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2021.09.18

知財ニュース

約1200年前の平安京の音風景を創造する「NAQUYO」とは─文化研究と先端技術が融合

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平安京ではどのような音が聴こえていたのか。

京都の文化研究と先端技術を融合させ、約1200年前の平安京の音風景(サウンドスケープ)を創造する試みが行われている。プロジェクト名は「NAQUYO(ナクヨ)-平安京の幻視宇宙-」。京都市や大学・企業・商工会議所などで構成されるKYOTO STEAM(キョウトスティーム)-世界文化交流祭-実行委員会が主催し、2020年10月22日から開始している。

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NAQUYOでは、平安京の音環境に関する学術的な調査を土台に、電子音楽・音響などの先端技術を活用して音風景の創造に挑戦している。ベースとなっているのは、音楽学者である中川真氏の書籍『平安京 音の宇宙』だ。

中川氏は歴史書や文献などから、平安京を中心とした東西南北の方角でそれぞれの音が決められていたと推測(北=シ、東=ソなど)。平安京の都市設計には、東西南北を四神(東/青竜、西/白虎、南/朱雀、北/玄武)が守護するという「四神相応」の考え方があるが、音程もそれに即して定められていたと考えた。そして平安期から残る音として、京都の梵鐘(寺院の釣鐘)の音・調律の調査を実施。結果、調査可能な梵鐘の半数以上で方角に基づいた音が使われていたことが分かったという。NAQUYOは、この平安京の都市設計思想・宇宙観が基となっている。

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音風景の創造は、サウンドアーティストの長屋和哉氏と、クリエイティブ支援を手がけているMUTEK.JP (ミューテック)が牽引。長屋氏は前述の書籍に影響を受け、以前から平安京の音環境を再現したいと考えており、MUTEK.JPと検討を行っていた。KYOTO STEAMとMUTEK.JPのコラボレーションをきっかけに、実現に至ったという。

音風景の創造にあたっては京都の梵鐘の音を録音。さらに、京都芸術大学の仲隆裕教授と学生の協力を経て当時の音環境の調査を行った。『枕草子』など平安時代の文献にある音や、当時の生活から想定される音、現存する場所で聴こえた音などを調査・分析し、創作材料としている。

2021年3月には、2020年度の活動成果としてパフォーマンスライブを開催。長屋氏は、約400個のおりん(仏具)を用い、梵鐘の音や映像と組合わせて音風景を表現。MUTEK.JPは梵鐘の響きを活用し、平安京の各所に配置された梵鐘の音を仮想的に創造。それを3次元的な音の拡がりを創り出す立体音響システムで再生。参加クリエーターらが電子音楽・映像・ダンスなどと組合わせて、音風景を表現した。

2021年3月27日に開催された「NAQUYO LIVE PERFORMANCE」

MUTEK.JP は、1999年にカナダ・モントリオールで始まったグローバルな芸術文化活動「MUTEK」の日本運営団体。電子音楽・デジタルアート・ビジュアルアートなどをテーマとしたフェスティバルを手がけている。活動コンセプトは、文化芸術分野での人材発掘・育成と新しいアイデア・コンテンツの創出支援。フェスティバルを軸に、自由で実験的な表現の場を提供するプラットフォームを構築している。

KYOTO STEAMは、「アート×サイエンス・テクノロジー」をテーマに文化・芸術の新たな可能性と価値を京都から世界に問う文化芸術の祭典。プログラムの1つであるNAQUYO では、1200年前の音風景再現の挑戦と、そのプロセスを公開することで、平安京の都市思想や世界観が現代にもたらす意義を共に考える、開かれた活動を目指している。

両者が中心となって進めるNAQUYOは、2021年度も引き続き開催予定。現時点で次の展開の詳細は明らかにされていないが、今後も様々なクリエーターとコラボレーションし、新たな芸術表現を追求していくという。趣の異なる音風景の創造が期待される。

KYOTO STEAM公式サイト「NAQUYO-平安京の幻視宇宙-」
プロジェクト開始時のプレスリリースはこちら

Top Image : © KYOTO STEAM-世界文化交流祭-実行委員会

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