No.468

2021.10.28

世界最軽量・最薄の心電計測ナノシート

皮膚貼り付け電極 by 東京大学

電極

概要

「皮膚貼り付け電極 by 東京大学」とは、95nm(ナノメートル:1nmは1mmの100万分の1)の薄さで伸縮性と自己接着性を持つナノシート上に作製された電極である。東京大学大学院工学系研究科のメンバーが中心に開発を行った。水蒸気透過性と耐久性も兼ね備えており、1週間皮膚に貼り付けても炎症などを引き起こさずに、心電図などの計測ができる。これまでも皮膚に貼り付ける電極の開発は行われてきたが、薄型のシートでは伸縮性と耐久性の両立が困難で、また1日以上皮膚に貼り付けて計測を行うことも難しかった。研究チームは、耐久性・粘着性・通気性を備えた世界最軽量・最薄レベルの伸縮性ナノシートを開発し、その課題を解消した。今後、医療・ヘルスケア分野において、病気や体調不良を早期発見するためのウェアラブルデバイスへの応用が期待されている。

添付資料

nano1 A:液体(8ml)の重量を保持するナノシートの画像/B:95nmの厚みのナノシートの断面像

nano2 左:皮膚に貼り付けた伸縮性ナノシート/右:拡大図

なぜできるのか?

伸縮性ナノシートの独自開発

シリコーンゴムの一種であるジメチルポリシロキサンの薄いシートを、ゴムのような伸縮性を持つポリウレタンの液に浸して強化し、伸縮性ナノシートを作製。ポリエステルより柔らかいジメチルポリシロキサンをベースに用いて伸縮時に生じる抵抗力を緩和しながら、引張り強度や弾性を持つポリウレタンを表面にコーティングし耐久性を高めている。それにより、95nmと薄いシートでありながら、自重の7万9,000倍の液体(8ml)を保持できる伸縮性ナノシートを開発した。従来のジメチルポリシロキサンのシートは、720nmでも液量3mlを超えると破断するが、伸縮性ナノシートは薄さと耐久性を実現。高い耐久性を持つことで、皮膚の伸縮や日常生活での摩擦などにも耐え、長期間皮膚に貼り付けた計測を可能にしている。併せて水蒸気透過性を持つため、皮膚呼吸が可能で、汗による炎症などの発生も抑えられる。

粘着剤を使わない自然な皮膚接着

伸縮性ナノシートは、糊や粘着性ゲルなどの粘着剤を用いずに、シートのファンデルワールス力で皮膚に接着する。ファンデルワールス力は、分子レベルの電気(プラスとマイナス)の偏りで生じる分子同士が引き合う力のことで、自然界に存在する物理的な引力。伸縮性ナノシートは、その自然な引力で皮膚に接着するため、装着時の皮膚への負荷が低減でき、容易な着脱を可能としている。また研究では伸縮性ナノシートの着脱接着を1,100回繰り返し、接着性能が維持できることを確認したという。

長期間装着でき負担が少ない電極

「皮膚貼り付け電極」として導電性を持たせるため、伸縮性ナノシートの上に70nmの薄い膜状の金を蒸着(物体を蒸発させて表面に付着)。装着時の負担を低減しつつ、長期間に渡る生体情報の取得を可能にしている。従来型の水分を保持して粘着するゲル電極では、1日以上貼り続けると乾燥し、継続的な計測ができない。「皮膚貼り付け電極」は、乾燥電極であり、また攪拌した水中に40時間浸しても耐えうる疎水性を持つ。そのため、入浴も含めた日常生活での継続的な計測を可能としている。実証実験では1週間の連続装着・計測を実現した。

相性のいい産業分野

医療・福祉

日常の健康状態の計測や、病気の予兆を発見できるデバイス

スポーツ

選手の健康状態管理やパーソナルトレーニングメニューの開発に活用

生活・文化

猫や犬などペットの健康状態把握・管理ができるデバイスの開発

農業・林業・水産業

畜産動物の健康・生育管理や、商品価値としての生育データの活用

アート・エンターテインメント

生体情報とVRを連携させた、リアルなアバターでプレイするゲームやイベント

この知財の情報・出典

この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
詳細な情報をお求めの場合は、お問い合わせください。

Top Image : © 東京大学大学院工学系研究科