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2025.10.22
知財ニュース
世界初、東大が長時間使用できる指輪型無線マウスを開発―ARグラスの操作性向上へ

東京大学大学院工学系研究科の研究グループは、指輪型入力デバイスが物理的に小さな電池しか搭載できず短時間で電池切れを起こすという課題に対し、一度のフル充電で一ヶ月以上動作できる、超低電力な指輪型無線マウスを世界で初めて実現した。
指輪型入力デバイスは、指に装着してジェスチャーなどの動きを検知する小型のウェアラブルデバイスで、ARグラスなどの入力インターフェースとして使用されている。指の微細な入力動作も正確にセンシングできるため、ユーザにとって疲れづらく長時間利用できるうえに、周囲にも目立たず扱えるという利点がある。
これまでの研究では、BLEなどの低電力無線通信を使い指輪からARグラスへ直接通信を行っていたが、BLEが指輪の大半の消費電力を占めるため、指輪を常に使うと数時間で電池が切れてしまっていた。
本研究では指輪の近くに装着できるリストバンドをARグラスとの中継器として用い、指輪〜リストバンド間では超低電力な磁界バックスキャタ通信を使うことで、長時間駆動を可能にする指輪型無線マウス「picoRing mouse」を開発した。この指輪型無線マウスは、消費電力の大部分を占める通信システムの消費電力を従来の2%まで削減しているとのこと。
世界で初めて指輪型デバイスにμW(マイクロワット)級の無線通信技術を導入しており、これは近距離無線通信規格の一つであるNFCなどでも利用される、外部からの磁界バックスキャタ通信技術(磁界を利用した無線通信技術)に着想を得たのだという。
従来の磁界バックスキャタ技術は無線通信に加え、無線給電も同時に行うようにコイルを設計するため、通信距離が1〜5cm程度と短い状況に特化した利用しかできなかった。
研究チームは、分散コンデンサを利用した高感度なコイルとバランスドブリッジ回路を組み合わせ、磁界バックスキャタの通信距離を従来から約2.1倍延ばし、指輪〜リストバンド間(12〜14cm程度の距離)での信頼性の高い低電力通信を実現している。リストバンドからの送信電力が0.1 mW程度と低い状況でも、外部の電磁ノイズなどに対して頑強な通信性能を発揮できる。
また、磁気式トラックボールとマイコン、バラクタダイオード、コイルを組みあせた負荷変調システムだけで実装できるため、最大消費電力449μW(マイクロワット)で済む超低電力なウェアラブル入力インタフェースの実現が可能だ。
軽量で目立たない指輪型デバイスは、ARグラスの操作性を飛躍的に向上させ、今後普及するARグラスを屋内外問わず使用するきっかけとなるのみならず、ウェアラブル無線通信の研究の発展に寄与することが期待される。
Top Image : © 東京大学大学院工学系研究科
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