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2021.08.05

知財ニュース

Twitterで物議を醸した「排除ベンチ」の突起の移動が可能に―デザインによる不寛容への抵抗

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7月8日に、東京都中央区の京橋に設置されたベンチから、座面を区切っていた突起を動かす作業が行われた。

このベンチは、仕切りや手すりなどの突起によってベンチの上で人が眠れないようにする「排除ベンチ」と呼ばれるものだ。4月にはツイッター上でこのベンチを巡って議論が交わされた。

デザインに込められた排除の意図を批判する上記のツイートに対して、ベンチをデザインした田中元子氏からの返信があった。田中氏によると、制作チームはベンチの突起に抵抗していたという。その結果、苦肉の策として、ベンチの突起を可動式にしたそうだ。

田中氏は、2016年に「1階づくりはまちづくり」をモットーとした株式会社グランドレベルを設立し、「土地」「建物」「施設」「まち」の価値を最大限に高めるプロジェクトを行ってきた。2017年には、ベンチの設置によってまちの暮らしや人々の健康を高めていく活動を行う「JAPAN / TOKYO BENCH PROJECT」を始動した。

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今回話題となったベンチも、もともとは2020年から始まる「東京ビエンナーレ」と連動し、会場となる東東京のエリア一体に“人・まち・アート”をつなぐベンチを設置するというプロジェクトとしてスタートしたものだ。

そのキックオフとして、2019年に約1ヶ月にわたって京橋の商業オフィスビル 「東京スクエアガーデン」の公開空地に20台のベンチと通常の2倍サイズのベンチが設置された。そのときに作られたベンチは突起のないフラットな座面だった。

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パブリックスペースにベンチを溢れさせ、日常の中でまちの風景を一変させることに成功し、 ビルのオーナーからの依頼を受けて恒常的設置が決定。しかし、新しいデザインの試作の中で、ビルの関係者からベンチへの突起を要望する声が出てきた。ビルの管理の担当者がホームレスやスケートボーダーによるベンチの占領や破壊を恐れたためだ。

当初の目的と反する依頼に対して、「誰も排除したくない」との思いから、設計デザインを担当した株式会社イトーキもプロジェクトメンバーも突起の設置に反対したそうだが、ベンチの常設のためには突起が必要との要望を受けることに。最初は2.5センチ程度の薄い突起を設置したが、もっと高くしてほしいとの要望を受けたそうだ。

イトーキの発案により、突起を可動式にしてテーブルとしても使えるデザインになり、突起が不要になったときにはネジで外すことができるようになった。設置時には突起の移動を提案したが、それは受け入れられなかった。

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しかし、ベンチへの批判ツイートが話題になったことを受けて、ビル側は試験的に突起を動かすことを決定。東京ビエンナーレ(7月10~9月5日)への会期中は、ベンチの突起の固定ネジをすべて外し、突起を自由に動かすことができるようになった。

近年、ホームレスが滞在できないようにする「排除アート」が増えている。今回のベンチをめぐる議論は、排除を目的とした取り組みを容認せず、デザインからのアプローチやSNSの声を通して寛容な社会の実現に向けて働きかけることが可能だということを実証した。

「JAPAN / TOKYO BENCH PROJECT」公式HPはこちら

Top Image : ©JAPAN / TOKYO BENCH PROJECT

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