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2025.08.22
知財ニュース
筑波大学、音を出さず重低音を体感できる静音型EMSサブウーファーを開発

筑波大学の研究グループは、音を鳴らさず身体に重低音を提示できる「静音型EMSサブウーファー」を開発した。周囲への騒音を気にすることなく身体で直接「重低音」を感じられる、新しい携帯型のサブウーファーシステムで、従来のスピーカーと同等の迫力と没入感を、いつでもどこでも静かに楽しめるようになる。VRやオンラインライブはもちろん、日常の音楽鑑賞のスタイルそのものを変える可能性を秘めた技術として、注目を集めている。
筋肉に微弱な電気を流す「筋電気刺激(EMS)」と物理的な「低周波振動」の組み合わせで、ユーザーはウェアラブルデバイスを装着するだけで、音を聴くのではなく、体の芯に響く振動として体感できる。空気の振動を介さないため、音量を上げても周囲に音が漏れる心配がない。ユーザーの腹部に装着したEMSパッドを通じて、低域の響きとキック音のタイミングを再現する。
システムは、音楽信号から72Hz以下の低周波を抽出し、さらに180Hz以下でキック成分を検出する信号処理部を搭載。これをリアルタイムでEMS信号に変換し、リズムや迫力を触覚として身体に提示する。EMSは生理的にわずかな遅延が生じるため、実験により約40msの遅れを特定し、音声と映像に同量の遅延を加えることで感覚を同期させた。
実際に行われた実験では、同システムを装着して24名の被験者が、VRライブ映像を視聴し、提案方式と従来のサブウーファーや市販の振動デバイスを比較した。大型スピーカーを使った場合と同等のリズムの取りやすさや音の厚みを感じられることが実証された。最初は少し不思議なEMSの刺激も、慣れることでより自然になり、没入感が高まるという結果も出ているという。
今後は、個人差に応じた出力キャリブレーションや、複数の周波数帯を扱えるマルチバンドEMS化を進める予定だ。これにより映画やゲーム、舞台芸術など多様な分野で、静音かつ可搬性に優れたウェアラブル音響デバイスとして展開することを目指す。研究成果はIEEE Accessに掲載されている。
Top Image : © 筑波大学