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2022.04.01

レポート | 体験レポート

3Dプリントの“称賛する失敗”が大集合? 下北の「もじゃもじゃコンテスト展」に行ってみた

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下北沢駅高架下に誕生した実験区「ミカン下北」へ

2022年3月30日に待望のオープンを果たした、京王井の頭線下北沢駅高架下の新施設「ミカン下北」。下北沢カルチャーを感じさせる物販店と人気飲食店を中心とした商業エリアに、「遊ぶように働く」を体現するワークプレイスが同居したAからEまでの5街区から構成される大規模施設です。

4月2日~3日には開業イベント「未完祭」が開催、ミカン下北のテナントを紹介する「世界最速ぶらりミカン下北(配信番組)」、ストーリーレーベル「ノーミーツ」所属俳優オツハタが贈る会場レポートなど、実験的なコンテンツを現地のミカン下北および公式YouTubeチャンネルで実施・配信する予定。イベントの前にした開業日の3月30日から、すでに各区画ではメディア関係者から近隣住民まで多くの人が訪れ賑わいを見せています。

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「ミカン」という名称は、多様な文化が交差し、絶えず自由に編集され、変わり続ける、つまり“常に未完である”ことに下北沢の普遍的な魅力を見出し、未完ゆえに生まれる新たな実験や挑戦を促す想いを表現したとのこと。

そんな「未完」というコンセプトにぴったりな展示が施設の一角で行われているとの情報を得て知財図鑑編集部が訪れたのは、下北沢駅から徒歩1分のE街区202。

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「もじゃもじゃコンテスト展」と銘打たれた何やら不思議なこの展示。入って中を見てみると、整然と並べられた什器の上で、大きさも形も色もさまざまな“もじゃもじゃ”とした固形物がさながら芸術作品のようにうやうやしく展示されています。実はこれ、クリエイターたちが3Dプリンターによる印刷に失敗したときに生まれたプラスチックの“もじゃもじゃ”を集めたもの。

そんな“もじゃもじゃ”を「失敗の象徴」ではなく「挑戦の証」として讃えるべく、このコンテストはすでに過去2回に渡り開催。今回、実験的な挑戦やプロジェクトを歓迎する「ミカン下北」の開業イベントに合わせて、全国から届いた200を越える応募作品の中から厳選された“もじゃもじゃ”の実物を展示しているのが、この「もじゃもじゃコンテスト展」です。

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失敗にこそ賞賛を? 3Dプリントから生まれた“もじゃもじゃ”に宿る魅力

3Dプリンターにはさまざまな造形方式がありますが、“もじゃもじゃ”が生まれるのは最もメジャーな熱溶解積層方式と呼ばれるもので、紐状の樹脂(フィラメント)を熱で溶かしながら積み重ねていく仕組みです。このフィラメントをマシンが積層していく段階で土台が倒れたり崩れたりし、作者がそれに気づかず放置してしまうことで“もじゃもじゃ”が生まれます。3Dプリンターを扱うクリエイターにとって、いわば「あるある」みたいなものなんだとか。

一見すると不揃いで不恰好な失敗作の数々ですが、それらはかつて制作者が「何らかの意図」を持ってクリエイトした中から期せずしてこぼれ落ちおちてしまったもの。人工的な意図と3Dプリンターのシステムエラーが掛け合わさることにより自然と不自然が融合したその姿は、生き物のような存在感と情念が宿っているようです。

各作品には、本来目指していた3Dプリントの完成グラフィックと作者のコメントが添えられており、それは膨大な労力が無に帰ったことへの嘆きから「意外とこれはこれで愛着が湧いてきた」というポジティブなものまでさまざま。つくり手たちの当初の狙いや背景を感じられることで、“もじゃもじゃ”ひとつひとつにストーリーや人間味があるのだということを感じさせてくれます。

この「もじゃもじゃコンテスト」を企画したのは、自身も3Dプリンターを扱うクリエイターでもあるクリエイティブテクノロジスト/知財ハンターの都 淳朗(Konel inc. )さんです。

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都さんは自身の“もじゃもじゃ”との出会いについてこう語ります。

「3Dプリンターを使い始めた学生の頃は、勝手がわからず何度も“もじゃ”を発生させていました。周りに3Dプリンターに詳しい人もおらず、ネットで調べながら試行錯誤する日々。それでも“もじゃ”は頻繁に僕に会いにきてくれていました。またお前か…と、3Dプリンターを責めるようにため息をついていましたが、3Dプリンターのメンテナンスやデータ設計で“もじゃ”を高確率で回避できるようになってきたとき、気づいたのです。“もじゃ”は鏡であると。怠惰な自分に喝を入れるように、油断したときに“もじゃ”は顔を見せてくれます。それは旧友に思いがけず会ったような感覚で初心に帰らせてくれる存在であると同時に、毎回違った表情を見せ驚きを与えてくれる、再現性の無い唯一無二の美しき挑戦の証です。」

さらに都さんは、このコンテストは「クリエイターの挫折や失敗の拠り所」だと話します。

「一億総発信と言われる現代は、スマホ一台あれば誰もがクリエイターになれるし、ネットにアクセスすれば情報も簡単に得ることができる創造に恵まれた時代だと思います。そうしたアクションの機会が増えたということは、それと比例してクリエイティブに対して失敗や挫折を経験している人も多いだろうなと思います。SNSにはきらびやかな成功例しか流れてこないし、そこに到達できなくて心が折れてしまうクリエイターもたくさんいるんじゃないかなと。そんな失敗も挑戦の証として成功と同等に尊いと僕は思いますし、失敗してもそれが笑われるのではなく称賛される場所があって欲しい。このコンテストを通して、より皆が前向きに挑戦できる風潮ができれば、世界はもっと輝かしくなると僕は信じています。」

今回はそんな都さんが、その見事な“失敗ぶり”に心を打たれたおすすめの“もじゃもじゃ”作品を3点ご紹介いただきました。

作品タイトル「生徒たちの挑戦の証(一部)」/制作:山本周(yamamotoshu)

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【都さんコメント】この“もじゃもじゃ”はミニマムながらも緩急ある形状で、かつ自立してひとまとまりになっているのがとても良いですね。もじゃは大概、とっ散らかった感じになりますが、絶妙なバランス感で成立しているこのもじゃは、まるで断崖の上に咲く一輪の花のような危うい魅力を秘めています。

作品タイトル「金ピカの名刺ケース」/制作:けんけん

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【都さんコメント】これはもうぜひ展示台に置かれた状態を完成形として見ていただきたい。部屋に落ちている髪の毛くらいの存在感ですが、展示することによって作品に昇華している。名刺ケースになろうとしていたはずなのに、これだけしか質量を得られなかった。極小ながらも立体的な弧を描き、落とす影からは悲壮感が漂うエモいもじゃです。

作品タイトル「大物FRPキャラクターのメス型の一部」/制作よじげんくん

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【都さんコメント】圧巻ですね。かける言葉が見つからないというか。3Dプリンタを4年ほど使い続けていますが、ここまで大惨事なもじゃを出したことはありません。見れば見るほど胃が痛くなり胸が締め付けられる。もじゃに感情移入ってできるんですね。このもじゃの制作者はどんな気持ちでこのもじゃと向き合ったのか… とてもじゃないですが、僕なら発狂していると思います。しかし、これだけ大きいもじゃということはそれだけ大きな挑戦をしたということ。その挑戦自体にリスペクトを贈りたい。しかもこのあとはちゃんと成功したというのですから、タフですよね。もじゃコンを開いたからこそ、このもじゃに出会えたので、心から開催して良かったと思えます。

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クリエイターたちによる唯一無二の挑戦の証が集まったこの展示は4月5日(火)まで。「実験」を新たなテーマとして掲げる下北沢の開放的な街の空気を感じながら、ぜひお立ち寄りください。

「もじゃもじゃコンテスト展」詳細
名称:もじゃもじゃコンテスト展
会期:2022年3月30日(水)- 2022年4月5日(火)12:00-20:00
※ 4月2日(土)・4月3日(日)のみ10:00-20:00
※ 4月3日(日) 15:00-16:30 は一時閉館予定
会場:東京都世田谷区北沢 2-296-4 ミカン下北E街区 202(下北沢駅東口より徒歩1分)
入場料:無料
主催:株式会社メルタ
協力:京王電鉄株式会社
※ 予約不要。感染症予防の観点から、同時に入れる入場者数の制限を行う可能性があります。
※ 入場時の手指消毒の徹底や会場内の換気など、感染症対策を実施します。

「もじゃもじゃコンテスト」公式HPはこちら
「未完祭」特設ページはこちら
「ミカン下北」公式HPはこちら

文:知財ハンター/松岡 真吾

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