No. 160 究極の省エネ状態「人工冬眠」を誘発する神経

Q神経(休眠誘導神経)

(c) 2020 筑波大学

Q神経(Quiescence-inducing neurons:休眠誘導神経)は脳の視床下部に存在し、その活性化によってQ神経誘導性低代謝(QIH;Q neuron-induced hypometabolism)と呼ばれる人工冬眠様状態を誘導する神経。本来冬眠しないマウスやラットの脳からQ神経が発見されたことから、人間にも存在する可能性も示唆され、医療における延命措置や臓器保存や有人宇宙探査への応用も期待されている。

なにがすごいのか?

  • ホメオスタシスを維持しつつ低体温・低代謝状態を一日以上持続
  • マウスだけでなく大型のラットでも長期的かつ可逆的な低代謝に成功
  • ヒトなどの非冬眠動物において冬眠を誘導しうる可能性

なぜ生まれたのか?

ホッキョクジリスなどの動物は、正常時と比べて数%まで酸素消費量を低下させ、外気温よりも数℃高い低体温を保ち、組織障害を伴わずに自発的に元の状態に戻ることができる。このような24時間以上持続する季節性の低代謝状態は「冬眠」と呼ばれるが、冬眠のメカニズムは長年未解明であり、実験用のマウスやラットが冬眠をしないことからも研究を進めることは困難であった。一方で、冬眠のメカニズムが解明できれば、低体温・低代謝状態を制御することで医療応用に繋がることが期待されていた。
2020年、櫻井武(筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構)らは、覚醒中の行動を司る神経ペプチドであるQRFP (Pyroglutamylated RFamide Peptide)を発現する神経を特異的に興奮させることで、マウスにおける低体温・低代謝状態を誘導することに成功し、この神経をQ神経、誘導される冬眠様状態をQIHと名付けた。

参考:理研による解説「マウスを冬眠様状態に誘導する神経回路の発見」

なぜできるのか?

神経伝達物質によるQIH誘導

Q神経は視床下部前方腹側第三脳室周囲に分布している。Q神経は視床下部背内側核(熱産生を司ると言われる部位)に軸索を送り、グルタミン酸などの神経伝達物質を放出することでQIHを誘導する。

QIHによる体温セットポイント低下

体温セットポイントが低下したマウスは、身体を伸ばし進展姿勢のまま動かなくなり、放熱を促す。

相性のいい分野

災害
温暖化による猛暑時の「夏眠」や感染症のパンデミック時の「計画冬眠」
エマージェンシー
心臓発作や脳卒中などの重症患者の救急搬送において、組織の酸素需要を低下させることで、治療介入までの時間を稼ぎ、組織・臓器障害を最小限に抑制
ヘルスケア
再生医療における移植組織・臓器の保存、寝たきり患者の筋萎縮抑制
宇宙
乗船員のエネルギー需要を減らすことで船内に持ち込む食料・酸素を削減、長期滞在における老化・身体機能低下を抑制

知財情報

主な知財ホルダー:櫻井武(筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構)、髙橋徹(筑波大学)、砂川玄志郎(理化学研究所生命機能科学研究センター)

この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Konelはデザインとテクノロジーを融合させてフィールドを定めず制作を行う多国籍クリエイティブカンパニーです。


知財ライティング: 小髙 充弘