No.1086

大阪・関西万博

2025.11.21

大阪・関西万博で社会実装した生成的デザイン・コモンズ

OPEN DESIGN 2025

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概要

「OPEN DESIGN 2025」とは、大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)で社会実装した、生成的デザイン・コモンズ(共有地)。万博のさまざまなインターフェースに一貫性を持たせるデザインシステムを、参加と共創を促す“生成的プロトコル”として構築し、リアルとデジタルの双方で展開した。一貫性がありながらもトップダウン的な統制に軸足を置かず、あえて「余白」を持たせることで、誰もが触れられ、解釈や変奏ができる構造に設計。デザインエレメント「ID」(愛称:こみゃく)の二次創作や、万博会場での多様なアーティストの共創といった、自律的な創造や関わり合いを育む場を生み出した。表層的なアウトプットではなく、社会を動かし、“ひらかれた未来“の創造を促すオープンデザインシステムとして、国内外の多様な領域への展開が期待されている。

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opendesi_sub6 VISIONs 引地耕太CEOのnoteより

なぜ生まれたのか?

2025年4月13日から10月13日まで半年にわたり開催した大阪・関西万博で生まれた。万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。気候危機やパンデミック、紛争、AI・バイオテクノロジーの急速な発展など、生命のあり方が揺らぎつつある時代に、改めて「いのち」にフォーカス。人間を含む自然界のさまざまな「いのち」に向き合いながら、世界のアイデア・先端技術の交換や実践を通して、持続的な社会を共創する「未来社会の実験場」として展開した。

そうした全体構想を受け、“誰もが関われる創造の場”を内包したデザインシステムを着想。2022年1月、博覧会協会によるVI(ロゴマークを中心としたデザインシステム開発)策定業務の公募で採用され、ブラッシュアップなどを経て「EXPO 2025 Design System Ver.1.0」を構築した。リアル空間(夢洲会場)への実装にあたっては、会場装飾プロジェクト「EXPO WORLDs」を展開して多彩な共創を生み出した。

2025年10月15日、「2025年度グッドデザイン賞」を受賞し、「グッドデザイン・ベスト100」に選出された。

なぜできるのか?

非中心的で生成的なデザインシステムの構築

特定の制作者やルールに閉じられたものではなく、「開かれたデザイン」の実現を目指し、「EXPO 2025 Design System Ver.1.0」を構築。万博のブランディングを担うデザインシステムとして、統制的な要素を持ちながらもその枠を超え、生成的な「共創のためのプロトコル」として設計した。

構築にあたっては、目指す哲学や戦略を示す5つの「デザインポリシー」を策定。現実・バーチャル双方の空間で、統一感のある万博体験をもたらしながら、成長・進化する「“生きた”デザインシステム」であること、ルールや制度を超えた「問いかけるような実験性と革新性」を持ち、参加と共創を促すプラットフォームであることなどを明文化して公開した。

「デザインポリシー」をもとに設定したコンセプトでは、日本古来の「あらゆるものにいのちが宿る」という世界観を現代に拡張。自然や人間、テクノロジーで生み出された存在など、“八百万(やおろず)のいのち”がめぐり合いながら変化し続け、融け合い、響き合う中で新たなものが生まれる「いのちの循環」をコンセプトとした。3要素(自然・人間・テクノロジー)が個別に存在し、いずれかを中心とする世界で生じてきた環境破壊や分断、対立などへの課題感がベースにある。

非中心的・分散的な“生きた”世界を見据えて設計したデザインエレメントは、個のいのちを表す「ID(セル=細胞)」、「ID」の共同体である「GROUP」、それらが集う未来の生態系を表す「WORLD」という3つの要素で構成。ルール決めではなく、共通基盤となるプロトコルとしてデザインの要素を定義した。
「ID」では細胞の誕生・成長・進化、「GROUP」では出会い・話し合い・協働といった展開も設けて、変化の余地を提示。「目玉(セル)」を付けるといった簡単な条件で、「ID」の二次創作も可能にした。
エレメントのデザインは、万博のロゴとテーマ・文脈をもとに進めた。ほぼ同時期に誕生した万博公式キャラクター「ミャクミャク」とは別に制作したが、コンセプトやデザインなど方向性が揃う形となった。

エレメント制作では、3DCGツール「Houdini」で専用のアルゴリズムを設計して用いた。テクノロジーを使いながら、人間が調整・意思介入するといった、人間とテクノロジーの共創で制作するデザインプロセスを採用。リアル・バーチャル双方での展開を想定して、3Dの造形と2Dの平面的なグラフィックに対応させた。また、アルゴリズムを用いてセル(細胞)を生み出し、そのつながりからフォルムを生成するような実験的な取り組みも行った。

SNS発「こみゃく」ムーブメントの醸成

目玉のようなエレメント「ID」が、「ミャクミャク」の子どものように見えることから、2024年5月ごろからSNSで自然発生的に「こみゃく」と呼ばれ始め、見た目の可愛さも相まって、非公式な愛称ながら定着した。

「EXPO 2025 Design System Ver.1.0」の構築を牽引した引地耕太氏が、SNSで発信された「こみゃく」に対する疑問や質問に答えたり、コミュニケーションを取ったりする中で、次第にファンアートが増加。デザインシステムをベースに、「目玉(セル)さえあれば、色や柄、形は自由」として、二次創作のプロトコルを改めて共有したことでムーブメントが拡大した。
アート・イラストをはじめ、クラフト、映像、テクノロジーを用いたもの、フード、ファッションなど、ジャンルを問わず自由な二次創作が誕生。SNSに投稿された二次創作を引地氏がピックアップしたり、後押ししたりと楽しむ姿勢を示したことで参加しやすい環境が育まれ、無数の創作につながった。万博会期中はもとより、会期後にも二次創作が続いた。

また、万博の夢洲会場内でも「こみゃく」を探す「こみゃくハント」がヒット。壁や地面、大屋根リングの上、案内サインなどを探して歩き、SNSなどでシェアすることが万博の楽しみ方の1つとなった。

会場での世界観の具現化と多様な共創の実現

会場全体に彩りとにぎわいを創出することを目指した装飾プロジェクト「EXPO WORLDs」では、多数のクリエイターやアーティストが集結。「会場ドレッシング」と「会場サウンドスケープ」の2構成で展開した。

会場ドレッシングでは、「EXPO 2025 Design System Ver.1.0」のコンセプトである「いのちの循環」にもとづくビジュアルデザインで、“八百万のいのち”が宿る世界観を体現。ミャクミャクモニュメントをはじめとする各種モニュメントやフラッグ、遊具、建物の壁、地面、ベルトパーテーションなどの細部までデザインを施した。
案内サイン「Co-MYAKU Sign」では道案内だけでなく、会場を訪れる子どもたちを想定した、好奇心をくすぐるような遊び心のあるデザインを採用。ケンケンパやあみだくじ、アンビグラム、ストーリー仕立てのものなど、さまざまな仕掛けをちりばめた。
25組のアーティストによる共創プロジェクト「Co-MYAKU‘25」も展開した。それぞれの個性や技法を活かして、万博会場の壁・床・柱などに思い思いの“八百万のいのち”を描いた。
なお「Co-MYAKU」は、Co-Creation(共創)と“いのち”や“脈”を意味する“Myaku”を組み合わせた造語だが、同時に「こみゃく」の存在も重ね合わせた。

会場内のサウンドスケープ「Soundscape Design」では、プロジェクトのサウンドクリエイティブチームと7名のアーティストが共創。入場ゲート前や大屋根リングの上など、会場エリアをいくつかに分けて異なる音をデザインし、音と空間が呼応するよう構築した。また、全楽曲でBPM(Beats Per Minute、テンポ)を共通化して一貫性を持たせ、個々の色合いを出しながらもエリアを越えて響き合い、融け合うようなサウンドスケープを実現した。

相性のいい産業分野

アート・エンターテインメント

世界規模・国家単位のイベントなどでデザインシステムとして活用

官公庁・自治体

自治体のプロジェクトに用い、市民の自律的な参加や取り組みを推進

製造業・メーカー

ユーザー参加型の商品開発・デザイン企画やブランディングなどに活用

教育・人材

通常では見つけづらい優れたアイデアを持つ人材の発掘や出会いの機会を創出

メディア・コミュニケーション

不特定多数の自発的な広報的活動を後押しして参加や盛り上がりを促進

この知財の情報・出典

この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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■プロデューサー
藤本壮介建築設計事務所 藤本壮介/ 人間 花岡/ 1→10 長井健一/ JKD Collective ブルースイケダ/ ZIZO 川口智士

■ディレクター
VISIONs 引地耕太/ 赤川純一/ AID-DCC 高田柊泉/ かわかたたまみ/ t.i.d.a. 井上尚志/ 高橋建設 髙橋広樹/ 鈴木アンドラシュ貴裕/ 橋本沙知/ はまだみか

■デザイナー
1→10 引地耕太・尾谷真希子・西村彩花/ 人間 松尾聡・山岡拓磨・山根シボル/ 谷香里奈/ Beach 浜名信次/ parks 久岡崇裕/ 堂園翔矢/ 岩木伊織/ 「こみゃく」を共に創ったすべての人たち

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Top Image : © EXPO WORLDs