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2024.09.24
知財ニュース
光で冷える「半導体光学冷却」実証に成功、千葉大学ら研究チーム ―ハロゲン化金属ペロブスカイトを利用
千葉大学の山田泰裕教授らの研究チームは2024年9月2日、光を当てることで物質を冷やす「半導体光学冷却」の実証に成功したと発表した。実証には「ハロゲン化金属ペロブスカイト」を利用。大阪大学、京都大学との共同研究で実証した。
ハロゲン化金属ペロブスカイトは、半導体材料の1つで、シリコンを使わない次世代太陽電池やLEDなどの発光デバイス材料として、近年注目を集めている。
半導体光学冷却では、物理的に孤立した状況にある物質でも光で冷却でき、熱を逃がす必要もない。今後の技術進展によっては、冷媒やコンプレッサーなどによる従来の冷却方法とは異なる、新たな冷却方法が誕生する可能性がある。
発光とは、物質が光のエネルギーを受け取って高エネルギーの状態(励起)になり、元の状態に戻るときに光を放出する現象を指す。放出されなかったエネルギーは熱として物質内に留まり、温度上昇を生じさせるが、光を吸収しやすいペロブスカイトの構造を持つハロゲン化金属ペロブスカイトは、受け取った光で高効率に発光できる。
さらに、結晶を構成するイオン・原子の熱振動(フォノン)と電子の相互作用(電子-フォノン相互作用)が強く、「アンチストークス発光」が起きやすいという性質も持っている。アンチストークス発光は、照射した光よりも高いエネルギーを光で放出する現象。入射した光のエネルギーに自身の熱エネルギーを足して発光するため、物質内の熱エネルギーが失われて、温度が下がる。
今回の実証では、高い発光効率とアンチストークス発光が起きやすい性質を持つ材料として、ハロゲン化金属ペロブスカイトを採用した。
光で物質を冷やす「光学冷却」はこれまでも研究が行われてきた。発光効率がほぼ 100%の希土類イオンを分散させた結晶により、すでに光学冷却を実現している。ただ希土類材料は、光の吸収率が小さく冷却限界があるため、冷却デバイスに用いるのは難しいと考えられている。
また半導体を用いた従来の光学冷却の研究では、発光効率を100%に近づけることが難しく、冷却が可能な水準には達していなかった。
そうした中で、新たな材料として期待されているのが、高い発光効率を持つペロブスカイトの「量子ドット」(直径 10nm 以下の小さい結晶)だ。一方で、量子ドットは壊れやすく、大気暴露や継続的な光照射ですぐに発光効率が下がるという課題があった。
そこで研究チームは今回、量子ドットをペロブスカイト結晶中に埋め込んだ「ドットインクリスタル」の形状に着目。CsPbBr3 という組成のペロブスカイト量子ドットを、Cs4PbBr6 の結晶の中に埋め込んだ構造(CsPbBr3/Cs4PbBr6)のドットインクリスタルを作製し、実験に用いた。
実証ではまず、発光冷却の妨げとなる「オージェ再結合」の起こりやすさを調べた。照射した光のエネルギー密度が高くなりすぎると、発光せずにエネルギーを熱として放出し、光加熱が起きる。こうした現象をオージェ再結合と呼び、励起子(電子と正孔のペア)の再結合の過程で起こる。
検証の結果、比較的弱い強度でも光加熱が生じることが判明。光学冷却の実現には、弱い強度での光の照射が必要だとわかった。一方で、光が弱すぎると冷却もされないというジレンマもある。
結果を踏まえ、発光効率の高い部分だけを選択的に光照射するため、マイクロサイズの結晶を作製。発光冷却の実験では、複数のマイクロ結晶で光による冷却を観測した。また、光の強度を変えることで、冷却から加熱に移り変わる様子も観測できたという。
研究では、半導体材料による光学冷却の実証に加え、オージェ再結合による光学冷却の限界も明確になった。その成果は、米国化学会の学術誌「Nano Letters」に掲載された。
研究チームは発表の中で、効率的な光学冷却には、量子ドットの密度を上げながら、オージェ再結合が起こらないようにする必要があると記載。今後は、量子ドットの周囲の物質を工夫するなどの試みが必要としている。
ニュースリリースはこちら
「Nano Letters」掲載論文:Optical Cooling of Dot-in-Crystal Halide Perovskites: Challenges of Nonlinear Exciton Recombination
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Top Image : © Chiba University