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2024.06.03
知財ニュース
AI発明に対する特許申請を巡る裁判、出願者の請求棄却
2024年5月16日、東京地裁は、特許庁長官を相手取ったAI発明に関する裁判で、原告・特許庁長官の請求を棄却した。本件では、特許法がAI発明を「発明」に含むかどうかが争点となった。
原告は、特許庁に対し、特願2020-543051号の国際出願において発明者として「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載した。しかし、特許庁長官は、発明者の氏名は自然人のものでなければならないとし、補正を命じた。原告がこれに応じなかったため、出願が却下された。これに対し、原告はAI発明も特許法にいう「発明」に含まれると主張し、出願却下は違法であると訴え、本件処分の取消しを求めていた。
裁判所の判断は以下の通りである。
・「発明者」という概念
知的財産基本法2条1項は、「知的財産」とは、人間の創造的活動により生み出されるものであると規定している。この規定により、「発明」とは自然人により生み出されるものと解するのが相当である。特許法36条1項2号により、発明者の氏名は自然人のものであることが前提とされている。また、特許法29条1項に基づき、「発明をした者」とは自然人を指すと解するのが相当である。
・特許法におけるAI発明者の取り扱い
特許法に規定する「発明者」にAIが含まれると解した場合、AI発明の発明者を特定する根拠が欠如している。また、特許法29条2項における進歩性の判断基準も、自然人を前提としているため、AIに適用するのは相当ではない。AI発明に関する権利の存続期間についても、現行特許法とは異なる制度設計が必要となる可能性がある。
・原告の主張に対する判断
原告は、特許法がAI発明を想定していなかったことを理由に、AI発明を保護しないのは不当であると主張する。しかし、現行特許法の枠組みでは、AI発明に係る発明者を定めるのは困難である。また、TRIPS協定や欧州特許庁の見解も、日本の特許法の解釈を直ちに左右するものではない。知的財産基本法2条1項も、AI発明を想定していなかったことが明らかである。したがって、原告の主張はいずれも採用できない。
結論
これらの事情を総合考慮し、特許法に規定する「発明者」は自然人に限られると解するのが相当である。よって、特許庁長官が発明者として「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載したことを理由に出願を却下したことは適法であると認められる。したがって、原告の請求は理由がないため、これを棄却する。
本件において裁判所は、原告の請求を棄却し、AI発明は特許法の「発明」に含まれる場合には、現行法では発明者の氏名として自然人を記載する必要があるとする特許庁の解釈が適用された。
Top Image : © Supreme Court of Japan