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2024.04.09

レポート

“情緒”は睡眠音楽を更新するのか──Chara、Le Makeupら参加EP| 〈SLEEP SOUND LABEL ZZZN〉の可能性

NTT東日本/東日本電信電話 株式会社, Konel inc.

live 10 sleep Chara
提供:SLEEP SOUND LABEL ZZZN

「睡眠」の重要性は人類の歴史において長きに渡り問いただされ、これまでにも様々な角度で睡眠を向上させる試みは行われている。「音楽」もその他ならない一つだが、今回、新たな未来を予感させる“睡眠×音楽”プロジェクトが始動した。

2024年3月15日(金)「世界睡眠デー」※1 に、東日本電信電話株式会社、株式会社NTT DXパートナー、Konelの3社は、“Sleep Network Hub 「ZAKONE」”を通じて、睡眠と音楽の可能性を探求するレーベル「SLEEP SOUND LABEL ZZZN」(スリープ サウンド レーベル ズズズン)の立ち上げを発表。その第一弾作品として『ZZZN EP Vol.1』の配信を開始したことをアナウンスした。

※1 世界睡眠医学協会(World Association of Sleep Medicine)によって3月の第3金曜日に制定され、睡眠医学があまり発達していない地域での教育促進など、睡眠関連の知識を広める運動を行う日。

3社はレーベル設立に伴い、プレス発表会ならびに『ZZZN EP Vol.1』参加アーティスト・Charaの演奏会を実施。本レポートでは、会見で発表された「SLEEP SOUND LABEL ZZZN」について、さらにはスペシャルゲストにCharaを迎えたトークショー、そしてライブパフォーマンスを振り返りながら、“睡眠×音楽”の可能性を探る。


情緒的な体験から睡眠をデザインする「スリープテック 3.0」の時代へ


プレス発表会は、NTT 東日本 ビジネスイノベーション本部 スリープテック事業チームの尾形哲平氏によるプレゼンテーションから行われた。参加者は、“Sleep Network Hub 「ZAKONE」”に参画している企業によるスリープテックアメニティ(ブランケット、マットレスなど)に思い思いに寝転び、さらに各参加者に配布された睡眠計測デバイス「ブレインスリープコイン」から取得した参加者の生体データ(体動、温度など)と連動して明滅するライトによる幻想的な雰囲気の中、ZAKONE(雑魚寝)をしながらコンテンツを体験した。

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NTT 東日本とNTT DXパートナーは、118社(2024年3月時点)が参画する日本最大級の睡眠に関する企業コミュニティ“Sleep Network Hub 「ZAKONE」”を運営し、睡眠課題の解決を目指したイベントや検証に取り組んできた。

過去にはSony Music Japan International、Konelとの入眠プレイリストプロジェクト《sasayaki lullaby》のローンチや、昨年3月には、箱根吉池旅館での日本初の睡眠に特化した宿泊型ライブイベント<ZZZN(ズズズン)- LISTEN AND SLEEP ->の開催など、テクノロジーを活用しながら“音楽”との可能性を拡張し続けている。

【レポート】睡眠に特化した宿泊型ライブイベント「ZZZN(ズズズン)」、観客を“寝落ち”させるためのスリープテック×クリエイティブ

そして今回、「睡眠×音楽」の取り組みをさらに推し進めるべく「SLEEP SOUND LABEL ZZZN」を発足。“睡眠をテーマにした音楽体験”を通して、より多くの人に覚醒と睡眠のスイッチとなる時間を提供することや、睡眠自体への興味・関心のきっかけを提供するプラットフォームとして活動する。主なアプローチとして「楽曲配信・アレンジ・制作」、「睡眠における音源の効果検証」、「睡眠をテーマにした音楽体験のコンサルティング」を行う。

「睡眠×音楽」の市場可能性について、尾形氏はこう語る。

睡眠を可視化してスコア化するというフレーズや、機能重視のプロダクトなど、睡眠市場は飽和状態になりつつありますが、僕らとして現在はスリープテック3.0の時代に来てると思っています。それは情緒的な体験として、睡眠をデザインしていくこと。我々の事業の経験から、睡眠と音楽には非常に大きな可能性があると思っています(NTT 東日本 ビジネスイノベーション本部 スリープテック事業チーム 尾形哲平)

尾形氏が語る“情緒的な体験”に象徴されるように、今回第一弾作品としてリリースされた『ZZZN EP Vol.1』の中で、参加したChara、Le Makeupの楽曲には浮遊感のあるビートにリリックが乗せられている。一般的に睡眠と音楽の文脈では、インストゥルメンタルやアンビエントなどが想起される中、ユニークな歌詞世界を持つアーティストが「睡眠」というテーマを解釈して作品化していることも特筆すべき点だろう。

【プレゼン資料】睡眠と音楽の可能性を探求するレーベル「SLEEP SOUND LABEL ZZZN(ズズズン)」第一弾作品「ZZZN EP Vol.1」をリリース

【プレゼン資料】睡眠と音楽の可能性を探求するレーベル「SLEEP SOUND LABEL ZZZN(ズズズン)」第一弾作品「ZZZN EP Vol.1」をリリース 2

【プレゼン資料】睡眠と音楽の可能性を探求するレーベル「SLEEP SOUND LABEL ZZZN(ズズズン)」第一弾作品「ZZZN EP Vol.1」をリリース 3


「“Music・Medic・Magic”だと思う」(Chara)


最大の見どころであるライブパフォーマンスは、安らかな睡眠へ誘うようデザインされた空間で、日常とシームレスに接続するように静かに幕を開けた。

部屋一帯は暗がりに照らされていた青い照明から、赤い照明が漂う世界に。ライブパフォーマンスのイントロは、無意識的には知覚できないほど緩やかなフェードインで空間的に広がる。危うく寝落ちしそうになるほどに癒しの音の粒が充満していく中、Charaがステージに登場した。

パッチワークのようなカラフルなデザインが施され、ベッドルームを思わせるニットを纏うChara。ステージ中央のラグに腰掛けるやいなや靴を脱ぐ。ギターを手に取りスローテンポでリフレインを響かせながら、『ZZZN EP Vol.1』のために書き下ろされた“あなたの一部になりたい”を披露。

live 6 Chara 提供:SLEEP SOUND LABEL ZZZN

本楽曲でCharaは、「睡眠」というテーマを彼女なりの世界観で解釈しており、“恋の手前”の感情になぞらえてストーリーテラーとして憑依する。

睡眠って健康に大事だし、すごいがんばっても、よく眠れなかったら次の日楽しめないから。今回はそういうテーマがあったので、キャラクターというか、女の子が頑張った一日のあと、家に帰って自分のためにお手入れしたり、好きなことをしたりして寝るまでの楽しい時間みたいなものをイメージしました。恋の手前っていうか、苦しい恋もいいけど…“なんか私のことを思ってくれてるのかしら”みたいな雰囲気の中に包まれたくらいの感覚。勘違いの入り口のところ(Chara)

数多のステージを重ねてきた彼女だが、何万人規模の会場とはまた異なり、耳元で囁くようなウィスパーボイスで観客を包み込む。放たれる言葉は歌詞然としていなく、サウンドとしての広がりを帯びる。それは彼女の唯一性でもあり、自由自在なボーカルアプローチの天才性を改めて感じさせるものだった。

さらに印象的だったのはビートの波動だ。シンセサイザーから流れるエレクトロサウンドが瞑想のように没入体験へ導きながらも圧迫感を感じさせない。クラブミュージックで味わうような身体にこだまするベースではなく、ダイナミズムに寄り添った緻密なミキシングが行われていることに気づかされる。Charaはそれらの身体との関係性や、空間との共存を感覚的に捉えているのだろうか。

昔から精神的に学ぶことがあるときに音楽の力って、なんらかの魔法みたいな力。音楽をやっていて、私は“Music・Medic・Magic”って思っている。それを利用していただくのはとってもいいなと思っています。一つのミュージシャンの役割がある(Chara)

歌い終えると徐に寝そべるChara。歌詞世界の余韻を引き継ぐアウトロが流れる中、Charaはオーディエンスとともに夢の世界へと歩みに行く少女のようにも見えた。靴を脱いだところから、いやステージに現れた時点から始まったパフォーマンスは、圧倒的なオンステージの存在感を顕にしたひとときだった。

live 10 sleep Chara 提供:SLEEP SOUND LABEL ZZZN

sleep kankyaku 会場内にはリラックスして眠りにつく参加者も。寝そべりながら体験するスペシャルな演奏会で、音楽ライブの新たな可能性を予感させた。 提供:SLEEP SOUND LABEL ZZZN

「ZZZN EP Vol.1」配信はこちら


作品として昇華される「睡眠と音楽」


「高品質の睡眠グッズに囲まれながら目の前でCharaが歌唱する」という、オーディエンスにとっては未曾有の貴重な体験となったことは間違いない。しかし、その体験のコアは見事に『ZZZN EP Vol.1』にパッケージされているのだ。

収録楽曲には、Charaだけでなく、Le Makeup、Yumi Iwakiなどそれぞれ独自の世界観で作品を発信し続けるアーティストが参加。ジャンルレスかつ多彩な構成ながら、M1からインストを含むM6まで、まるで一つの楽曲のようにナチュラルに紡ぎ合わされており、ビートとリリックの空間的な質感はLIVEと同様に収められている。これは「SLEEP SOUND LABEL ZZZN」が内包するフィロソフィーが、それぞれのアーティストと共鳴した結晶と言えるだろう。レーベル発足という挑戦的な試みながら、第一弾作品から今後の期待感が強く高まる内容だ。

「睡眠と音楽」というテーマは、作曲家マックス・リヒターが『SLEEP』という8時間23分におよぶ“眠り”のためのコンサートを披露したことや、マインドフルネスアプリ「Endel」とジェイムス・ブレイクやグライムスらがコラボレーションしていることにも現れるように全世界共通の分野だと認識されつつある。そんな時流と重ねながらも、テクノロジーの進化だけでなく普遍的な“情緒的な体験”との化学反応で生み出される「SLEEP SOUND LABEL ZZZN」による新たなクリエーションに期待したい。

live 9 Chara 提供:SLEEP SOUND LABEL ZZZN

「ZZZN EP Vol.1」 配信はこちら

ZZZN 公式サイト

睡眠コミュニティ「ZAKONE(ザコネ)」

Top Image : 提供:SLEEP SOUND LABEL ZZZN

Text:中村 悠人

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