No.902

Tech Direction Awards受賞作品

2024.09.05

“超低遅延”に映像・音声・制御信号を送れるソフトウェア

Live Multi Studio

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概要

「Live Multi Studio (LMS)」とは、映像・音声・機械の制御信号を超低遅延に送ることができるソフトウェア。放送事業者2社が共同開発した映像伝送プロトコル(通信規格)をベースに、インターネット経由の手軽な接続と、双方向のリアルタイム・高品質な伝送を実現している。0.1秒以下の超低遅延伝送に加え、ロスしたパケット(データ)の再送要求、セキュアな伝送などの要件もクリアし、映像制作で安定的に使える仕組みを構築した。放送・映像配信やメディアアートといったエンターテインメント領域に加え、建設・農業など機械を遠隔操作する産業への展開も期待されている。

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なぜ生まれたのか?

TBSテレビとWOWOWが2014年から取り組んできた共同プロジェクトがベースにある。プロジェクトでは、複数のアングルで映像を低遅延に伝送できる配信アプリ「Live Multi Viewing」を開発したが、メンバーらはその後も開発を継続。技術を発展させ、リモートプロダクション(カメラ・スイッチング・リプレイ・テロップ操作を放送スタジオから遠隔で行い番組制作する手法)を低コストに実現するシステム開発を進めた。実現には超低遅延の伝送が必須で、映像伝送プロトコルとソフトウェアの独自開発に至った。

「Live Multi Studio」はすでにリモートプロダクションを実践。「世界陸上オレゴン」や「男子テニス国別対抗戦デビスカップ」のスポーツ中継などを制作した実績がある。2024年3月には一般向けに無償提供を開始し、VTuberライブも含め映像領域で広く活用されている。

なぜできるのか?

特許技術「Multi Latency」

パケット通信網を介したデータ受信の特許技術「Multi Latency」を開発し、「Live Multi Studio」に用いている。データを送信してから応答が得られるまでの速度(ping値)は、最短50ms(ミリセック)と標準速度を確保し、0.1秒以下の超低遅延伝送を実現。さらにパケット欠落時に完成まで再送要求する仕組みを構築し、リアルタイム性と高品質なデータ受信を両立している。また、送信側のネットワーク帯域を増やすことなく複数の受信パターンを持つことが可能。配信・放送用は映像品質を重視し、操作用は低遅延を重視するなど、運用や用途に応じて利用できる。

手軽に使えるシステム設計

インターネット経由のシステムながら、外部アクセスの通信通路を開くポート開放が不要な仕組みで、ルーターの設定も変更せずに、簡単に接続できる。異なるネットワーク同士を中継するゲートウェイも不要で、複数拠点とのスムーズな伝送も実現する。また、ノーコードでインタラクティブな映像表現ができるビジュアルプログラミングツール「TouchDesigner」と連携可能。映像伝送に用いられるSRT、RTMP、NDIなど他プロトコルへの変換にも対応できる。

国際的な暗号化方式の採用

「Live Multi Studio」の通信には、IETFの標準化プロセスを経た国際的な暗号化方式「ChaCha20-Poly1305」を採用した。高いソフトウェアパフォーマンスと安全性を持つ認証付き暗号化アルゴリズムで、ハッキングやサイバー攻撃などのリスクを抑え、データの安全性を確保している。

制御信号のリアルタイムな伝送機能

映像や音声に加え、制御信号も伝送可能な仕組みを構築している。制御信号の伝送により、遠隔でカメラや映像機器の操作が可能。外部イベント会場の機器操作や、人間が立ち入れない場所の撮影・探査など、リモート対応とリアルタイム性のある映像制作・配信を実現する。また、ローカル環境で行っていたインタラクティブなメディアアートのリモート化もでき、リアルタイムな同期演出やバーチャル合成なども可能にする。

相性のいい産業分野

メディア・コミュニケーション

テレビ・映像・映画制作に活用して現場の負荷低減・作業効率化

IT・通信

人体に影響を及ぼすエリアでの撮影・中継に活用

アート・エンターテインメント

バーチャルイベントやライブストリーミングでインタラクティブな体験を提供

製造業・メーカー

遠隔操作に対応する建築機械や農業機械の開発

医療・福祉

離島やへき地の遠隔診療や医療ロボットによる遠隔手術時の補助データに活用

この知財の情報・出典

・特許第7431207号

この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © TBS WOWOW