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2026.01.15

レポート | World Hunt

手で耕し、共に生きる。イタリアの田舎で出会った、農業コミュニティのかたち

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ミラノから車で約1時間半。ピエモンテ州アレッサンドリア県にある、ワインの産地でもあるトルトーナの丘陸地にある農業コミュニティ・Umaiaに一週間ほど滞在した。

彼らが住んでいるのは、人口約30人ほどの小さな集落の外れにある大きな家。ここでは子供から大人まで10人ほどの人々が、中庭や畑作業、食事、収入源をシェアして生活を共にしている。Umaiaの立ち上げメンバーが約4年前に、複数家族が一緒に暮らせて農業用の土地もあるいまの家を購入して、この地に移り住んだそうだ。彼らは主に、ワインの生産と販売、自家消費用の穀物や野菜栽培を行っている。

Umaiaでの一日

Umaiaの朝は、季節にもよるが私が滞在した10月には、8時頃から作業が始まる。まずは飼っている鶏と馬の餌やりからスタートする。鶏には、生活の中で出た生ゴミも一緒に餌として与え、新鮮な卵を手に入れる。馬には、畑作業でとれた草を乾燥させたものを与える。

image2 馬はお昼から夕方ごろまで畑に放ち、馬に草を食べてもらうことで畑のメンテナンスを行なっている

私が滞在したのはたった一週間だったが、その間に、自家製パン作り、野菜の収穫、畑をきれいにする作業、ブドウ畑での草刈り、堆肥の移動など、その日に家にいるメンバーと一緒に、様々な作業を行った。

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image4 冬野菜の畑

農作業は、畑での作業だけで終わらない。午前中の畑作業が終わると、収穫できた食材を使って一緒に調理をして昼食を取る。ほぼ自給自足のものに基づいているため、食事は収穫した野菜中心のものが多い。彼らはベジタリアンではないが、肉や魚は滅多に食べない。

彼らは収穫した食材の調理や加工、保存することも農作業の一部だと捉えているため、野菜の調理法や保存法など、食材の活用に関する知恵もどんどん溜まっていく。間近で見ていると、彼らが持っているのは単なる情報ではなく、身体に染み付いた生きる「知恵」であることを実感する。

そしてランチのあとは、そのまま週に一度の家族会議を行うこともある。農作業について、各メンバーの近況など、一緒に暮らす家族と話し合う大事な時間だ。

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image6 天気の良い日は、中庭のテーブルで食卓を囲む

image7 冬に向けて飼育している鶏の数を調整するため、その場で鶏を捌く現場にも遭遇。メンバーの一人が養豚場で働いていた経験があるため、見事な捌きっぷりで部位ごとに処理されていく。その後は炒めたり、煮出したスープでパスタを作ったり…数日間で様々な調理法で余すことなくいただいた。

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image9 彼らは小麦の栽培も行なっているため、月に2回ほど、中庭にある薪窯で家族全員分のパンを焼く。毎回6キロほどの自家製小麦粉を使って一気に焼き上げて、なくなったらまた焼くというサイクル。薪ももちろん、畑作業の一環で自分たちで準備したものを活用している。

旅が導いた、Umaia の原点

Umaiaを立ち上げたのは、ミラノ出身のカップルと、トルトーネの丘で知り合ったもう1組のカップル。中国、ボリビア、メキシコ、モロッコ、ルーマニア…ヨーロッパの外を旅した彼らが心を打たれたのは、木々で区切られた小さな畑、丁寧に手入れされた牧草地や小さな用水路、そしてその美しさや丁寧さが村や人、動物の暮らしにまで行き渡っている風景だった。そこで彼らは「これこそが、人類が進むべき道だ」と確信した。そこにはスラム街のような貧困や孤立ではなく、現代で失われかけている知恵を受け継ぎながら生きる小さな共同体があった。

image10 Umaiaの立ち上げメンバー

手作業が生む、太陽の農業と共同体

彼らは手作業を好む。唯一の機械はものを運ぶためのトラクターのみで、他にはクワ、鎌、斧などの道具を使い、畑を耕すための馬を飼っている。

その背景には、旅で得た強い経験から「生産の裏側を知らないままただ消費するだけの、搾取のサイクルに組み込まれる生活から距離を取りたい」という強い想いからきている。

image11 手作業で使う道具

畑を耕し、小麦を手で蒔き、暖をとるための薪を自分たちで集める。トラクターは使わず、代わりに馬などの動物の力を借りて耕す。

手作業で働くという考え方は、食べ物を作るために資源を消費しない農業を目指すところから生まれた。つまり、化石燃料に依存しないこと。そのためトラクターは使わず、代わりに馬を使って、“太陽の力”で成り立つ農業を追求している。太陽が畑や植物を育てるためのエネルギーを与えてくれ、それを私たちの体のエネルギーとして変換し、変換されなかった部分は、馬や人の堆肥として再び土へと還される。循環の中で、農業は続いていく。

image12 馬の力を借りて畑を耕す

そして手作業による農業は、共同体とも密接につながっている。手作業は効率とは引き換えに、人と人との関係を取り戻す。一人では不可能な作業も、皆で行えば可能になり、そこには楽しさや美しさ、そして絆が生まれる。機械を使わない農業は、特別な技術や力を必要としないので小さな子どもでも安全に関わることができて、誰もが「生きる営み」の一部になれる。

Umaiaが最終的に目指しているのは、地球に負荷をかけないことだけではなく、「生きることの手間を取り戻す」ことでもあるのだ。

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image14 子供たちも作業を一緒に行っている様子

image15 唯一の機械は、ものを運ぶトラクターのみ

こうして彼らは、ミラノを離れ、長い探索の末、2〜3家族が一緒に暮らせて、共有スペースがあり、農業用の土地があり、自分たちの価値観に合うネットワークの中にある今の家を見つけ、農業コミュニティ・Umaiaは生まれた。

ちなみにUmaiaという名前は、肥沃な土壌を意味する humus、堆肥小屋を指す letamaia(廃棄物の豊かさ)、そして人間を意味するUmanoから生まれた彼らの造語である。

お金も共有する

彼らは家や農作業だけでなく、お金も共有している。仕事も生活空間も共有するのに、お金だけアクセスが違うというのは考えられず、共同の資金管理を始めた。主にワインの売上、穀物や教育菜園の収益、外部での仕事の収入、国からの子供のための給付金なども全て一つの口座に集めた。そこから生活費や食費を賄い、各自が必要な時に必要な分だけ引き出せるようにした。帳簿もつけることなく、質素に暮らすという合意のもと、互いを信頼して生活してきた。

これまでお金を共有することによる大きな問題はなかったけれど、新しく出てきた課題として、子どもの将来のための貯蓄が十分にできていないなど、新しく出てきた課題もある。この点は今も試行錯誤が続いている。

このお金の扱い方は、彼らが幼少期に「Mondo di Comunità e Famiglia(共同体と家族の世界)」という家族型共同体の経験から学んだものだ。この経験は彼らにとってとても強く、美しい記憶だからこそ、多少うまくいかないことがあっても大丈夫だと信じ続けることができる。

ちなみにMondo di Comunità e Famiglia(MCF)とは、1970年代にミラノで生まれた家族型共同体の実践を起点に、現在はイタリア各地に広がるネットワーク型の非営利団体。「一人では生ききれない」という感覚を出発点に、複数の家族や個人が、信頼と分かち合いを基盤に、人と共に生きる暮らしを模索している。

農業でひろがる輪

この4年間で約100人もの人々がボランティアとしてUmaiaを訪れ、少しずつ、仲間の出入りを繰り返しながらUmaiaは形づくられてきた。ブドウの収穫をきっかけに滞在を続ける人、人生の転機に訪れた人、ボランティアとして関わり、ここでの暮らしを選んだ人もいる。外からUmaiaでの生活を体験しにくる彼らのまなざしを通して、この実践が誰かにとって意味を持っていると実感できることが、彼らがコミュニティを続けていく力になっている。

image16 ワインのブドウの収穫

また今回の滞在中、知り合いの農家が主催するパーティに参加する機会にも恵まれた。その農家の畑で収穫できた食材で作ったミネストローネやファリナータを食べたり、それぞれが自家製のワインやパンを持ち寄って、共に食事の時間を楽しんだ。またもう着なくなってしまった古着をそれぞれが持ち寄り、好きに持って帰ってよいスワップコーナーもあった。ちなみに私のホストは、子供の服はほとんど買ったことがないという。

農業や食を通じて、初めてのメンバーも、顔馴染みのメンバーも入り混じって、共に食卓を囲む様子はとても心地よかった。

image17 北イタリアならではのファリナータ

歴史ある農業協同組合・Valli Unite

Umaiaがいまの場所を拠点に選んだ理由の一つに、目の前の丘にあるValli Uniteという歴史ある有機農業を基盤とした農業協同組合がある。1981年に発足してすでに40年以上経つが、現在も移住者や旅人など若者が多く集まっていて、活気あるコミュニティが形成されている。

現在では30人ほどのメンバーがいて、ブドウ栽培、果樹園、家畜飼育、養蜂などを行っている。ワイン、蜂蜜、肉など、自分たちで生産・加工・販売を行っている。

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Valli Uniteには誰でも訪問することができる。敷地内には、ワインの醸造場、牛舎、ショップ、レストラン、宿泊施設、農業キャンプ場等があり、訪問者やボランティアを受け入れており、農業体験も可能。また平日のランチの時間には、地域の人と一緒に食事をすることができるコミュニティランチを行なっている。実際に見学に行ったときには、敷地内のショップが開いており、そこで加工された肉やワインが販売されていた。

また牛舎も敷地内にあり、誰でも牛を見学することができる。大事に育てた牛はこの場所で捌かれ、ショップで販売したり、レストランで調理される。レストランの中には薪窯があり、自家製の小麦粉でパンを焼いている。毎月月末にはピザを焼いて、ピザナイトを行っているそうだ。

image19 敷地内には宿泊できる場所や店舗がある

image20 レストランの外観

image21 誰でも自由に見学ができる牛舎

共に耕し、共に食べ、共に暮らす。

Umaiaでの生活を体験して、彼らの思想を垣間見ることができた。

今後人口減少はさらに加速して、家族の単位はどんどん小さくなり、つながりは希薄化し、さらに、予測不可能な気候変動や災害も増え、正直、不安なことの方が多い世の中ではないだろうか。しかしここでみた農業や食を通じたコミュニティのように、血縁関係はないけれど、農業を通じて仲間と共に家族のように生活を共にする暮らしのあり方は、次の時代にとって大きな希望になるのではないか。

もちろん他の人と共同で暮らすことは、大変なことやトラブルもたくさんあるだろう。しかし、命の源である食物を共に育て、共に食べ、共に暮らすということが、いつの時代も人間の幸せの本質なのではないか、とUmaiaでの滞在を通じて、改めて強く感じた。

image22 Umaiaの畑から見える景色

TEXT:加藤 なつみ/Natsumi Kato
感性工学=人の感性(こころ)を中心にしたものづくりを手がける一方、ピザハンターとして国内外旅をしながら、その土地で出会った食材をのせたピザを焼き、各地の暮らしや生活の風景を記録する。人と自然、土地をつないでいく。
note : https://note.com/natsumikato723

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