No.1095

2025.12.03

繊維そのものに吸熱・放熱機能を持たせられる“温調樹脂”

コンフォーマ®

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概要

「コンフォーマ®(Comformer®)」とは、繊維そのものに温度調節機能を持たせられる潜熱蓄熱性の樹脂。物質が「相変化」(固体・液体の間などで状態が変わる)する際に生じる「潜熱」を用いた蓄熱材ながら、固体のまま状態を変えずに吸熱・放熱し、20~35℃前後の温度域で調節できる。従来製品では、「潜熱蓄熱材」を入れたマイクロカプセルを繊維に付着させるなどで機能性を持たせていたが、「コンフォーマ®」はそのまま糸化することが可能。広範囲への搭載や安定的な温度調節ができ、機能は半永久的に持続する。衣服や寝具に加え、自動車の内装、建築資材といった多様な領域での活用が見込まれており、酷暑・極寒などの厳しい環境下での快適性の向上や省エネルギー化への寄与が期待されている。

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なぜ生まれたのか?

蓄熱材は、周囲から熱を蓄え(吸熱)、蓄えた熱を周囲に放つ(放熱)。その1つである「潜熱蓄熱材」は、物質の状態変化に伴って出入りする「潜熱」を用いており、固体から液体に融ける際に吸熱し、液体から固体に凝固する際に放熱する。一般的な「潜熱蓄熱材」では、無機塩やパラフィン(石ろう)、低分子有機化合物などが使われている。いずれも吸熱時に液体になるため、容器やカプセルなどへの封入が必要となり、活用範囲が限られる。そうした課題を受け、固体のまま状態を変えずに利用でき、液体漏れのリスクがない「コンフォーマ®」を開発した。

なぜできるのか?

独自ポリマー技術の応用

樹脂成分の相転移(温度変化によって分子の動きが変わる)で生じる「潜熱」を活用し、樹脂そのものに温調性能を搭載。独自のポリマー技術で、固体の形状を保ったまま吸熱・放熱できる樹脂製の潜熱蓄熱材を構築した。持続可能性にも配慮し、原料の30~40%に植物由来の成分を用いている。
樹脂の繊維化は技術的ハードルが高かったが、2020年に短繊維を完成させ高機能掛け布団の中綿に採用された。その後も開発を進め、2023年に長繊維化に成功。ポリエステルやナイロンなどの一般的な合成繊維と同じように使える、温調樹脂の糸を実現した。
暑い時には吸熱し寒い時は放熱するため、「コンフォーマ®」を用いたアパレルでは、従来製品よりも長く温度を保持でき、室内から屋外へ出た際の温度変化を抑えられる。大阪・関西万博のパビリオン「住友館」では、ユニフォームに採用した。

機能・技術を組み合わせできる拡張性

機能性繊維や印刷技術などの掛け合わせができ、多様なプロダクトを生み出せる。例えば、接触冷感繊維や、汗などの水分を吸収して発熱する吸湿発熱繊維などの組み合わせが可能。コラボレーションによる製品開発にも取り組んでおり、2024年には住友化学、リベルタ、ユタックスの3社共同で「氷撃α(アルファ)」を開発、同年6月に販売を開始した。
「氷撃α」では、「コンフォーマ®」の繊維に太陽光からの熱をやわらげる遮熱繊維を配合し、オリジナルの生地を開発。キシリトール・エリスリトールを含むプリントで冷感性能を施す、ユタックスの「冷感プリント」技術を組み合わせ、高い接触冷感性と温調機能を備えたクーリングウェアを実現した。「冷感プリント」は吸熱特性を持ち、水分(人の汗や湿気)を吸収すると生地の温度を下げる。技術の組み合わせで、従来の冷感製品の課題であった衣服内の温度変化を抑え、酷暑の環境下や屋外での長時間作業時でも冷感効果や快適性を持続する。

相性のいい産業分野

製造業・メーカー

仕事着や幅広い世代の制服、運動用ユニフォームに活用

生活・文化

寝具・家具・ファブリックに用いて、快適な生活環境を構築

住宅・不動産・建築

住宅における省エネや快適性向上に寄与

流通・モビリティ

自家用車やバス・電車・飛行機など公共交通の内装に活用

環境・エネルギー

食品や医療品などのパッケージに用いて、運送時のエネルギー消費を削減

この知財の情報・出典

問い合わせ先:住友化学株式会社 機能材料事業部(製品に関するお問い合わせ | 住友化学株式会社

【学会発表・刊行物等】
・小野精二; 住友化学, pp58-(2021)
・小田精二; 繊維機械学会誌 : せんい, 73(8), pp.44-(2020)
・小田精二; 温度調整機能を有する新規樹脂開発、および繊維への応用, 日本繊維機械学会 第25 回秋季セミナー (2018)
・堀部明彦監修; 熱制御に向けた相変化材料PCMの開発と応用, pp.90-98, 236-246, シーエムシー出版(2024)
・山本卓明; 生活快適性に貢献する温調樹脂(高分子蓄熱材)の開発, 繊維学会年次大会, 3C05 (2024)
・西田竹德; 生活快適性・省エネに貢献する温調樹脂(高分子蓄熱材)の開発, プラスチック成形加工学会第35回年次大会, H-209 (2024)
・石島大, 高村秀紀, 西田竹德; 寸法制約のある物件を対象としたペレット状潜熱蓄熱材による遮熱効果の検証, 日本建築学会大会学術講演梗概集(関東), 環境工学, pp. 809-810 (2024)
・西田竹德, 高村秀紀; 木造戸建て住宅の桁上断熱面にペレット状潜熱蓄熱材を設置することによる遮熱効果の検証, 日本建築学会大会学術講演梗概集(九州), 環境工学, pp.869-870 (2025)            etc.


この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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