸せにする」という一文には、どのような思いが込められているのでしょうか?

德田

3つのポイントがあります。まず、知財部門の活動の対象物を特許権や意匠権、商標権などのいわゆる知的財産権だけではなく「無形資産」として、対象をデータなどにまで範囲を広げていること。次に「巡らせる」というキーワード。無形資産は、私たちが社会で経済活動をしていく上で欠かせない血液のようなものです。必要なときに必要な量を必要な場所に行き渡らせる。これは松下幸之助が掲げた「水道哲学」にも通じるところがありますね。「巡らせる」には、これに加えて、一方向に流していくだけでなく、外からも取り入れる双方向の意味合いも込められています。
そして最後に、さらに視野を広げ、最終的に狙うのが「世界を幸せにする」ということです。会社の一員として事業貢献を目指すのはもちろんですが、社会課題をトリガーに世の中の課題を解決しようとする姿勢も欠かせません。知財部門のパーパス策定の後に発信された「幸せの、チカラに。」というブランドスローガンとも合致する内容です。中期計画を策定したメンバーはすごいと素直に感じましたね。

―今まで企業活動においては、知財の保護を重視する考え方が一般的でしたが、その点も変化していくのでしょうか?

德田

これまでは知財を「資産」として捉え、収益化につなげることに力点があったと思います。知財はそもそも独占排他権であり、第三者の使用を排除することをベースとしているからです。しかし近年は、私たちだけで事業を展開できるものが少なくなり、いろいろな人たちと新たな事業や産業をつくり出す必要が出てきました。その際に必要なのが、活用を超えた「巡らせる」という観点なのです。
もう一つ「情報」としての要素も重要になってきます。無形資産を分析すれば、どの会社にどんな資産があり、誰が何を使えばどのようなサービスがつくれるのか議論できます。その活動の中心にパナソニックグループの知財部門が存在するためにも、このパーパスを軸に周囲の理解を得ながら推進できればと思います。

―このパーパスに基づいて変化が続いていけば、世の中に大きなインパクトが与えられそうです。まずは社内にそのマインドを浸透させる必要があると思いますが、どのようなアプローチを考えていますか?

德田

まずは現在取り組んでいる業務を「将来を見据えた活動にできるか」という視点で見ていくことです。そして資産としてどのように生かし、他社と組む場合はどういう事業が起こりうるのか、想像を巡らせる。そこで権利化、契約、調査をしていく先に新たなチャレンジの種が生まれ、それに挑戦することでマインドは浸透していくのではないでしょうか。

マッチングやインデックス化などにより、つながるための「プラットフォーム」へ

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―パナソニックグループでは、知財を起点としたさまざまなオープンイノベーション活動も行っていらっしゃいます。その中で注目すべき事例はありますか?

德田

シンガポールの知財運用会社を活用した知財マッチング活動がその一つです。きっかけは7年ほど前で、シンガポールでスタートアップ・エコシステムが活性化したことへの気付きを機に、私たちも何かできないかと考えるようになり、始まりました。パナソニックグループの無形資産の提供や技術導入の仕組み化を議論し、近年その活動がようやく実を結び、新規事業の創出につながり始めています。シンガポールで水産養殖へのソリューション提供に取り組んだときも、食料自給率を上げたいという社会課題に対して、生産効率を下げる一因である魚の病気をチェックするため、私たちが所有していたヒトのDNAの検知技術を魚用に応用しようとしました。残念ながらサービスの立ち上げには至りませんでしたが、このプロジェクトを機に多くの研究機関やスタートアップとつながり、そこで生まれたコミュニティと持続的な関係を育むことができています。

―シンガポールの事例が上手くいったポイントは、どこにあったのでしょうか?

德田

私たちがマッチングのプラットフォームとして機能できたことだと思います。単体の事業であれば、事業化に成功してもワンショットで終わってしまい、ノウハウも展開されないままですが、プラットフォームとしてそこにあり続けることで、多くのノウハウや人脈が蓄積されていきました。

―また、パナソニックグループ内では「無形資産のインデックス化」の取り組みが進められていますが、力を入れている理由を教えてください。

徳田

グループ内のニーズとシーズをつなぎたいと思ったからです。パナソニックグループは技術部門の人数や海外拠点も多く、異なる事業の会社を横断して技術を活用することが難しい環境です。マーケットインで新商品を開発する場合、商品企画や事業企画からも、自社にどのような技術があるか見えづらいことが課題として挙げられていました。技術者自身も、自分の取り組みが社会のニーズにマッチしているか分からないという不安がある。それらの課題を解決するため、知財部門の調査スキルを用いて営業や企画担当者などの技術部門以外の人にも分かりやすい言葉で無形資産である技術情報をインデックス化し、技術や知財に詳しい人や担当者の履歴情報、技術資料などを検索できるシステムをつくりたいと考えました。立ち上げからまだ1年なので、検索精度向上のためのアップデートはまだまだ必要ですが、非常に有用なツールになると確信しています。

―インデックスに人の情報を含み、実際に担当者に聞くことができるのは面白いですね。

徳田

人と人とをつなげるというコンセプトを、最初から大切にしていました。その人がいつどんな発明をしたのかという特許情報をもとに、技術者同士で知識を共有し合うことや、営業や企画担当者が技術者に相談したり仲介することも容易になるでしょう。将来的には蓄積した検索ログから社内の技術ニーズを見える化し、研究開発のロードマップにも生かしていきたいですね。

社会課題にパナソニックグループの無形資産を巡らせていく

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―また、環境価値創出に向けて、インセンティブによる無形資産が巡るための仕組みづくりにも取り組んでいるそうですね。

徳田

現在パナソニックグループは、中長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を掲げています。ここでは「ACT(一つひとつの取り組み)」の積み重ねを大切にしながら、パナソニックグループが持つ責務の大きさに向き合い、エネルギー視点からグループを超えた社会のCO2排出を削減する視点に広げ、社会とともにカーボンニュートラルを目指す活動を推進しています。このような環境課題を解決するためには、社会の仕組みを根本から変え、従来とは異なるインフラや新しい技術を導入していくことも必要不可欠です。実現は1社だけでは難しく、さまざまなレイヤーの企業が協力し、無形資産を持ち寄ることが求められます。
さらに新たなイノベーションの創出を加速するためには、持ち寄った無形資産を評価し、何らかのインセンティブを与える仕組みが必要です。価値の算定は非常に難しいですが、算定方法を標準化できれば、無形資産の持ち寄りを持続的に誘発することができるでしょう。そのためにも、大企業やスタートアップが垣根なく、プレーヤーとして参加できるようにしていきたいですね。

―社会課題への取り組みの場合、収益や評価が伴わないと仲間が集まらず、継続されないケースが往々にしてありますが、どのようなマインドで取り組んでいるのでしょうか?

徳田

自社だけでやりたいという考え方や、無形資産により他を排除するやり方も残るでしょうから、そのケースはこれからも発生すると思います。そういった考え方はもちろん尊重しますが、無形資産の新たな活用方法や、適切に管理されている状態を示して広めていきたいです。それもまた、知財部門がチャレンジしたいところです。
理想は私たちの、あるいは私たちが見出した無形資産を呼び水に、いろいろな企業が集まる中でさまざまな事業が成立し、収益に直結していくことです。ただしそれは、環境や人の暮らしに還元されていなければ意味がありません。あるいは、収益にすぐには直結せずとも、二酸化炭素の削減貢献を評価する仕組みをつくることで、脱炭素に貢献する新たなイノベーションを加速させていきたいとも考えています。

世界を幸せにする。キーワードはリデザイン

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―世界有数の保有特許件数を誇るパナソニックグループが無形資産を巡らせていくために、今後どのような視点が必要だと考えていますか?

徳田

特許件数が多くても、管理や使いこなしはまだまだ不十分だと感じています。そこで大切になるのが、リデザインの視点です。知財から無形資産へリデザインし、私たちの活動自体もリデザインしていく。そこから、社内での開発方法や社会の仕組みまでリデザインしていくことにつなげていけたら楽しいですよね。

―それがゆくゆくは、パーパスにある「世界を幸せにする」につながっていくのですね。

徳田

この「幸せにする」対象には私たち自身も含まれていて、パーパスには社員も社会貢献となる仕事に誇りを持ち、幸せな気持ちになってほしいという思いも込められています。そのために、社員の業務改革はもちろん、縦割りの階層的な組織運営にとどまらない、横断的なスタイルを増やすことにも取り組んでいます。

―最後に、知財部門が目指す「ありたい姿」について教えてください。

徳田

「無形資産を巡らし、価値に変えて、世界を幸せにする」というパーパスを軸に、社内も社会のシステムも、さまざまな角度から変えていきたいですね。また、私たち知財部門の役割は「無形資産でつなぐ」ことですので、社会課題に取り組むスタートアップやベンチャー企業も含め、社内外に無形資産を通じたいろいろなつながりを創出していきたいと考えています。このような取り組みを通して、パナソニックグループの知財に対する見方や評価まで変えていけたらうれしいですね。

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Interview:荒井 亮/Text:宇治田 エリ/Photo:森脇 悟

德田 佳昭

德田 佳昭

パナソニック ホールディングス 株式会社 技術部門 知的財産部部長

パナソニック ホールディングス株式会社 技術部門 知的財産部部長。1989年に入社後、一般社団法人知的財産研究所に出向し、米国および欧州の知財システムの研究を行う。また、ニューヨーク法律事務所にも駐在。帰任後は松下通信工業株式会社(当時)にて知財関連の交渉や契約を担当し、パナソニック株式会社 知的財産センターの所長を経てパナソニック ホールディングス株式会社 知的財産部部長に就任。グループの知財全体を指揮している。

パナソニック ホールディングス 株式会社

総合エレクトロニクスメーカーとして、様々な機器の開発、販売を推進。電気製品を通じて社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与する。

総合エレクトロニクスメーカーとして、様々な機器の開発、販売を推進。電気製品を通じて社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与する。

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