No.1085
2025.11.18
「皮膚に含まれる成分」でできた針が皮膚内で溶ける技術
溶解型マイクロニードル

概要
「溶解型マイクロニードル」とは、ヒアルロン酸などの「皮膚に含まれる成分そのものを針にしよう」という独自の発想から生まれた、皮膚内の水分で針が溶ける技術で、京都薬科大学発ベンチャー企業のコスメディ製薬が開発した。マイクロニードルは、長さ数百ミクロンの微細な針で、皮膚から薬剤や有効成分を吸収させる技術。薬剤を皮膚に塗布するより、効率的に成分を送達できる可能性が高く、医療・医薬領域では、痛みがなく、簡便に薬剤を体内に吸収させる「注射に代わる薬剤投与技術」として、ワクチン投与などへの応用が期待されている。同社は、「マイクロニードル」を化粧品に応用し、美容注射でしか皮膚内に入らない高分子成分を、セルフケアで安全に送達できる「マイクロニードル化粧品」を世界で初めて製品として上市した(同社発表)。
なぜできるのか?
「注射の代わりに皮膚注入する」という画期的な美容技術
米国などで研究されていた金属やシリコン製のマイクロニードルは、痛みや出血、皮膚内の針の残存など安全性の課題が指摘され、実用化には程遠い存在だった。そのため、より安全性の高い技術を追求し、ヒアルロン酸などの「皮膚に含まれる成分そのものを針にしよう」という独自の発想で、皮膚内の水分で針が溶ける「溶解型マイクロニードル」の開発に成功。製品として事業化するため、承認プロセスに時間を要する医薬品や医療機器ではなく、短期間で製品化できる美容領域に展開する可能性に着目。当時、美容領域ではヒアルロン酸を顔面皮内注射する、アンチエイジング整形が美容皮膚科や整形外科で日常的に行われていたが、高分子ヒアルロン酸を「皮膚から吸収させる」という発想や製品はほとんど存在しなかった。「溶解型マイクロニードル」は針自体がヒアルロン酸で構成されるため「注射の代わりに皮膚注入する」という新しいアプローチの美容技術として化粧品に応用。「マイクロニードル化粧品」という新市場を創出した。
京都薬科大学発ベンチャーによる開発、製品化
コスメディ製薬が「マイクロニードル化粧品」を製品化。同社は、京都薬科大学発ベンチャーで、一般社団法人日本記念日協会より認定を受け、11月12日を「マイクロニードル化粧品の日」として記念日制定。この日付は同社が世界で初めて(※同社発表)マイクロニードル化粧品を上市した日(2008年11月12日)であり、「いい(11)皮膚(12)」の語呂合わせから11月12日を記念日にしたもの。「美容注射に代わる、溶ける針コスメ」としてスキンケアの概念を劇的に変えた「マイクロニードル化粧品」と、同社のマイクロニードル技術を今後医療領域に活用拡大することを社会に知ってもらうことを目的として制定された。また、2025年7月の報道(2025年7月16日付 日経MJ 10面「アナリストの市場ビュー」(富士経済))によると「マイクロニードル」を活用した「ニードルコスメ」の"2025年の市場規模は24年比25.8%増の380億円"とされ、今後も拡大すると予測されている。
新市場を創出したマイクロニードル技術「溶けるマイクロニードル」と「富士山ニードル」
「溶けるマイクロニードル」は、ヒアルロン酸やコラーゲンなど、皮膚に含まれる水溶性高分子成分をマイクロニードルの基材とし、皮膚に貼付するとニードルが直接皮膚の内部に入り、溶解するマイクロニードルで、コスメディ製薬が世界で初めて工業的製法を確立。安全性や簡便性に優れた「注射に代わる新技術」として、医療・医薬領域での応用が注目されている。「富士山ニードル」は溶解型マイクロニードルを化粧品に応用するための「富士山型」設計。医薬品用マイクロニードルは穿刺により、有効成分を含む針を皮膚の表皮、真皮に到達させるが、化粧品用マイクロニードルは針が角質層に留まらなければならない。この条件において、まったく新しい形状とサイズの化粧品用マイクロニードルとして設計。ヒアルロン酸でできた溶解型マイクロニードルの細く短い先端部を、コニーデ型の土台が支える構造になっている。長さは200μm前後で表皮、真皮には穿刺されず、角質層に留まることに成功した。この「富士山ニードル」は、2023年に世界三大デザイン賞の一つである「iFデザインアワード」を受賞。設計の有用性が国際的に評価されている。
業界内で実証された技術力
「マイクロニードル化粧品」を上市した際は、それまで世の中に存在しない、全く新しい価値を持った製品だったため、市場認知に時間がかかることを覚悟していたが、2011年に大手化粧品メーカーが「マイクロニードル化粧品」を採用し、コスメディ製薬の技術力が業界内で実証された。以降、コスメディ製薬のODMサービス提供は約100社を超え、同社は「マイクロニードル化粧品」のパイオニアであり、技術力において信頼のおけるメーカーとして、開発を任されている。また、同社は研究、企画、製造までを自社で一貫して行う体制を京都市内で構築している。ISO22716(化粧品GMP)に準拠したハイレベルな製造環境と品質管理体制で、安定した大量生産を実現。現在マイクロニードル化粧品製造においては、国内トップクラスの製造量を誇るメーカーに成長した。同社はマイクロニードル技術をさらに深化させ続けており、2023年には、アミノ酸の一種であるタウリンを針状に結晶化し、高分子成分をカプセルのように内包させた「タウリン結晶マイクロニードル」の開発に成功。液剤やクリームなどに配合することで、広い部位をケアできる「塗るマイクロニードル」が誕生した。医療・医薬領域では、歯科用マイクロニードルなどの医療機器や「貼るマイクロニードルワクチン」「血糖値を測定するマイクロニードルパッチ型センサー」などの開発を進めている。
相性のいい産業分野
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
詳細な情報をお求めの場合は、お問い合わせください。
Top Image : © コスメディ製薬 株式会社

