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2026.04.28

レポート

AIが語られたカンヌで、評価されたのは“人間の発想“だった。世界三大広告賞「カンヌライオンズ」昨年の注目作を紹介 #1

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毎年6月に南フランス・カンヌで華々しく開催される世界最大級の広告祭「カンヌライオンズ」。会期中は、数百にも及ぶ講演やセッション、活発なネットワーキングイベントに加え、権威あるカンヌライオンズ賞の授賞式が執り行われます。今年も、ガリアーノインスピレーションズ代表の阿部光史が、歴代の作品から、特に注目すべき作品群をご紹介します。
(文:阿部光史)

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今年もまたカンヌライオンズの季節が近づいてきた。世界最大規模の広告コミュニケーションフェスティバルとして知られるカンヌライオンズは、毎年6月に南仏カンヌで開催され、広告やブランドコミュニケーションだけでなく、イノベーティブなアイデアの最新の潮流を示す場でもある。

2026年3月、東京・汐留のアドミュージアム東京では「カンヌライオンズ展」が開催されていた。世界中から集まった受賞作を実際に見ながら、広告のアイデアや表現の現在地を振り返ることができる貴重な機会であった。

そこで本連載では、この展示をきっかけに2025年のカンヌライオンズを振り返ってみたい。2025年のカンヌでは何が語られ、どのような作品が評価されたのか。全5回の連載として、特に印象的だったいくつかのグランプリ作品を取り上げながら、広告クリエイティブの現在地を見ていく。

2025年のカンヌライオンズでは、例年と同じく、AIが大きなテーマとして語られていた。会場のカンファレンスでも、広告制作へのAI活用や、ブランドコミュニケーションの未来についての議論が数多く行われていた。

しかし実際の受賞作を見ていくと、少し違った風景が見えてくる。グランプリを獲得したプロジェクトの多くは、AIの技術そのものを主役にしたアイデアではなかった。むしろ評価されていたのは、人間の発想によってコミュニケーションの形や社会の仕組みを変えるアイデアだった。

注目作品1:映画になる広告「NIGHT FISHING / HYUNDAI」

まず最初に採り上げるのはエンタテインメント・ライオン部門でグランプリを受賞した、Hyundaiの「NIGHT FISHING」である。

NIGHT FISHING / HYUNDAI

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この作品は、広告というよりも13分ほどの短編映画として制作された。物語の舞台は夜のEV充電ステーション。ここで電気を盗もうとする正体不明の存在をきっかけに、不思議なサスペンスが展開していく。製品としての自動車は物語の中心に陣取るのではなく、あくまで映画の世界観の中に自然に存在している。

▲30秒の予告編

ユニークなのは撮影方法だ。おわかりだろうか。この作品は、車に搭載されたカメラだけで撮影されている。つまり、車が単なる商品ではなく「カメラ装置」として映画の表現に使われているのだ。

従来の広告であれば、車は性能やデザインを伝えるための被写体として登場するだろう。しかしこの作品では、車はむしろ物語を成立させる装置として機能している。ブランドを説明するのではなく、ブランドが存在する世界を物語として体験させる。そんなアプローチで企画されている。

またこの作品は、動画全盛のこの時代に、あくまで「映画」として、映画館でのみ上映された。チケットは1ドルで販売され、公開から2週間に渡って1位の人気を保ったという。

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ここには近年の広告表現のひとつの潮流も見える。ブランドコミュニケーションが従来の広告フォーマットから離れ、映画やシリーズコンテンツのような“語られるべき物語”へと拡張しているという流れだ。

もちろんブランド映画という試み自体は新しいものではない。しかし「NIGHT FISHING」が評価された理由は、その物語の成立の仕方にある。車というプロダクトの特徴を説明するのではなく、プロダクトが持つ技術を表現手段として使い、作品そのものを成立させている点だ。

▲ケーススタディ動画

AIが広告制作の効率を大きく変えつつある現在、映像制作そのものはますます容易になっていくだろう。しかしこの作品が示しているのは、重要なのは映像を作る技術ではなく、「何をどう作品にするか」という発想の部分だということだ。

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2025年のカンヌライオンズのカンファレンスでも、例年同様、AIが広告の未来を語るキーワードとして繰り返し登場した。しかし実際の受賞作を見ると、評価されていたのはむしろ、人間の発想によってコミュニケーションの形を変えるアイデアだった。

Hyundaiの「NIGHT FISHING」は、そのことを象徴する作品のひとつと言えるだろう。

注目作品2:LUCKY YATRA / INDIAN RAILWAYS

次に取り上げるのは、PRライオン部門でグランプリを受賞した、Indian Railwaysの「LUCKY YATRA」である。

インドの鉄道は世界最大級の公共交通網として知られているが、長年大きな問題になっていたのが無賃乗車である。膨大な利用者数を抱える中で、すべての乗客を検札することは現実的ではなく、結果として多くの人が切符を買わずに乗車してしまう。施策の数字では、4割の乗客が無賃乗車をしていると言われている。

これまでの対策は当然ながら罰則であった。見つかれば罰金を取る。しかしこの方法には限界があった。検札できる人数は限られているし、取り締まりを強化すればするほど、利用者との摩擦も増えてしまう。

そこで生まれたのが「LUCKY YATRA(幸福な旅)」というアイデアだ。

仕組みは非常にシンプルである。鉄道の切符には固有の販売番号が付記されている。この番号を専用サイトやアプリに入力すると抽選に参加できる。そして当選すれば賞金がもらえる。つまり切符がそのまま宝くじになるという仕組みだ。

ここで面白いのは、無賃乗車を「取り締まる問題」ではなく、「お金を払ってでも参加したくなるゲーム」に変えている点である。切符を買うことで、罰を避けるだけでなく、当たるかもしれない楽しみが生まれる。利用者の心理は「見つからなければ得」から「もしかしたら当たるかもしれない」へと、大きくプラスの方向に変化する。

これは行動経済学の考え方とも近い。人は必ずしも合理的に行動するわけではない。小さな楽しみや期待が付加されるだけで、行動は意外なほど変わる。LUCKY YATRAは、その心理をうまく利用している。

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このプロジェクトの魅力はユーモアにある。社会問題を解決するプロジェクトは往々にして上から目線の真面目なトーンになりがちだ。しかしこのアイデアは、どこか軽やかで楽しい。鉄道の切符が宝くじになるという発想自体が、少し笑えるユーモアを持っている。

カンヌライオンズでは近年、社会課題を扱うコミュニケーションが多く見られる。しかしその多くは、問題の深刻さを強調するメッセージ型のものだった。LUCKY YATRAはそれとは少し違うアプローチを取っている。社会問題を解決するために、説教ではなくユーモアを使っているのだ。

ちなみにカンヌライオンズでは2024年から「Use of Humour」というサブカテゴリが導入されている。コロナ禍という人類共通の厳しい環境を経て、ユーモアという表現技術が改めて評価され始めているのである。

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AIが広告制作の効率を大きく変えつつある現在、コンテンツそのものはますます作りやすくなっていくだろう。しかしこの作品が示しているのは、社会の行動を変えるアイデアは、必ずしも高度なテクノロジーから生まれるわけではないということだ。

切符を宝くじに変える。

その一行で説明できるシンプルな発想が、多くの人の行動を変える力を持つこともある。LUCKY YATRAは、そんな人間のアイデアの強さを示したプロジェクトと言えるだろう。

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今年のカンヌライオンズ2026も、どのような作品に出会えるか、今から楽しみです!


阿部光史
クリエイティブディレクター / コピーライター
株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO
東京工芸大学非常勤講師

クリエイティブディレクター / コピーライター / CMプランナー。株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO、東京工芸大学非常勤講師。広告キャンペーンの企画制作をメイン業務としつつ、クリエーティブなアイデア・発想力についての講義やワークショップを大学等で行っている。電子工作にも造詣が深く、SXSWへの出展などを通じてイノベーティブな技術領域の企業プロトタイプ製作支援も行う。

X: @galliano
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blog: mitsushiabe.com
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