No.394
2021.08.18
思考によりコンピューターへの文字出力ができる技術
Speech Neuroprosthesis
概要
Speech Neuroprosthesis(スピーチ・ニューロプロテーゼ)とは、発話時の脳の活動を脳内の電極を通じて文字変換・出力し、ディスプレイ画面に表示する技術。人の脳とコンピューターをつないで通信を行うブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)の1つとして、University of California San Francisco(UCSF)が開発した。従来技術では、スペルベースで文字を一つひとつ出力するアプローチが主流だったが、本技術は脳の自然な動きを用いて単語単位での出力を可能としている。現時点での出力単語数は50と限られるが、今後開発が進めば、病気・事故などで話す能力を失った人とのリアルタイムなコミュニケーションの実現や、未来的には思考するだけでタイピングが不要な社会を創ることが期待される。
なぜできるのか?
脳外科患者の治療から派生した脳内電極の活用
健康科学の分野で最先端技術の研究・開発を手掛けるUCSFでは、以前からてんかん患者の脳の表面に電極を設置し発作の原因特定を行う研究を行っていた。Speech Neuroprosthesisの開発にあたっては、電極を設置している患者達(話す能力を持つ)の協力を得て、脳の活動解析や発話との関連性を研究、母音・子音を発する声道の動きを制御する脳神経の活動パターンのマッピングなどを実施した。ここでの研究成果がベースとなり、発話能力を失った人への研究につながった(上部画像が電極のイメージ画像、UCSF公式サイトより)。
麻痺患者の協力による研究の進展
15年以上前に脳梗塞で脳幹が損傷し、手足と声道が麻痺して発話できない状態となった30代男性が、研究に全面協力。外科手術で声道を制御する脳領域に電極を設置し、数カ月に渡り脳神経の活動の記録と研究を行った。研究で使用した50の単語は、研究者と被験者とで選定。ディスプレイに表示された質問に対して被験者は50の単語を用いて回答を発しようとし、その際の脳神経の活動を電極を通じて検出・特定、ディスプレイ表示させる取組みを繰り返し行った。結果、1分間に15語・約74%の精度(平均値、最大精度は93%)で単語を解読。長年声帯を動かしていなくても脳の活動を活用でき、麻痺疾患がある人にもSpeech Neuroprosthesisが有効であると実証された。
脳の活動パターンをテキスト変換する独自アルゴリズム
脳神経の活動パターンを精度高く特定の単語に変換するため、機械学習を行うニューラルネットワークモデルを用いてアルゴリズムを開発。電極を設置した人が話そうと思うと、ニューラルネットワークが脳活動のパターンを検出して識別し、どの単語を言おうとしているかを分類・特定する。現時点では、1000以上の文章を生成できる50の単語を判別可能。開発は、Facebook Reality Labsから機械学習の技術支援や資金援助などを受けて進められた。
相性のいい産業分野
- 生活・文化
病気などで話す能力を失った人のQOLの向上、社会活躍機会の拡大
- 医療・福祉
脳内の神経活動から患者の状況を汲み取り行う医療活動
- ロボティクス
人の思考と組合せてサービス提供するロボットの開発
- IT・通信
神経活動パターンを利用した思考を具体化するITデバイスの開発
- メディア・コミュニケーション
ネットワークを通じた脳信号でのコミュニケーションの実現
- アート・エンターテインメント
脳内イメージを可視化したアート作品や映像パフォーマンス
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © University of California San Francisco
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