No.200
2020.10.20
化粧の常識を塗り替える、一本の糸で紡がれた「人工皮膚」形成技術
ファインファイバー技術 (Fine Fiber Technology)
概要
ファインファイバー技術は、非常に細い繊維(ファインファイバー、極細繊維)を肌に直接吹き付けることで、層状に積み重なった薄膜を肌表面に作る「人工皮膚」形成技術。花王の培った不織布の極細紡糸技術を応用して開発された。従来の不織布より通気性に優れ、化粧水などの液体を吸い取って保持したり、膜全体に液体を均一に広げたりする特長が強化されている。将来的にはスキンケアだけでなく創傷治癒、傷を隠すカバーメイキング、壊死組織再生など形成外科医療への応用も期待されている。
妄想プロジェクト 妄想プロジェクト
肌便座
「直接便座に座りたくないなぁ。でもここは紙のシートも除菌液も設置されてないから、我慢我慢・・・」
公共の場の個室トイレで、そんな気持ちになったことはないだろうか?感染症対策の側面からも、近年は特に物を介した他人との接触が気になる場面が増えているように感じる。そんな時、このファインファイバー技術を応用し、手軽に便座に吹き付けてコーティングすることができたらどうだろう?紙のシートのようにゴワゴワしないし、持ち運んでどこでも使うことができる。素材を水溶性にすれば、用を足したあとはペリッとはがしてトイレにそのまま流すことも可能だろう。同様の考え方で、物や肌をコーティングするさまざまな応用も考えられるため、現代の衛生観念に合った知財として、活用が広がるかもしれない。
なぜできるのか?
蚕が繭を紡ぐように膜を作る「エレクトロスピニング法」
「エレクトロスピニング法」は、プラスに帯電した材料(主にポリマー溶液)をマイナスに帯電した対象物表面に向けて噴射し、ナノファイバー形状へ紡糸する技術。ポリマー溶液はノズルを通して糸状に引き伸ばされながら勢いよく噴き出し、対象物表面で何層にも重なりあっていく。こうして1マイクロメートル以下の極細繊維の膜が形成される。この膜は、膜の縁に向かって薄くなるので肌表面との段差は極めて小さい。そのため剥がれにくく、肌との境目が見えないほど自然に馴染む。
液体をしっかりと染み渡らせる「毛管力」
「毛管力」とは、細い管(毛細管)に液体が浸透して上昇(あるいは下降)する物理現象「毛細管現象」における、管が液体を吸い込む力のこと。
ファインファイバー技術では、繊維同士の隙間が管のような役割を果たすため、重力や上下左右に関係なく液体が均一に行き渡る。化粧品製剤は保持されながらも、繊維同士の隙間からの通気で蒸れが逃がされるので、肌が閉塞しにくい。
相性のいい産業分野
- 医療・福祉
傷跡や入れ墨、アザやシミを隠す人工皮膚「絆創膏皮膚」
薬剤による創傷治癒に伴って皮膚再生が促されるケミカルピーリング
- 生活・文化
ファインファイバー技術と日焼け止めの掛け合わせで開発、ひと夏使い続けられる「着ける日焼け止め」
- アート・エンターテインメント
皮膚を傷つけるリスクの低い、映画・舞台での役作りや特殊メイキング
- ロボティクス
アンドロイドが身につけられる皮膚
この知財の情報・出典
特開2020-90487:皮膚用被膜
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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