No.761
2022.09.29
緊張による「ストレス」の発生をリアルタイムで検知
ストレスガス識別センサーアレイ
概要
「ストレスガス識別センサーアレイ」とは、緊張によるストレスで体の皮膚から放出されるガスを検知して識別することができるセンサー。ストレスガスに対して優れた応答性を示すセンサー感応膜をベースに、ガス選択性の異なる4種類のセンサー感応膜を組み合わせることで、ストレスガスのみを他のガスから識別可能となる。小型かつリアルタイムでのモニタリングにも活用できる長時間の安定性を持ち、ウェアラブルデバイスへの応用など、ストレスケア分野での貢献が期待されている。
なにがすごいのか?
ストレスガスを選択的に検知できるセンサーを開発
機械学習によるデータ解析法を開発し、センサーアレイでストレスガスの識別を実現
ストレスケアなどの健康管理に貢献
なぜ生まれたのか?
コロナ禍における社会環境の大きな変化を余儀なくされる中、ストレスケアに対するニーズが高まっている。これらの発生を日常的に監視することで、健康状態の把握や疾病の予防に役立つことが期待されている。しかし、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)や濃縮装置を併用した従来の分析法は大型の装置が必要であり、測定時間も長いためリアルタイム計測ができなかった。このような背景の元、小型で持ち運びができ住宅や車内など誰もがどこででも使えるガスセンサーデバイスに注目した。
なぜできるのか?
揮発性有機化合物を検知するセンサー
開発元の産業技術総合研究所ではこれまで、低濃度の揮発性有機化合物(VOC)を対象とした半導体式ガスセンサーのセンサー材料・デバイスの開発を推進。酸化セリウムナノ粒子を用いた揮発性硫黄化合物(VSC)用のガスセンサー(口臭・歯周病向けの歯科用センサーとして実用化済み)や、肺がん判定指標となるバイオマーカーガスであるノナナールガス向けの酸化スズナノシート製ガスセンサーの開発を行ってきた。「ストレスガス識別センサーアレイ」はこれらの技術をベースに開発された。
酸化スズ粒子によるストレスガスの検知
ナノシート状の酸化スズ粒子(酸化スズナノシート)を元にしたセンサー感応膜と、機械学習によるPCA(主成分分析)を活用。酸化スズで構成されるセンサー感応膜のナノ構造を制御することで、ストレスガスを高感度で検知できる。なお、研究では、スズの結晶の成長時間の変化により、サイズが異なる4種類のセンサー感応膜を作製。このうち、成長が最も初期段階にあるセンサー感応膜が、ストレスガスの主成分の一種であるアリルメルカプタンを優れたセンサー応答値(約50ppmで約80)で識別した。
ストレスガスを高精度で識別
研究では、ストレスガスと他のバイオマーカーガスを識別するため、4種類のセンサー感応膜を組み合わせてセンサーアレイを作製。各種ガスに対する4種類のセンサーの応答値を機械学習の一種であるPCA(主成分分析)により解析したところ、ストレスガスが他のバイオマーカーとは明確に異なる位置にプロットされた。これにより、ストレスガスが識別可能であることが示された。
ストレスガスに対する優れたガス選択性
研究では、ストレスガスの濃度変化に対するセンサー応答値の測定により、検出限界は約200pptと算出された。同濃度のほかのバイオマーカーガスに対するセンサー応答値は20程度であり、開発されたセンサー感応膜がストレスガスに優れたガス選択性を持つことが示された。
相性のいい産業分野
この知財の情報・出典
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